公取委、談合を認定した水道薬品メーカー7社に課徴金納付命令
2016/02/08   独禁法対応, 独占禁止法, その他

1 事案の概要

公正取引委員会は2月5日、上下水道施設で不純物を除去する際に使う薬品「ポリ塩化アルミニウム」の発注に関する200を超える入札(主に東北・北陸地方)で、多木化学(兵庫県加古川市)、大明化学工業(長野県南箕輪村)など7社の水道薬品メーカーの独禁法違反(不当な取引制限)を認定し、総額1億630万円の課徴金納付を命じました。また、同時に、この7社に浅田化学工業(兵庫県)、東信化学工業(東京都)の2社を加えた計9社に再発防止を求める排除措置命令も出しています。談合が行われた地域の納入額は1キログラム当たりの金額が関東や関西での納入額に比べて2倍近く高かったといいます。

2 課徴金の内訳

課徴金の内訳は、談合において落札企業を指定するなど主導的な立場をとったと言われる多木化学と大明化学工業が、それぞれ、2756万円と1969万円、ラサ工業(東京都中央区)が3803万円などです。ちなみに、多木化学と大明化学工業は、公正取引委員会による調査の開始後に違反を自主申告し、課徴金の減免を受けた結果、上記の金額となっています。また、水沢商事(さいたま市)は調査開始前に、違反を自主申告したため、課徴金納付命令も再発防止を求める排除措置命令も、いずれも対象外となっています(いわゆる、リニエンシー制度)。
【参考】
カルテル・談合リスクに対し事前予防の見地からいかに対処すべきか

3 入札制度と談合

入札制度は、官公庁や地方自治体が公共事業などの金額が大きい工事を民間業者に発注する際に、特定業者に肩入れすることなく(業者の実績の有無に関わらず)、公平な発注を実現し、さらに行政コストを抑えることを可能とする優れた制度です。しかし、その一方で、業者間の入札価格の叩き合いにより、業界全体の価格崩壊を誘因しかねないというリスクもはらんでいます。
そのため、業者同士が、事前にどの業者が落札するかを話し合いで決定することで、価格競争を事実上排除し、最低入札価格を押し上げる「談合」という手法がしばしば用いられます。

4 ここ数年の談合数の推移について

公正取引委員会発表の法的措置件数・課徴金対象事業者数・談合通報件数等の推移を見ましても、ここ5年間ほどで表沙汰になる談合の数は減って来ています。
一般的に談合の数は、業界全体の好不調に左右されると言われ、業界が好調過ぎても不調過ぎても談合は増えないとされています。業界が絶不調のときには、各業者に談合に付き合っている余裕がなく、とにかく受注を取るために低価格での入札が頻発し、逆に業界が好調のときには、原材料の高騰や人手不足により、そもそも入札に参加する業者が現れず、いわゆる「入札不調」が頻発するというからくりです。現在は、震災の復興事業やアベノミクスによる公共事業の拡大、東京五輪に向けたインフラ整備等により、建設業界が好調ですので、入札に参加する機会の多い建設業界内の談合が減った分、全体の談合数の推移にも影響していると言えるかもしれません。その観点から見ますと、今後、日本全体の景気が下向きとなった場合、談合が再び増えることが予想されます。

5 談合を禁止する独占禁止法の条文

第2条⑥ この法律において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義を もつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ, 又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

第3条 事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

6 コメント

今回、談合で主導的な立場をとったと言われる多木化学と大明化学工業、そして、水沢商事がリニエンシー制度により課徴金や措置命令の減免・免除を受けています。企業側の視点に立ったときに、このリニエンシー制度は、課徴金リスクを減らす、大変便利な制度ですので、以下のような体制づくりを行い、リニエンシー制度の利用を、より容易にすることが推奨されます。
①社内独占禁止法監査の実施
②内部通報制度の整備
③社内リニエンシー制度の整備
※社員が自ら関与した談合行為を会社に自主申告した場合に、懲戒処分等の社内処分が減免等される制度

しかし、リニエンシー制度は、これに頼っておけば大丈夫というものでもありません。リニエンシー制度により課徴金の減免・免除を受けたとしても、住民訴訟その他の損害賠償責任の可能性は否めませんし、 業界内での評判や社会的イメージの低下は避けがたいものがあります。また、公正取引委員会の調査に十分な協力を行うには、相当の人的コストがかかり、さらに、リニエンシー制度の利用を端緒として、他の商品の談合が発覚するおそれもあります。
法務の立場としては、まずは、基本どおり、社内規程・マニュアルの策定や、社内研修・法務相談体制の整備にしっかりと力を入れ、あくまでも保険的措置としてリニエンシー制度の利用を検討するという姿勢を忘れるべきではないかと思います。

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