ゼロから始める企業法務(第5回)/株主総会業務と専門家との連携
2021/11/05   商事法務, 総会対応

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は上場企業の株主総会業務で重要な、各専門家との連携方法についてお話いたします。

 

上場企業の株主総会では専門家との連携がとても重要


上場企業の株式は株式市場で広く流通するため、非常上場企業とは比べものにならない数の株主が存在します。その中には株主総会当日に出席できない株主もいますので、その場合は手許に届いた招集通知の内容を確認のうえ、書面により議決権を行使することになります。そのため、招集通知には高い適法性と正確性が要求されます。法的な瑕疵はもちろん、単なる言葉の誤記や数字の間違いについても、招集通知校了後に見つかった場合は正誤表を添付し、発送に間に合わなければ訂正の開示を行い、場合によっては株主総会当日に議長がお詫びと共に訂正の報告を行うことになります。株主総会当日も、瑕疵のある総会運営を行った場合は、決議取消の訴えを提起されるリスクが発生します。この様な事態を防ぐために、専門家との連携がとても重要になります。

 

連携が必要な専門家とは


では、どの専門家との連携が必要か。すぐに思い浮かぶのは、弁護士と、司法書士だと思いますが、上場企業であれば加えて、証券代行と印刷会社の法務研究部が強い味方になります。この四者と密に連携を取ることで、瑕疵の無い招集通知の作成と株主総会の運営が可能になります。具体的な連携については、以下のとおりです。

 

●弁護士


株主総会前に、顧問法律事務所に株主総会業務の見積もりを依頼すると共に、担当の弁護士を立ててもらいます。担当弁護士には、スケジュール、招集通知、株主総会シナリオ、想定問答集、議事録等、株主総会に関連するドキュメントは全てチェックを依頼します。また、株主総会リハーサルにも参加し、想定されうる株主からの質問を出してもらいます。株主総会当日は事務局に入ってもらい、株主からの質問に対するその場での助言や、質問打ち切りのタイミングを計ってもらいます。この様に、株主総会の適法性を担保するにあたり、弁護士との連携はとても重要になります。

 

●司法書士


司法書士は登記の専門家なので、会社法と商業登記法に詳しいのはもちろんですが、会社法施行規則等の細かい法令に詳しい方も多いので、スケジュールと招集通知の細かい箇所についてチェックの依頼をすると良いと思います。弁護士からの指摘がなかった問題点を指摘してもらえることもあります。また、株主総会終了後の役員選任、代表取締役選定の登記については、株主総会開催前に予め、株主総会議事録、取締役会議事録のドラフトを作成し、チェックを依頼します。こうすることで、株主総会終了後や代表取締役選定の取締役会後に法的な問題や登記実務上の問題を指摘され、今さらの修正が難しくなる様なトラブルを防ぐことができます。

 

●証券代行


証券代行は、株式事務と株主総会運営実務の専門家です。証券代行からは、まず期末の株主名簿が閉まった時点の株主数と、いわゆる総会屋をはじめとする特殊株主の有無について報告を受けます。それによって、既に予約している会場の広さで問題無いかの検討や、特殊株主対策として所轄の警察署に臨場係官の増員を要請する、ガードマンを別途手配する等の検討をしていきます。招集通知についても、「狭義の招集通知」と呼ばれる株主総会の日時、場所や、書面で議決権を行使できる旨が記載されている箇所を中心に、証券代行にチェックを依頼すると良いと思います。招集通知のページ数が多くなると、二つ折りで封筒に収まらない場合があるので、その際は証券代行から薄い紙を使用する様、提案があります。また、招集通知の記載内容や株主総会の運営方法を決めていく中で、経営側から「他社はどうしている?」という質問を受けます。この様な質問に対しても、証券代行には豊富な他社事例がありますので、「招集通知をカラーで作成した会社は東証一部で●社●%、マザーズで●社●%~、具体的な記載内容については~」「お土産を廃止した会社は●社●%~」等、細かなデータを提供してもらえます。株主総会リハーサルにも参加してもらい、想定されうる株主からの質問の他、特殊株主役や、不規則発言等を繰り返して退場命令を受ける株主等の役(名演技をしてもらえます!)を引き受けてもらいます。株主総会当日には受付を仕切ってもらい、議事録の記載事項でありながら忘れがちな、株主総会の終了時刻についてもメモを取ってもらいます。この様に、株主総会運営実務において証券代行との連携はとても重要になります。なお、年に一度、各証券代行が開催する「代行会」は、大手法律事務所のエース級弁護士が、当年の株主総会におけるトピックスや法改正とその対応方法等について説明する、重要なイベントです。必ず参加しましょう。

 

●印刷会社の法務研究部


上場企業の招集通知は特殊な印刷物なので、対応できる印刷会社は限られています。その印刷会社の法務研究部は、会社法と金融商品取引法の専門家です。株主総会スケジュールの重要なマイルストーンに、「研究部チェック」があります。こちらが作成した招集通知の内容を法務研究部が法令に基づき細かくチェックし、修正すべき箇所を指摘してもらえるので、株主総会担当者としては、「研究部チェック」までに事業報告と議案の記載事項を内定し、ほぼ完成した招集通知を用意するのがマストとなります。また、招集通知の記載内容については、印刷会社が豊富な他社事例を持っていますので、招集通知の書き方で悩んだ際は、法務研究部に他社事例を求めると共に、法的、実務的に適切な記載方法について相談すると良いと思います。なお、印刷会社から毎年提供される「招集通知作成の手引き」は、株主総会実務担当者の必読書です。常に手許に置き、事業報告や議案を作成する際に細かく参照すれば、「研究部チェック」までにある程度の品質の招集通知ドラフトを用意できると思います。

 

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、上場企業の株主総会業務における最後にして最大の難関である、株主からの質問対応と想定問答集の作成について、記事にできればと思います。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ 上場 IT ベンチャーでの法務マネジャー、東証一部上場インターネット広告会社での法務マネジャー・経営企画、スマホゲーム開発会社での法務マネジャーに従事した後、現在は MaaS サービス提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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