各社で見直しが進む「執行役員制度」、その概要について
2016/10/05   商事法務, 会社法, その他

はじめに

日経新聞電子版は3日、上場大手各社が執行役員のあり方について見直す動きが見られる点について報じました。昨年コーポレート・ガバナンスコードが適用され、企業経営陣の監督強化が求められる中、法律に規定されない執行役員の実効性を模索する機運が高まっているようです。今回は多くの企業で採用される執行役員の概要について見ていきます。

執行役員とは

執行役員とは、一般的に取締役と部長の中間に位置する役職であり特定の事業部門の業務執行を担当する者を言います。企業の経営と執行の分離を目的として導入された執行役員は取締役と違い会社の意思決定には参加せず、決められた業務の執行のみに専念します。執行役員を導入する多くの企業では、執行役員は一般社員から取締役に昇格するための登竜門であり、次期経営を担う役員は執行役員から選ばれる場合が多いとされます。コーポレートガバナンス強化が叫ばれる中、経営監督体制構築の中核としても期待される一方、取締役等の役員と違い法的な曖昧さから廃止への動きも見られます。

取締役、執行役との違い

(1)取締役とは
取締役とは株式会社の意思を決定し業務を執行し会社を代表することを任務とする常設機関です(会社法348条)。株主総会によって選任され(329条1項)、会社とは委任の関係に立ち、会社に対して善管注意義務・忠実義務を負います(330条、355条、民法644条)。取締役の員数や任期については定款で定めることになります。これに対して執行役員は、その地位について会社法等の法令による規定はありません。選任は株主総会ではなく一般的には業務執行の一環として取締役会で決定されます。また会社との関係は一般的に委任ではなく通常の社員と同様に雇用関係に立ちますが、雇用と委任の中間であるとも言われております。従って任期や員数についても定款等で定める必要はありません。また取締役等の会社法上の役員ではないことから、任務懈怠責任(423条)は負わず株主への説明責任(314条)もありません。

(2)執行役とは
執行役員と似た役職として執行役というものがあります。執行役は指名委員会等設置会社において業務執行を担う機関を言います。取締役と同様に会社法上の役員に該当し、会社との関係も委任関係に立ちます(402条3項)。選任は株主総会ではなく取締役会決議によります(402条2項)。取締役と同様に任務懈怠責任を負うことになります(423条)。しかし取締役とは違い重要な意思決定には参加せず、執行役員と同様に取締役会によって決定された業務の執行のみを行います(418条)。

執行役員制度の導入

執行役員は会社法上の機関ではなく各会社が任意に設置する役職であるため取締役会によって執行役員規定等を定めることによって導入することができます。具体的には①執行役員制度導入の目的②執行役員の意義③選任・解任の手続④退任事由⑤職務分担⑥待遇⑦法令遵守規定等を定めることによって導入できます。他の役員と違い定款に盛り込む必要はありませんが株主総会において株主への説明や承認を得ておく方が無難と言えるでしょう。

コメント

以上のように執行役員は企業経営における監督と執行の分離を目的として導入されました。業務執行を執行役員に担当させることによって経営陣は意思決定と監督に専念することができるというわけです。また社員と役員の中間として将来経営陣に参画するためのステップとしてモチベーションを高め、幹部候補育成といった人事政策上の意味合いもあると言われております。一方で会社法やその他の法令に規定のない曖昧で不明確な役職であることや、増えすぎた取締役のリストラに利用されるといった側面も指摘され、執行役員制度自体を廃止する企業も出てきております。昨年策定されたコーポレートガバナンスコードでは社外取締役の導入が推奨されております。社外取締役を置いて監督を強化しつつ、執行役員に業務執行を担当させるという企業も出てきております。平成17年会社法制定以降、企業の機関設計には柔軟性が見られるようになりました。社外取締役や監査等委員会といった会社法上の制度に加えて執行役員制度も柔軟に利用しつつ、自社に合ったガバナンス体制を作り上げていくことが重要ではないでしょうか。

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