武田薬品が2兆円規模の発行検討、「社債」について
2018/05/23   会社法

はじめに

武田薬品は製薬大手シャイアーの買収に絡み、今年度中にも200億ドル規模の社債を発行することを検討していることがわかりました。国内企業としては最大規模となります。今回は企業の資金調達方法の一つである社債について概観していきたいと思います。

事案の概要

報道などによりますと、武田薬品工業はアイルランドの製薬大手シャイアーの買収に先立ち、資金調達の一環として200億ドル(約2兆2000億円)規模の社債発行を検討しているとのことです。武田薬品はまず米JPモルガン系の銀行団から約300億ドルの資金を借り入れ、買収完了後に借入金を社債等の長期安定資金に変換する予定とされます。そのうち150億ドル程度をドル建て普通社債に、45億ドル程度を円建て劣後債とすると言われております。

社債とは

社債とは企業の資金調達方法の一つで借入金の一種です。金融機関等からの借入金と違う点は会社法の社債に関する規定に従って行われる点にあります。一般に募集社債の発行と呼ばれ、新株発行と同じように募集事項の决定が行われます(676条)。引受の申込みに対し割当を行ない(678条)、払込がなされます。株券と同じように社債券を発行することもでき、社債原簿に社債権者の氏名住所、社債の内容などが記載されます(681条)。

株式と社債の違い

このように社債は募集の仕方から管理の仕方まで株式に類似した制度ですが、多くの点で違いがあります。まず株式は会社の実質的所有権である社員としての権利であり、払い込んだ資金は出資であり払い戻すことは原則不要です。しかし社債は借入金であることから償還期が到来したら返済されることになります。そしてあくまで業務執行の一環であることから募集事項の决定は取締役会で行えます。貸借対照表上も株式による出資は純資産の部に計上されますが、社債の場合は負債の部に計上されます。それゆえに払込への厳格な規制が無く分割払いや相殺も可能で、払込未了でも割当がなされた時点で社債権者となります(680条)。

社債原簿

社債を発行した場合、遅滞なく社債原簿を作成しなくてはなりません(681条)。社債原簿には①社債の内容と種類、②種類ごとの社債の総額と各社債の金額、③払込金額と払込日、④社債権者の氏名および住所、⑤社債権者が各社債を取得した日、⑥社債券を発行する場合はその番号や発行日と記名式・無記名式の別、の記載が必要です。株主名簿と同様に社債原簿管理人を置くことも可能です(683条)。

社債管理者

社債を発行すると原則として社債管理者の設置が強制されます(702条)。社債管理者は社債権者のために償還や弁済を受けるために必要な裁判上または裁判外の一切の行為をする権限があります(705条1項)。一般大衆である多くの社債権者の保護を目的として設置されます。各社債の金額が1億円を下回らない場合、社債権者の数が50人未満の場合は設置は不要です(702条但書、施行規則169条)。これらの場合は社債権者が一般人ではなく金融機関等のプロであるため特に保護が必要ないからです。

コメント

武田薬品が計画通り社債を発行する場合はその内容や種類、総額などを取締役会で决定していくことになります。社債の額などから特定の金融機関だけでなく広く公募されるものと考えられ、社債管理者の設置も必要となると思われます。社債原簿にはドル建て普通債と円建て劣後債の種類ごとに総額と金額を記載していくことになります。以上のように社債は募集株式発行と同様に企業にとっては重要な資金調達方法の一つです。しかし株式と違い様々な点で違いがあり、社債発行の際は注意が必要です。会社の規模や事業の内容、必要な資金の額や返済期間の見通し等を考慮して、どの方法を使うことが最適かを吟味して資金調達方法を决定し、それに必要な手続きを正確に行っていくことが重要と言えるでしょう。

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