敵対的買収に対して、企業が事前に講じられる策とは
2015/11/26   商事法務, 戦略法務, 会社法, その他

1.切っても切れない、株式と金と経営

 かつて「物言う株主」として知られた村上世彰氏について、大量の株式売買により意図的に相場操縦した金融商品取引法違反の疑いがあるとして、同氏及び投資会社を経営する同氏の長女の自宅に証券取引委員会の強制調査のメスが入った。ニッポン放送株についてのインサイダー取引の一件や「金儲けは悪いことでしょうか」と声高に唱える同氏の姿に見覚えがある方も多いのではないだろうか。
 従来国内の企業は安定的経営を目指して株式を発行し、株主を「管理」してきた。しかし、国内においても株式の売買を巡る悶着が90年代から2000年代にかけて世間を騒がせるようになった。そのような時流に併せて会社法も改正され、政府や各研究所は敵対的買収(現経営者の意思に反して、あるいは会社の支配権を獲得しようとする買収)に対して防衛策あるいは予防策についての研究を積み重ねてきた。今回は敵対的買収について企業が取り得る主だった予防策について取り上げてみたい。

2.敵対的買収に対する予防策

 敵対的買収を仕掛けてくる相手は、当然だが株式を多数取得してくる。だから、対抗する企業としては①敵対的買収者の持株数増加を防止②敵対的買収者の持株比率の増加を防止③買収対象企業の魅力を減じる、といった概ね3つの対策を採ることが考えられる。

 ①敵対的買収者の持株数増加を防止する策について
 まず、持株数を増加させたくない場合に採りうる最も単純な策は自社株式を取得することだ。しかし、この策は同時に議決権のある株式を減らすことになり、相対的に敵対的買収者の議決権つき株式比率を高めることになり、また株主の観点からも経済的合理性や株式の流動性を妨げるものと評価されがちであるため、有効な手段とは評価しがたい。尤も、株主に対する納得という観点については、自社価値を向上させるために自社株を最小限で保有するという保有目的や長期的に減少させていく方向性などの経営指針を積極的に開示するのであれば、経営体制として透明性が増すため望ましい。他に考えられるものとしては株主安定化政策であるが、昨今持ち合い株の解消が進んでいるわが国でこの手法をとるのは時流に反しており、極めて限定的な策しか打ち出すことが出来ないものと考えられる。

 ②敵対的買収者の持株比率の増加を防止する策について
 米国で用いられているメジャーな策として、ポイズン・ピルが挙げられる。これは既存の株主に対して、敵対的買収者のみが行使できない権利(新株の取得等)をオプションで予め付与しておくことで、買収者が出現した場合にオプションを行使して買収者の持株比率を低下させたり、持株比率の増加についてかかる費用を増大させ、買収を妨げるものであり、わが国では全く同一の手法をとることは不可能だ。だが、会社法施行規則118条3号に基づき、大量買付けについてルールを定めておき、そのルールに則らない買収者については対抗措置をとるという「事前警告型防衛策」を経営政策として十分情報を公開しておく手段を取れば、恒常的に敵対的買収を牽制し、またいざ敵対的買収者が現れたときに、買収者と経営者の交渉・対話の機会の設置、及び新株発行などの措置を講じることが出来る。このとき重要な点は、対抗措置を講じる要件の明確化、措置の内容、そして組織の役割分担といった、いかに当該企業の独自性を意識した設計をすることが出来るかである。

 ③企業としての価値・魅力を減じる策について
 わが国で取り得る代表的な手段としては、経営者である取締役の権利制限や定数削減、任期ずらしといったものがあり、米国で用いられている手法としてはゴールデン・パラシュートが挙げられる。これは現在の役員が退任する際に巨額の退職金を給付することを予め規定しておくことで買収コストを膨張させ、買収後の企業価値を下げる手法である。 確かにこの手法は事前の予防策としての牽制の効力はある程度認められるし、買収のインセンティブは弱まると言えるが、経営権を敵対的買収者に明け渡した後の最終手段として実行されてしまうため、実際に実行に移されてしまった場合、投機的でない株主に対する配慮に欠けているという指摘は免れないだろう。

3.企業に求められるのはバランス感覚

 企業は常に自企業の価値を高めていくべきであり、企業は経営者の利益のためにあるのではない。企業が自社の価値を高めたことにより、結果的に株価がそれに追従して上昇する。投機的目的を持たない株主にとっては、まさにそういった理想的な循環こそ求めるものであるから、企業がすべきは企業価値を高めることを第一義的な目的としつつ、濫用的な権利行使を排除するシステムを作ること、すなわちクリアな経営体制に基づく情報公開と、自企業の性質を理解した綿密なリスクマネジメントが現段階ではベターな手段であろう。

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