企業の受動喫煙防止対策どこまで
2015/11/30 労務法務, 労働法全般, その他

1 概要
近年受動喫煙が健康に悪影響を及ぼすことが医学的に明らかになったことや健康志向の高まりから受動喫煙を防止する取り組みが進んでいます。例えば駅前などの公共施設で分煙室が設けられるようになった光景がよく見かけられます。今回は企業が受動喫煙防止義務の根拠や義務の内容、考えられる対策を紹介したいと思います。
2 受動喫煙防止義務
企業は労働者と雇用契約を締結します。雇用契約を締結すると企業は労働者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(労働契約法5条)、いわゆる安全配慮義務を負います。この安全配慮義務が受動喫煙防止義務の根拠となります。
また企業は従業員の雇用主と同時に従業員が利用する施設管理者でもあります。多くの人が利用する施設の施設管理者は受動喫煙を防止する施策をとる努力義務(健康増進法25条)によっても受動喫煙防止義務を負い、受動喫煙防止義務の根拠となります。
3 義務の内容
企業は受動喫煙防止義務を負うとして具体的にいかなる措置をとる必要があるのでしょうか。
(1)江戸川区事件判決
この点に関して使用者に対して受動喫煙防止義務違反に基づく損害賠償請求を初めて認めたリーディング・ケースたる裁判例(江戸川区事件判決、東京地裁平成16年7月12日)が参考になります。
<事案の概要>江戸川区の職員が配属先において職員が自席で喫煙することが許されていたので、日頃から受動喫煙に悩まされ続けました。職員は目やのどの痛みを感じていたことから、上司に対して目やのどの痛みが受動喫煙による影響であることが記載された診断書を示して分煙措置を講ずるように再三要望していました。しかし再三の要望にも関わらず上司が一向に分煙措置をとらないので安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を提起した事案です。
判決では、安全配慮義務として分煙措置をとる義務があり、その違反があるとして損害賠償請求が認められました。
具体的には企業が自席で喫煙を認め、診断書により受動喫煙により甲の健康状態に異変が起こっていることを認識できた環境にある点を重視しました。そこで安全配慮義務として自席での喫煙を禁止したり、甲を喫煙場所から遠ざけたりする義務があったにもかかわらずその義務の違反が認められるとして5万円の慰謝料請求が認められました(同事件では血たん、咽頭痛が受動喫煙を理由とする急性障害が疑われる旨の診断書が存在)。
(2)その他の判決
女性社員が事務室内で半数以上の社員が日常的に喫煙をしていた環境で分煙を要求したところ、企業が喫煙場所を限定したがドアが常時開いてるため分煙対策として不十分であるにもかかわらずそれ以上の対策をしなかった事案(札幌簡易裁判所調停、平成18年10月19日)で80万円の示談が成立しました(同事件では化学物質過敏症を罹患していた旨の診断書が存在)。
また男性社員が同様に日常的に職場での煙害に悩まされ、分煙対策を要求したにもかかわらず、会社が対応に応じなかった事案(札幌地裁滝川支部事件、平21年3月4日)で700万円の和解が成立しました(同事件では化学物質過敏症の後遺障害を罹患していた旨の診断書が存在)。
(3)判決の小活
損害賠償が認められた事案では、①日常的に受動喫煙を受ける環境であること、②診断書の存在③分煙対策措置が費用・手間において格別の困難がない、という事情を満たしたことが請求等を認める判断要素になったと思われます。
さらに分煙対策として分煙室を設けても不十分だと強化される可能性があります。平成22年2月25日に発せられた厚生労働省の通達は、「今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性として、多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべきである」「全面禁煙は、受動喫煙対策として極めて有効であると考えられている」としています。この厚生労働省の通達に照らせば、分煙対策として分煙室を設けても、タバコの煙が漏れている喫煙室は十分な対策とは評価されない可能性が考えられます。
4 考えられる対策
(1)喫煙室の設置(通達に照らせばタバコの煙漏れがないこと)
(2)建物内を全面禁煙にし、喫煙者を建物外で喫煙させる
(3)就業時間内の喫煙禁止
(4)啓発活動の推進
などが考えられます。
企業としては喫煙者にも禁煙車にも快適な環境を整備する必要があります。双方に配慮した環境を整備することがコンプライアンスとしても、企業の評判を高めるという観点からも大切ではないでしょうか。
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