障害者差別解消に対する企業の対処方法
2016/08/22   労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法, 労働法全般

はじめに

 2016年8月16日付の毎日新聞で、毎日新聞社が吃音(きつおん)を持った方を対象にアンケートを取った結果が報道されました。そのアンケートでは、吃音の症状を抱える方の6割強が「学校や職場でいじめや差別を受けた」と回答しており、また、「吃音への社会的理解や支援が不十分」との回答は7割近くに達したという結果でした。

そこで、今回は、障害者を雇用するにあたって、企業側の注意すべき点について検討することにします。

参照:毎日新聞の記事

吃音とは

 吃音とは、話すときに言葉が流ちょうに出てこない症状のことをいいます。
例えば、「タタタタマゴ」のように音を繰り返したり、「タ-マゴ」のように音を引き伸ばす言い方になってしまう場合です。
また、「・・・・・・タマゴ」のようにつまって音が出てこないといった症状も吃音の症状の1つとして挙げられます。
 吃音はほとんどの場合、幼児期に起こるものであるという研究結果がありますが、成人してから吃り始める例もごく稀にあるといいます。成人してから吃り始める場合としては、不況のリストラに脅えたことによって50歳になってから吃り始めたという場合もあるようです。
 有名人では、20世紀を代表する映画スターのマリリン・モンローさんや第64代・65代内閣総理大臣を務めた田中角栄氏も吃音症状があったと言われています。

障害者差別解消法

 平成25年6月に、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、平成28年4月1日から施行されています。

◆この法律の目的
 障害がある人とない人とが、お互いに人格と個性を尊重し合いながら共に生きる社会を実現することにあります。

◆この法律で対象としている「障害者」
 障害者手帳を持っている人だけでなく、身体障害(視覚障害や聴覚障害、肢体不自由など)、知的障害、精神障害(発達障害も含みま す。)がある人のことを言います。その他、心や体の機能の障害がある者で、障害及び社会的障壁(社会的バリアー)により継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける人を言います。

◆この法律の対象者
 国の行政機関と事業者を対象にしています。事業者とは、会社やお店など、同じサービスなどを繰り返し継続する意思をもって行う者を言います。ボランティア活動をするグループもこれに当たります(障害者差別解消法2条7項)。

◆企業に課されていること
 企業に課されている義務は、次の2つがあります(障害者差別解消法8条1項、2項)。
 ① 事業を行うにあたって、障害を理由として不当な差別的取扱いにより、障害者の権利利益を侵害してはならない
 ② 事業を行うにあたって、障害者から社会的障壁(社会的バリアー)の除去を要求された場合には、個別の状況に応じて、その除去のために「必要かつ合理的な配慮」をするように努力すること
 
 ①の「不当な差別取扱い」は、例えば、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為をいいます。
 ②の「必要かつ合理的な配慮」はどういう配慮をいうのかを検討する際には、内閣府のホームページを参照されると具体的な対処方法がわかって便利です。

 内閣府のホームページでは、障害の種別ごとや生活場面ごとに具体例が掲載されています。

 例えば、以下のようなものがあります。

■肢体不自由の障害のある方と共に就業する場合
・段差がある場合に補助する(キャスター上げ、携帯スロープなど) 
・高いところにある資料を取って渡す、資料を押さえて見やすいように補助する
・車椅子の利用者が利用しやすいようカウンターの高さに配慮する
・障害者用の駐車場について、健常者が利用することのないよう注意を促す
・駐車スペースを施設近くにする(来庁者数に応じて施設に近い一般車両区画も障害者用とする)
 などがあります。

■視覚障害のある方と共に就業する場合
・物の位置を分かりやすく伝える
・声をかける時には前から近づき「○さん、こんにちは。△です」など自ら名乗る
・自筆が困難な障害者からの要望を受けて、本人の意思確認を適切に実施した上で代筆対応するなどがあります。
 また、株式会社ソフトバンクでは、視覚障害者でもiPhoneを使えるようにサポートするアプリを無料で配布していて、
 使い方教室も行われているので、これを利用すれば、視覚障害のある方のできることが広がると思われます。

