取締役の報酬透明化へ、会社法改正の動き
2019/01/09   総会対応, 会社法

はじめに

 法務省法制審議会の会社法部会がまとめた会社法改正要綱案では取締役の報酬の透明化が図られる内容であることがわかりました。報酬について株主が統制しやすい内容となります。要綱案では他にも社外取締役設置義務の拡大なども盛り込まれておりますが今回は報酬について見ていきます。

取締役の報酬規制

 会社法361条1項によりますと、取締役の報酬は定款で定めるか、株主総会の決議によって定めるとしています。報酬の額、支給の時期や方法の決定を無条件で取締役会に一任することは認められませんが、全取締役に対する報酬の総額を株主総会で決定すれば、個々の取締役への配分を取締役会に一任することは可能です(最判昭和60年3月26日)。「報酬」の定義については「職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益」とされ、退職慰労金やストックオプション等も含まれるとされます(最判昭和39年12月11日)。以上が現行の報酬規制となります。

改正の方針

 改正要綱案では取締役の報酬について取締役会で決定した場合には、その基本的な考え方や方針を開示し、株主総会に説明するなどの義務が盛り込まれます。また金銭以外の報酬の場合、その内容や支給基準なども示されます。これにより株主総会が報酬の妥当性を判断でき、疑義がある場合には追求を行えるようになります。なお個々の取締役への報酬額の開示は見送られたようです。以下具体的に見ていきます。

改正案の概要

(1)報酬等の決定方針
 取締役会は報酬の内容等を決定した場合には株主総会で決定方針の内容等を説明することが求められます。取締役会はそれらの決定について個々の取締役に委任することができず、また監査役会を設置している公開大会社や監査等委員会設置会社の場合は報酬の決定方針を決めることが義務付けられます。

(2)報酬が金銭以外の場合
 報酬が金銭以外のもの、例えばストックオプションや当該会社の新株予約権である場合にはその数や種類、上限などを株主総会で決定することが求められます。それ以外のものであっても、その具体的な内容な数や種類、上限については株主総会の決定が必要となってきます。

(3)情報開示
 会社役員の報酬等について、公開会社の場合は事業報告に以下の内容盛り込み情報開示することが求められます。
①報酬等の決定方針
②報酬等についても株主総会での決議事項
③取締役会の決議による報酬決定の委任事項
④業績連動型報酬に関する事項
⑤報酬としてのストックオプションや新株予約権に関する事項
⑥報酬の種類ごとの総額

コメント

 日産自動車の元会長カルロス・ゴーン氏の金商法違反容疑での逮捕を機に、役員報酬の透明化が議論されております。上記のように現行会社法では報酬総額を定款か株主総会で決定すれば、個々の取締役への報酬額は取締役会や代表取締役が決定できます。具体的な報酬額については明らかにされません。総額さえ決めておけばお手盛りの弊害は回避できると考えられたからです。しかし今回の件でより透明化が求められることになりました。個人別の報酬額の開示は見送られましたが、報酬額の決定方針の開示や金銭以外の報酬の場合は株主総会での決定が必要となり、事業報告に詳細の記載が求められることとなります。本改正案は2019年通常国会に提出され、2020年の施行を目指すとのことです。役員報酬規制について正確に把握し、法改正に備えておくことが重要と言えるでしょう。

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