オリンパス元役員に590億円の賠償命令、違法配当の責任について
2017/05/23 商事法務, 総会対応, 会社法, その他

はじめに
巨額の粉飾決算と違法配当が行われていたことについてのオリンパス旧経営陣に対する株主代表訴訟で先月27日、東京地裁は総額約590億円の賠償を命じました。相当長期間にわたる粉飾とそれに基づく違法配当により過去2番目に高額な賠償額となっております。今回は違法配当の責任について見ていきます。
事件の概要
オリンパスは2011年7月にM&Aとそれに関する不透明な会計処理が行われていたとの雑誌の報道を契機に巨額の粉飾決算が発覚し株価急落、上場廃止の危機に直面することになります。第三者委員会の調査によりますと、オリンパスはバブル崩壊時に巨額の損失を出しますが、含み損を抱える資産を一時的にペーパーカンパニー等の他社に売却する、いわゆる「飛ばし」と呼ばれる手法等により損失計上を先送りしていました。そしてその巨額の含み損を高額のM&Aと投資失敗による特別損失という形で処理し、隠蔽を行っておりました。第三者委員会はこの一連の粉飾決算とそれに基づく違法配当により約897億円の損害が発生したと算定し、同社および株主らは菊川元社長らを含む旧経営陣に対して賠償を求め提訴しておりました。
違法配当とは
分配可能額を超える剰余金の配当は違法配当となります(会社法461条1項)。一般的に違法配当は無効であると解され、それに関与した役員や株主等には責任が生じることになります。ここに言う分配可能額の算定は資産や自己株式の処分利益等を合計したものから自己株式の帳簿価格や法務省令で定める勘定科目等を控除した額となっており(446条)非常に複雑ですが、端的に言うと貸借対照表の資産の部に計上される「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の合計額となります。この分配可能額が無いのに配当を行う場合や分配可能額を超えた額を配当する場合をいわゆる蛸配当と言い、通常粉飾決算とセットで行われます。
違法配当の責任
462条各項によりますと、違法配当が行われた場合は①違法配当により金銭等の交付を受けた株主、②違法配当に関与した業務執行者、③違法配当に関する議案を提案した取締役に責任が生じることになります。具体的には株主に交付された金銭等の帳簿価格に相当する金銭等を連帯して会社に支払う義務を負うことになります。株主は違法配当であることにつき善意であったとしても返還義務を負うとされております。なお②③の業務執行者や提案した取締役等は注意を怠らなかったことを証明した場合は免責されます(同2項)。
責任の免除と求償
上記違法配当による責任は分配可能額の範囲で総株主の同意により免除することができます(同3項)。役員等の任務懈怠責任(423条)に関しては総株主の同意があれば全額の免除が可能となっておりますが(424条)、違法配当に関しては分配可能額を超える分については総株主の同意があっても免除はできないことになっております。またこの責任は一種の連帯責任であることから、取締役等が責任を履行した場合、悪意の株主に対しては求償を行うことができます。しかし自ら違法行為を行っていることから、善意の株主に求償することは不当であるのでできません(463条1項)。
コメント
本件でオリンパスはバブル崩壊時から損失隠しを行っており、類を見ない異例の長期間に渡る粉飾決算と違法配当を繰り返してきたことになります。また雑誌の報道を受けて調査と責任追求を行うべきと主張した当時の英国人社長であるマイケル・ウッドフォード氏を解職し隠蔽を図ったりと任務懈怠も悪質であったことから590億円という巨額の賠償額が認められました。ここまでの額となると現実にはほとんどが回収不能となりますが、裁判所が本件粉飾行為の違法性の強さを公に示した形となります。本件では意図的な損失隠しとそれに伴う違法配当でしたが、図らずも過失による違法配当となってしまう例も増加傾向にあると言われております。その一因は上で述べたとおり分配可能額の算定の複雑さにあります。現行会社法に改正がなされ今の規定となったことで計算方法が難解なものとなり間違いも生じやすくなったと言えます。また旧商法とちがい原則いつでも配当ができるようなったことも原因の一つといえるでしょう。剰余金配当の際には分配可能額に間違いは無いか、分配可能額を超えていないかを十分に注意することが重要と言えるでしょう。
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