 参照:障害者向け使い方教室 for iPhone
        
■雇用・就業の場面での配慮
・募集内容について、音声等で提供する
・採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行う
・面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認める、筆談等により行う、体調に配慮する
・業務指導や相談に関し、担当者を定める
・業務指示や連絡に際して、筆談やメール等を利用する
 などがあります。

■小売店や飲食店での配慮
・お金を渡す際に、紙幣と貨幣に分け、種類毎に直接手に渡す
・ホワイトボードを活用する、盲ろう者の手のひらに書く(手書き文字)など、コミュニケーションにおいて工夫する
・メニューを分かりやすく説明したり、写真を活用したりする

■銀行での配慮
・自筆が困難な障害者からの要望を受けて、本人の意思確認を適切に実施した上で、代筆対応する

■不動産関係の企業での配慮
・物件案内時に携帯スロープを用意したり、車いすを押して案内する
・障害者の求めに応じてバリアフリー物件等があるかを確認する
・最寄駅から一緒に歩いて確認したり、中の様子を手を添えて案内する
 などがあります。

参照:合理的配慮等具体例データ集

◆義務違反があった場合
 不当な差別的取扱い禁止、必要かつ合理的な配慮義務に違反した場合には、行政から報告を求められたり、助言・指導・勧告を受けることがあります(障害者差別解消 法12条)。
 また報告を求められたにもかかわらす報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料に処せられます(法26条)。

法務担当者のとるべき対応

法務担当者としては、次の対応が考えられます。

・障害のある方に不都合な点があった場合に、障害のある方が気軽に相談できるような障害者雇用関係の法律相談を受け付ける場を設ける
・「不当な差別的取扱い」は正当な理由がある場合には許容されるので、担当部署の者が当該取扱いが違法なものであるかを法務部署に問い合わせて確認できるようなコンプライアンス体制を整える

 問合せのあった事案について、法務部署で正当な理由があると判断した場合には、担当部署の者にその旨を説明して、担当部署のから障害者の方に説明をしてもらい、障害者のある方の理解を得る

 正当な理由がないと判断した場合には、担当部署にその旨を説明して、取扱いの改善を求める 

・訴訟になる可能性も考えられるため、その場合に備えて書面を作成しておく等して裁判所に提出できるような証拠をあらかじめ用意しておく

 具体的には、当該事案の取扱いが「不当な差別的取扱い」に当たるか否かについては、裁判所では、個別の事案ごとに、障害者の障害の程度や能力、事業の目的・内容等を総合的に考慮して、客観的に判断されると思われるので、障害者に就業を任せる際に、あらかじめそれに対応できるような書面を作成しておく 

 その書面には、当該障害者の障害の程度や能力、及び担当してもらう事業の目的やその事業を行ってもらう理由を記載し、当該障害者の署名をもらっておくといったことが考えられる

・行政指導等が入らないようにリスクマネジメントをする

 具体的には、「必要かつ合理的な配慮」の努力義務対策として、障害者差別取扱解消法の概要・内容や各部署に行ってほしい対応について周知させるための企業内研修を行ったり、行うべき対応の例を示したリーフレットを配布する

 具体的な対応方法を決める際には、上に挙げた例を参照してもらったり、障害者を受け入れる部署の職員にどのような対応を取るべきかアンケートを取る等して、現場の状況に沿ったものにすべき。また、受け入れる障害者の方が決定している場合には、障害者の障害の程度、性別、年齢等にも配慮したものにすることが望ましい。

まとめ

 障害は、健常者にとっても無縁のものではなく、上で見たように成人になってから吃音の症状が出たり、またいつ交通事故にあって身体障害を持つことになるかはわかりません。誰にとっても障害をもつ可能性は否定できないのです。
 それゆえ、普段から、障害の種別ごとに障害に対する理解を深めて、自分が障害のある人の立場になったらどういう職場であったら働きやすいかということを個人個人が考えて、自身の企業に反映させていくことが必要になると思います。

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