求人広告と労働条件の関係
2016/03/18 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
企業で働きたいと思う大半の方々は、“求人広告”に挙げられている様々な募集要項を頼りに申込みをされているかと思います。
しかし、「募集要項に載っていた労働時間と違う」、「募集要項に載っていた給与よりも低い」、「正社員ではなく契約社員にされた」等など、求人広告に列挙してある条件と実際の労働条件の違いによって、企業と労働者の間に齟齬が生じてしまうことも珍しくありません。
求職者にとっては、再度求人広告から新たな企業を探し出す手間、新たな企業に採用されるまでの時間、求人広告に対する不信感などのデメリットが生じてしまいます。
企業にとっても、従業員に「労働条件が違うので辞めます」といってすぐに辞められてしまうと、再度求人広告を出すこととなり、広告費用、再度申込者が来るまでの時間、その間の労働力を失うなどのデメリットが生じてしまいます。
では、何故このように企業側と求職者側の意思に齟齬が生じてしまうのでしょうか。
“求人広告”の法的性質
そもそも、契約は《申込み》と《承諾》の2つの意思表示の合致によって成立するものです。それは、労働契約の場においても原則同じく扱われます。
そして、“求人広告”を法的にみると上記にいう申込みではなく、あくまで《申込みの誘引》という扱いとなります。
申込みの誘引とは、「相手方(求職者)を誘って申し込みをさせようとする意思の表示」にすぎず、仮に相手方が申込みの誘引(求人広告)に対して意思表示を示したとしても、それだけでは、相手方からの申込みにすぎず、契約は成立しません。
ですから、求人広告を見て応募したからといって必ずしもその内容で労働契約が成立するわけではありません。すなわち、「相手方(求職者)」から申込みを受けて、「申込みの誘引をした者(企業)」が、改めて承諾の意思表示をした時点で、はじめて契約が成立します。
そして、改めて承諾の意思表示をした時点において、結果的に条件を変更することに企業と求職者が合意したと見られるときは、それが実際の労働契約として扱われ、求人広告とは違う内容で雇い入れることが出来ます。
このように、あくまでも申込みの誘引にすぎない「求人広告の内容」と、実際、双方の合意があったとして成立する「労働契約の内容」の認識の差が、企業と求職者との間に、齟齬を生じさせているのでしょう。
求人広告の限界
しかし、上記のような理由だからといって申込みの誘引をする者(企業)が“求人広告”を出す際、無制限に実際の労働契約と違う内容を記載することが許されるのでしょうか。
この点、職業安定法65条8号は次のように規定し、罰則規定も設けられています。
『次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者」』
これにより、求人広告の内容が実際の労働契約内容と大きくかけ離れた内容にならないよう、一定程度の調整がされています。
双方の理解
たしかに、企業側としても業務内容・時期・経営状況などによって、「求人広告の内容」と「実際の労働契約内容」で違いが生じてしまうことがあり、求職者の求める労働環境を提供することが困難な場合も多々あると思われます。
そこで、双方が労働契約締結の際に納得のいく理解を得られる為には、言った言わないの水掛け論となってしまう、口頭による契約などではなく、双方で書面の交付や確認などをすることが、企業側にも求職者側にも大切なこととなるのではないでしょうか。
関連コンテンツ
新着情報
- セミナー
藤江 大輔 代表弁護士(弁護士法人GVA国際法律事務所/大阪弁護士会所属)
- 【リアル】東南アジア進出の落とし穴とチャンス:スタートアップが知るべき法務のポイント
- 終了
- 2025/03/27
- 16:00~17:30
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号

- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード

- 解説動画
大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間

- まとめ
- 中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~2024.4.3
- 「生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるか」。この問題に関し...

- 業務効率化
- 鈴与の契約書管理 公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 原内 直哉弁護士
- インテンス法律事務所
- 〒162-0814
東京都新宿区新小川町4番7号アオヤギビル3階

- ニュース
- 最高裁、父親の性的虐待で賠償認めず、民法の除斥期間とは2025.4.23
- 子どもの頃に性的虐待を受けたとして40代の女性が父親に損害賠償を求めていた訴訟で16日、最高裁...

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分