高齢者安定雇用法に基づく再雇用制度におけるトヨタの試み
2015/09/11 労務法務, 労働法全般, メーカー
1概要
トヨタ自動車は、今春より労働組合と協議を重ね、定年退職者の再雇用制度について今月(2015年9月)合意に至った、と発表しました。新制度では一定の条件の下、定年前と同水準の処遇を維持された状態で働く道が用意されたことになります。
本稿では高齢者社会における再雇用制度のあり方と、トヨタの試みについて考えてみたいと思います。
2定年退職者再雇用に関する法の仕組み
定年に関する法制として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という)」があり、そこでは、企業が定年を定める場合の「定年」は60歳を下回ることが出来ないとされています(高年齢者雇用安定法8条)。
そして、企業が「定年」を65歳未満に定めた場合には、65歳までの安定した雇用を確保するため、①当該定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③当該定年の定めの廃止、のいずれかの措置を講じることが義務付けられています(高年齢者雇用安定法9条1項)。
3企業の定年退職者再雇用制度の運用現状
一般的に、企業が高年齢者雇用安定法9条1項に定める措置義務を講じる場合には、人件費の負担や若年層との入れ替えを考慮して、定年引上げ、定年の定めの廃止の方式ではなく、継続雇用制度を導入する例が多くみられます。
ただし、定年前よりも報酬が下がる場合が多く、企業側としては「継続」雇用ではなく、「再」雇用として、法制に則った高年齢者の安定雇用制度を導入していると思われます。
4技能職(工場労働者)に対するトヨタの新制度
今回、トヨタにおいて労働組合と同意に至った新制度においては、定年退職前の勤務成績が一定の内部基準を満たす場合には、職位手当などを従来通り払うことで処遇を維持する再雇用コースが設けられました。
これにより、勤務成績が高いと評価されたシニア労働者にとっては、実質定年延長に近い形で働く道が開けたことになります。トヨタにおいて定年退職者の内約7割にとどまる再雇用者割合を高めて、少子高齢化における労働力確保の一策とし、かつ若手への技能継承の促進の方策として期待されており、2016年1月より導入されます。
5コメント
少子高齢化による労働力不足を起因とする競争力の低下の懸念を抱いている日本企業は数多いと思われますが、それぞれの企業において、労働力不足が問題となっている職種に対する一つの対策として今回のトヨタの新制度は一定のモデルケースとなることが期待されます。
トヨタの本制度は、企業における雇用制度のあり方を、それぞれの企業において再考、見直しする一つのきっかけとなるのではないかと考えられます。
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