企業内紛争解決手段としてのADR
2015/12/14   労務法務, 労働法全般, その他

 従来の企業内個別労働紛争機関は, 労働組合を主とした集団的労使関係を前提に構築されてきました。 しかし労働組合の組織率が 20%を切る現在, 労働組合のない企業、労働組合の苦情処理制度に頼ることのできない企業が増えています。

1 企業内紛争解決の限界
 労働者の不平・不満は労使間の自主的な解決により、円満に解決するのが理想的です。企業も職場懇談会や労使協議機関など制度的に労働者の苦情を汲み取る機関を設置し、その解決に努めています。
 しかし厚生労働省 労使コミュニケーション調査によると, 労使協議機関などの苦情処機関に不平・不満を述べても納得のいく結果は得られなかったと答えた率は48.2%に達しています。この高い数字は企業内における紛争解決の限界を表しています。

2 裁判制度のデメリット
 企業内の紛争は結果的に訴訟の場で解決されることが多いです。裁判所の判決ないし和解による終結は強力な紛争解決手段となります。しかし裁判制度のデメリットとして
①公開の場で行なわれるので、企業イメージの悪化やプラバシーの問題が生じます
②本人訴訟は可能だが、現実的に裁判制度に精通する弁護士を雇わなければ難しいです
③長期化するので、弁護士費用が高くつく(弁護士費用の相場は案件にもよりますが、一審で労働者側着手金20~30万円、会社側40~50万円程度に及びます。さらに数%~十数%の成功報酬も支払う必要がある場合もあります)。

3 ADRのメリット
 ADRとは裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Law)のことで、訴訟によらない紛争解決方法をいいます。具体的には行政型ADR(都道府県労働局の紛争調整委員会等を舞台にした紛争解決)と、民間型ADR(厚生労働大臣が指定する団体を舞台にした紛争解決)があります。
 このADRの方法によると通常の裁判と異なり、労働者と企業の間に現場の労働問題にも精通する学識経験者が第三者として関わり、紛争を円満な解決に導く特徴があります。訴訟大国アメリカでは、労働者と企業の間に結ばれる契約の中で契約に関するトラブルが発生した場合、速やかにADRに入ることを定める条項が広い範囲で定められています。
 ADRのメリットして
①非公開で行なわれるので、企業イメージやプライバシーの問題が生じにくいです
②1~3回程度の交渉で問題が短期間で解決する場合が多いです
③交渉を有利にすすめるため、現実には特定社会保険労務士を代理人として選任します。特定社会保険労務士の報酬の平均的な額は着手金2~3万円、成功報酬は獲得利益の1~数%と低コストです。
④当事者が解決案に同意すれば民法上の和解契約の効力をもつ
⑤裁判は過去の事実にフォーカスした一面的判断であることが多いです。しかしADRは主として当事者がこれからどうするか、将来的な面にフォーカスします。その結果割合的解決や多様な解決が用いられ、紛争解決に向けた時間・手間は将来に持ち越すこともできます。

4 小活
 ADRは裁判制度と比べてメリットが多く、学識の高い第三者の存在により実体に即した解決がされることが期待できます。しかし労働者と企業の紛争は労使の自主的解決による解決が理想であることはいうまでもありません。そこで企業としては労働者の苦情をよく汲み取るような環境を整え、それを労働協約や就業規則などに反映させて解決することが一次的に重要です。
 労働問題が集団的労働関係から個別的労働関係労使にシフトするなか、自主的解決が困難な場合に裁判よりもリスクの低いADRを紛争解決手段の一つとして周知・啓蒙する対応が今後必要となってくると思われます。

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