東京地裁が課徴金取消、インサイダー取引と課徴金について
2019/06/05 商事法務, 会社法

はじめに
日本板硝子に絡むインサイダー取引で課徴金納付命令を受けていたシンガポールのファンド運用会社が国に取消しを求めていた訴訟で東京地裁は先月30日、納付命令を取り消していたことがわかりました。課徴金の判決による取り消しはこれで2度目とのことです。今回はインサイダー取引と課徴金について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ガラス製造大手「日本板硝子」(東京都)が2010年8月に公表した公募増資に関してシンガポールのファンド運用会社「MAM PTE」の当時のファンドマネージャーが、公表前に情報を入手し同社の株式を空売りしていたとされます。これに対し金融庁は2014年にインサイダー取引に当たるとして800万円の課徴金納付命令を出しました。同社は東京地裁に取消しを求め提訴しておりました。
インサイダー取引とは
会社の関係者や会社の情報を知りうる者が、一般に情報が公開される前にその情報に基づいて株式等の取引を行い利益を得る行為をインサイダー取引と言います。このような行為は一般投資家から見て極めて不公平であり公正な金融商品の取引を害するとして金商法で禁止されております(166条、167条)。違反した場合には刑事罰の対象となっており、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条の2第13号~15号)。法人の役員等が行った場合には法人に対し5億円以下の罰金となります(207条1項2号)。またその取引で得た利益も没収されることとなります(198条の2第1項、2項)。
インサイダー取引の要件
166条1項によりますと、「会社関係者」が「上場会社等に係る業務等に関する重要事実」を知った場合、その事実が公表された後でなければ株式等の取引をしてはならないとしています。以下具体的に見ていきます。
(1)会社関係者
インサイダー取引の対象となる者は、当該会社の役員や従業員、過去1年以内にそれらの立場にあった者、子会社等の関連する会社でそれらの立場にある者、スポンサーや取引先、さらにはそれらの者からたまたま情報を聞いた者などが含まれ相当広範囲に渡ります。
(2)重要事実
そしてインサイダー取引の対象となる情報、すなわちインサイダー情報も多岐にわたります。まず会社が募集株式を発行する、資本金を減少する、剰余金を配当する、合併・分割などの組織再編(M&A)を行うといった会社の決定事項が挙げられます。次に会社で事故が生じた、訴訟が発生した、関連会社が倒産した、主要取引先との取引が停止したなどの発生事由や会社の業績予想、さらには投資判断に影響を及ぼしうるその他の事由も含まれることとなります。
(3)取引行為
上記インサイダー取引の対象となる者がインサイダー情報を知った場合、その事実が公表された後でなければ取引をすることができません。ここに言う取引行為とは株式等の売買や有償での譲渡、譲り受け、組織再編に伴う承継、デリバティブ取引などが含まれます。ここで注意すべき点はこれらの情報がインサイダー情報であることを「知りながら」取引する必要があることです(故意)。そしてここにはもしかしたらそうなのではないかという程度の認識も含まれるということです(未必の故意)。
課徴金について
インサイダー取引には上記の罰則の他に課徴金の対象となっております(175条、175条の2)。課徴金の趣旨は違法なインサイダー取引によって得た利益を剥奪するというものです。そのため算定方法は売付け価格に数量を乗じたものから公表後2週間の最安値に数量を乗じたものを控除した額が課徴金の額となります。
コメント
本件で国側は公募増資の情報を証券会社の担当者がMAM社側に伝えていた旨主張していましたが、東京地裁は市場の状況などから公募増資を推測できたとする原告側の主張を否定しきれないとしてインサイダー取引に該当しないと判断しました。公募増資の事実はインサイダー情報に該当しますが、その情報を関係者等から得たのではなく市場の状況から判断した可能性が認められたと言えます。このようにインサイダー取引規制は対象範囲が広く、また要件も複雑です。外見上無関係者がたまたま情報を得た場合も該当する可能性があります。インサイダー取引の疑いが生じた場合は関係取引先なども捜査されることがあります。どのような場合に違法となるのかを正確に把握し周知徹底していくことが重要と言えるでしょう。
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