派遣社員が通勤費求め提訴、正社員との待遇格差について
2018/02/06 労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法

はじめに
人材派遣大手「リクルートスタッフィング」(東京都)の元派遣社員の男性が、通勤手当が支払われないのは労働契約法に反し違法であるとして、同社に対し約67万円の損害賠償を求め提訴する方針であることがわかりました。有期労働者と無期労働者で不合理な格差が禁止されております。今回は労働契約法による格差規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、元派遣社員の男性(46)は2014年から2017年にかけて同社に派遣社員として登録しておりました。その間、大阪府と兵庫県内の派遣先でチラシ配布や工場での梱包作業に従事し、時給は1100円~1350円とされております。同社では規定により正社員には通勤手当が支給されている反面、派遣社員には支給されていないとのことです。男性は労働契約法違反を理由として通勤手当相当額の賠償を求め大阪地裁に提訴する方針です。同社側は「時給は交通費を勘案した金額」となっているとしています。
不合理な格差規制
労働契約法20条によりますと、有期労働者と無期労働者との間で労働条件に相違がある場合、その相違は「不合理と認められるものであってはならない。」としています。正規社員、非正規社員との間で不合理な格差を禁止する規定です。また短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)9条にも同様の規定があり、通常の労働者とパートタイム労働者で職務内容が同一である場合に、「短時間労働者であることを理由として、…差別的取扱いをしてはならない。」としています。こちらはパートタイムと正規社員との間での不合理な差別を禁止しております。これらの規定に違反した場合には、当該不合理な労働条件は無効とされます。また損害賠償の対象ともなります(民法709条)。以下要件を具体的に見ていきます。
格差要件
(1)労働契約法20条
労働契約法20条違反となるための要件としては、①同一使用者に雇用されている有期労働者と無期労働者の労働条件を比較し、②期間の定めがあることを理由として、③賃金、労働時間、福利厚生、災害補償、教育訓練などの労働条件に相違があることがまず挙げられます。そしてその相違が、④業務内容、業務に伴う責任の程度、職務内容および配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して不合理と認められる場合に違法となります。たとえば業務内容が正社員よりも容易であったり、休日出勤や時間外労働が無い、転勤や配置転換が無いといった場合にはある程度の労働条件の差異は許容されることになります。
(2)パートタイム労働法9条
パートタイム労働法9条の場合は、パートタイム労働者が「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当する場合には、賃金の决定、教育訓練の実施、福利厚生、その他の待遇について「差別的取扱い」が禁止されます。ここで通常の労働者と同視すべき短時間労働者とは、職務の内容が正規社員と同一で、職務内容や配置の変更方法などが正規社員と同一であり、無期雇用契約契約を締結しているパートタイム労働者ということです。つまり業務内容や待遇などが実質において正社員と変わらない場合ということです。
コメント
正規社員と非正規社員で待遇に格差がある場合にしばしば労働契約法20条を根拠に訴訟が提起されることがあります。近年では定年後再雇用の従業員と正規従業員の賃金格差の違法を訴えた事例があります(東京高裁平成28年11月2日)。この訴訟でも原告側は敗訴しているように、一般に裁判所は正規と非正規の格差について違法判決を出すことに消極的だと言えます。しかし正規職員と同一の業務でありながら、各種手当てや福利厚生などが全く認められていなかった日本郵便の事例では格差は不合理として違法であることを認めています(東京地裁平成29年9月14日)。本件では原告側の主張によりますと、非正規の派遣労働者には通勤手当が出ないことになっているとされます。詳細はわかりませんが業務内容や責任、時間外労働の有無などにおいてほとんど差異が無い場合には違法と認められる可能性もあると考えられます。昨今正規、非正規、有期、無期、パートタイムなど雇用形態に基づく差別待遇を是正する動きが高まっております。これらを踏まえて従業員の待遇差に問題は無いかを見直すことが重要と言えるでしょう。
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