スルガ銀が旧経営陣を提訴、任務懈怠責任について
2018/11/13 商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
スルガ銀行は12日、不正融資問題で多額の損失を招いたとして、旧経営陣に対し総額35億円の損害賠償を求め静岡地裁に提訴しました。同行の中間連結決算は純損益が900億円にのぼるとのことです。今回は会社役員の会社に対する責任と訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、家賃保証で高利回りをうたい、シェアハウス「かぼちゃの馬車」を通常より高い値段で販売していたスマートデイズ社が破綻した際に、融資していたスルガ銀行は同社が資産捏造などを知った上で融資をしていたことなど発覚していました。これにより金融庁に一時業務停止命令を受け、900億円にのぼる純損益を計上しておりました。経営再建を図る同行は多額の損失を招いた旧経営陣9人に対し監視監督義務違反などを理由に総額35億円の損害賠償を求め静岡地裁に提訴しました。同行は今後創業家の親族が経営する企業や創業家個人への不適切融資についても調査を進めるとのことです。
役員の会社に対する責任
取締役等の会社役員と会社は委任関係にあり、役員は会社に対していわゆる善管注意義務を負います(会社法330条、民法644条)。また取締役は法令・定款、株主総会決議を遵守して会社のために忠実に職務を行う義務があります(355条)。これらの義務を怠り会社に損害を生じさせた場合は会社に対し賠償の義務を負うことになります(423条1項)。これら一般的責任違反以外にも、違法な剰余金配当(462条)や利益供与(120条4項)、競業取引・利益相反取引(356条1項1号2号)を行なった際にも会社に対して賠償責任を負います。
経営判断原則
取締役の経営判断には常に一定のリスクがともないます。取締役の判断により結果的に会社に損失が生じた場合、常に賠償責任を負っていては取締役は積極的な業務執行ができず萎縮してしまうことになります。そこで経営判断に際して、情報収集や調査・分析など、判断の前提となった事実認識に不注意がなく、それに基づく意思決定に通常の経営者として著しく不合理なところがない場合は善管注意義務・忠実義務に違反するものではないと考えられております(東京地裁平成14年4月25日)。
責任の減免とその限度
上記役員等の責任は株主総会の特別決議(425条1項、309条2項)、定款の定めに基づく取締役会決議(426条)、責任限定契約(427条)によって減免することができます。高額な賠償義務を負うリスクを恐れ、役員就任を敬遠することを防止する趣旨です。しかしこの減免にも限界があり、最低責任限度額については賠償責任を免れることはできません。この最低責任限度額の具体的な額は代表取締役、代表執行役で報酬の6年分、業務執行取締役・執行役で4年分、それ以外の役員で2年分となります。賠償責任を負う場合は最低この額については支払う義務があるということです。
コメント
本件で旧経営陣はシェアハウスへの多額の融資に際して、資産状況の捏造や自転車操業に陥っていることなどを認識していたとされ、第三者委員会の調べでもこのような不正融資は1兆円規模にのぼると言われております。経営判断において不注意や不合理な点がなかったとは言いにくい状況と言えます。責任減免を利用したとしても上記限度額については責任が発生する可能性は高いと考えられます。以上のように会社役員は会社に対して重い責任を負っていると言えます。これは会社に対する責任で、株主個人に対しては金商法等で別途負う場合もあります。また本件では会社自身が提訴しましたが、それが無い場合は株主が代わって提訴することもあります(株主代表訴訟847条)。役員等の責任追及の声が出始めた場合には、どのような責任が生じているのか、どのような訴訟がありえるのかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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