明治「イソジン」「カバくん」紛争和解へ
2016/04/04 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, 医療・医薬品
はじめに
うがい薬「イソジン」に使われていた「カバくん」の包装デザインに関し、明治がムンディファーマに対して使用差止の仮処分を申し立てていた問題で、3月24日和解が成立していたことが判明しました。以前にも取り上げたこの問題について、概観したいと思います。
事件の概要
明治は「イソジン」の商標権を持つ米製薬会社ムンディファーマと1961年にライセンス契約を締結し、お馴染みの「カバくん」が描かれた包装でうがい薬を販売してきました。契約期限である2016年3月末以降は新たにライセンス契約したシオノギ製薬が販売することになりますが、その包装には「カバくん」に類似したキャラクターが使用されることが判明しました。明治はイソジンうがい薬販売に際して1985年から「カバくん」を登場させ、CM等で広告展開を行ってきました。イメージキャラクターである「カバくん」を使用して長期的にイソジンうがい薬の販売継続を希望していた明治に対し、独自に日本での進出を決めたムンディファーマはライセンス契約の解消を通知し、明治による「イソジン」うがい薬の販売は終了することになります。明治はこれまで行ってこなかった「カバくん」の商標登録を急遽、昨年の12月28日に行い、今年2月9日ムンディファーマとシオノギ製薬に対し不正競争防止法に基づき「カバくん」類似キャラクターの使用差止の仮処分申し立てを行っていました。
本件における問題点
不正競争防止法では、「商品等表示」として商号、商標、標章、包装その他営業を表示するものを広く保護しています。そして需要者に広く認識され又は著名な他人の商品等表示に類似するものの使用を禁止しています(2条1項1号、2号)。明治がイソジンうがい薬のパッケージに使用していたカバくんのデザインは商標登録され、包装その他の営業を表示するものにも当たり、不正競争防止法が保護する「商品等表示」に該当することは明らかと思われます。イソジンうがい薬といえば多くの消費者がカバのデザインを思い浮かべることは容易に想像できます。需要者に広く認識され、著名な包装デザインであることも明白と言えるでしょう。一方シオノギ製薬が4月から販売を予定していた包装デザインは、明治のカバくんと同様、服を着たカバの親子がうがいをしているというもので、やや簡素なデザインとなっているものの構図や雰囲気は酷似しています。著作権侵害や、商標権侵害該当性というと微妙ではありますが、不正競争防止法の観点からは差止が認められる可能性は高いと思われます。
和解内容
明治は商標登録されている「カバくん」を4月以降も使用し、「明治うがい薬」として従来と同様の製品を販売する。ムンディファーマ及びシオノギ製薬はデザインを変更して販売する。以上の内容で和解が成立しました。
コメント
本件でこのような問題に発展した原因は、明治側が「カバくん」を「イソジン」と独立した商標ないし知的財産として厳格に扱ってこなかったことにあるのではないかと思われます。イソジンうがい薬は日本におけるうがい薬市場において圧倒的なシェアを誇っていますが、それにはカバくんを使ったマーケティング戦略が必須のものであったと言えるでしょう。子供に馴染みやすく、大人でもうがいのイメージと結びつけやすい大口のカバのうがいシーンはイソジン販売促進において大きな役割を果たしてきました。日本においてイソジンとカバくんはセットになっていると言えるでしょう。一方でイソジンのライセンス許諾が終了した場合のカバくんの扱いについては想定されて来なかったものと思われます。明治は今後もムンディファーマからライセンスの延長がなされ、「カバくん」の絵が描かれたイソジンうがい薬を販売できるものと踏んでいたのではないでしょうか。商品名や商品そのものといった権利のみならず、その販売促進のための補助的副次的なデザインやキャラクターの商標権といった知的財産管理は今後ますます重要になると思われます。
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