債権法改正~債務不履行責任(民法415条)
2017/09/27 契約法務, 民法・商法, 法改正
1、はじめに
平成29年5月26日、「民法の一部を改正する法律案」及び「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が国会で可決成立し、長年議論されてきた債権法改正が現実のものとなりました。
本稿では、企業法務においても最もなじみの深い条文の一つともいえる民法415条(債務不履行責任)の改正についてまとめていきたいと思います。
2、民法415条新旧対照表
【現行法】
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。
【改正法】
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
② 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
3、改正民法415条第1項について
現行法の条文と比較すると、「債務の履行が不能であるとき」という文言が付加されたことと新たにただし書きが追加されたことが注目されます。
(1)「債務の履行が不能であるとき」
「債務の履行が不能であるとき」とは、現行法の解釈上判例通説となっている「本旨不履行には履行不能の類型が含まれる」という従来の解釈を明文化する趣旨のものであると考えられます。
(2)改正民法415条1項ただし書き
改正民法415条1項ただし書きは、現行法の本文後段の「債務者の責めに帰すべき事由」という要件が「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言が追加されて「債務者の責めに帰することができない事由」と書き改められて、ただし書きに移動されたものです。
従来の条文は、文理解釈すると債務者の帰責事由の立証責任は債権者側が負うとも解釈されうる書き方でした。もっとも、そのような解釈は公平の見地から妥当ではないとされ、立証責任は債務者側に帰責されるべきであると解釈するのが従来の判例通説でした。従いまして、本文の記載がただし書きに移動した趣旨は、要件事実論における従来の通説である「債務者側が免責事由の立証責任を負う」という解釈を条文の形で整理することにあると考えられます。
現行法上の債務者の帰責事由の解釈については、「故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由」という判例法理が存在します。「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言と現行法の判例法理との関係性については今後の議論が待たれるところですが、「信義則上これと同視すべき事由」と「取引上の社会通念に照らして」という文言に一定の共通性が見られることから、現行の実務に直ちに影響を与えるものではないのではないかと考えられます。
4、改正民法415条第2項について
現行法上、判例は一定の場合には「履行に代わる損害賠償(いわゆる填補賠償)」請求を認めるという解釈を取っています。改正民法415条2項はこの判例法理を明文化する趣旨であると考えられます。
5、まとめ
民法415条は任意規定ですので、契約条項において損害賠償条項の合意がある場合には当該契約条項が優先されます。従いまして、現在締結している契約に損害賠償条項がある場合には実務上何らかの対応をする必要性はないと考えられます。
契約書に損害賠償条項がない場合においては改正民法415条の適用を受けることとなりますが、今回の改正は裁判実務上の通説判例の見解を条文の形で整理したものと解釈できますので、裁判実務上の影響が生じる可能性は低いものと考えられます。
債務不履行責任を規定した現行民法415条は条文上の表現と解釈学上の判例通説との乖離が大きい条文の一つでした。改正民法415条は、この条文上の表現と判例通説の乖離を埋めることを趣旨とした改正といえるのではないでしょうか。
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