兼業禁止規定違反に対する懲戒処分
2016/08/17 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
公務員の兼業は原則禁止されている(国家公務員法103条、地方公務員法38条)。
民間企業でも公務員と同様、就業規則により兼業が禁止されていることが多い。
その趣旨は、兼業によって本来の業務への支障をきたすことを防止する点にあると考えられる。
では兼業を禁止する規定に社員が反した場合に懲戒処分を行うことは許されるのかが問題となる。
事案の概要
佐賀広域消防局は今年1月、マンションや駐車場などの賃貸収入で年間約7000万円を得ていた男性消防副士長に対し、兼業を禁止する地方公務員法に違反したとして減給の懲戒に処した。その後、賃貸収入を500万円以下に減らすよう求める改善命令に、副士長が従っていないことが今月9日分かり、追加の懲戒処分が検討されている。
人事院規則では、年額500万円以上の賃料収入がある場合、上司の承認を得れば認められるケースもある。
しかし、今回の事例はこの基準を大幅に上回っており、かつ副士長は上司の承認を受けることなく繰り返し収入を得ていたため、懲戒処分の対象となった。
問題の所在
一般に兼業禁止規定を設けること自体は、事情の如何を問わず絶対的に兼業を禁止するようなものでなければ、その合理性が認められ、有効であると考えられている。
小川建設事件・東京地判昭57年11月19日
他方、従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは従業員の自由に委ねられているのが原則であることに鑑みれば、就業規則によって禁止される兼業は、会社の企業秩序を乱し、労働者による労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られる。
判例の動向
★懲戒処分を有効としたもの
一時的なアルバイトではなく、相当期間継続する意図で開始された二重就職で、しかも、会社を継続して欠勤していたというケースについて、懲戒解雇にあたるとしたものがある(阿部タクシー事件、松山地判昭42年8月25日)。
★懲戒処分を無効としたもの
病気休職中に内職をしていたというケースにつき、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生じさせないものについては、就業規則で禁止される二重就職にあたらず、ゆえに懲戒理由がないと判断したものがある(平仙事件・浦和地判昭40年12月16日)。
まとめ
従業員による兼業が発覚した場合、就業規則で禁止されているからといって直ちに懲戒処分ができるわけではなく、兼業が及ぼす企業秩序への影響、労務提供への支障などの点について綿密に検討し、懲戒の可否を慎重に判断する必要がある。
また兼業を防ぐためには、従業員が兼業を必要としないように労働条件を充実させるということが肝要である。
場合によっては、従業員の生活不安を解消するという趣旨で、会社の業務に支障がないような副業に限って許容することも考えられる。最近では、賃金の問題もさることながら、将来に向けた社員のキャリアアップの観点から、兼業に積極的な姿勢をみせる企業も増えている。
法務担当者としては、このような社会の風潮を注視しつつ、社員の経済状況に応じた柔軟な対応をすることが期待される。
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