家畜用ワクチン談合事件で排除措置命令へ、不当な取引制限の要件
2025/02/06   コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, 医療・医薬品

はじめに

 山形県などが発注する家畜用ワクチンの入札で談合を繰り返したとして、公正取引委員会が「アグロジャパン」(新潟市)と「小田島商事」(岩手県花巻市)に排除措置命令を出す方針を固めていたことがわかりました。課徴金納付命令も出されるとのことです。今回は不当な取引制限の要件を見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、「アグロジャパン」、「小田島商事」と「MPアグロ」(北海道北広島市)の3社は遅くとも2020年3月以降、山形県と公益社団法人「山形県畜産協会」が発注する家畜用ワクチンの入札で、事前に受注業者や落札価格を定めていたとされます。家畜伝染病「豚熱」ワクチンの入札では3社が順番に受注し、それ以外のワクチン入札では前年度の受注業者が同じ品目を次年度以降も受注できるようにしていたとのことです。なおMPアグロも違法認定されたものの、課徴金減免制度の適用により処分は免れるとみられております。2社に命じられる課徴金は合わせて500万円とされます。

 

不当な取引制限とは

 独禁法2条6項によりますと、不当な取引制限とは「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」とされております。価格協定やカルテル、入札談合が典型例です。違反した場合は排除措置命令(7条)、課徴金納付命令(7条の2第1項)の対象となり、また刑事罰として5年以下の懲役または500万円以下の罰金、法人には5億円以下の罰金が科されることとなります(89条1項1号、95条1項1号)。さらに民事上も不法行為として損害賠償責任の対象になり、これは無過失責任とされております(25条)。

 

不当な取引制限の要件

 不当な取引制限の要件は、(1)意思の連絡、(2)相互拘束、(3)一定の取引分野、(4)競争の実質的制限とされます。意思の連絡とは、複数の事業者が相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調を揃える意思があることを意味するとされます。一方が対価を引き上げることを他方が単に認識するだけでは足りず、相互に認識して暗黙のうちに認容することで足りると言われております(東京高裁平成7年9月25日)。相互拘束は事業者同士が意思の連絡を通じて互いの行動を調整し合う関係があればよく、契約など法的拘束は必用とせず、紳士協定的なもので足りるとされます。一定の取引分野とは「市場」と同義で、その範囲は基本的に需要者から見た代替性の観点から判断され、必用に応じて供給者にとっての代替性の観点も考慮されます。競争の実質的制限とは、価格、品質、数量その他諸般の条件を左右することによって市場を支配する状況を作り出しまたは維持することを言うとされます(東京高裁昭和26年9月19日)。

 

意思の連絡の立証

 上記のように不当な取引制限の要件には意思の連絡があります。これは裁判所などでどのように立証されているのでしょうか。契約書などの直接証拠があれば立証は容易ですが、ほとんどの場合はそのようなものは存在しないと言えます。そこで実務では間接事実や状況証拠などを積み重ねて立証していく手法が採られているとされております。間接事実とは主要な要件を間接的に推認させる事実で、状況証拠はその間接事実の存在を証するものと言えます。裁判例でも、不当な取引制限の合意は外部に明らかになることを避けようとの配慮が働くのが通常で、外部的に明らかな形による合意が認められなければならないとすると、法の規制を容易に潜脱することを許す結果となるとし、前後の諸事情を勘案して事業者の認識および意思がどのようなものであったかを検討して判断すべきとしております(東芝ケミカル事件 東京高裁平成7年9月25日)。

 

コメント

 本件でアグロジャパンなど動物用医薬品卸3社はワクチン受注価格の下落を防ぎ、利益を確保する狙いで順番に受注できるよう調整していた疑いが持たれております。入札談合については基本合意と個別調整行為があれば不当な取引制限の要件を満たすと言われております。以上のように独禁法の不当な取引制限は事業者間の意思の連絡が重要な要件となっておりますが、その立証は間接事実や状況証拠の積み重ねで行われます。入札談合では落札率が90%を超える場合などは談合の疑いが強いと判断されることとなります。競争入札は少しでも安く受注してくれる事業者を選定することで、国や自治体の負担を軽くすることを目的としております。自社の利益を確保するためであっても、競合他社と歩調を合わせる行為のリスクを社内で周知して防止していくことが重要と言えるでしょう。

 

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