〈従業員が逮捕〉そのときどうする?
2014/11/10   労務法務, 労働法全般, 刑事法, その他

 最近、水泳の冨田選手が仁川アジア大会中にカメラを盗んだ事件で、帰国後に一転して無罪を訴え、注目を集めています。その中で、JOC(日本オリンピック協会)の当初の事実確認や情報収集などといった対応が十分になされていたのかという点を疑問視する声も上がってきているようです。
 ところで、この事件は企業においても他人事ではありません。窃盗に限らず、飲酒運転や痴漢、傷害事件など、従業員が刑事事件を起こす可能性は常に存在するからです。
 そこで今回は、従業員が刑事事件を起こして逮捕された場合に慌てずに対処できるように、その際の対応をいくつか紹介したいと思います。

1.事実調査

(1)処分を焦らない
 逮捕直後は、事実関係が曖昧な情報や矛盾する情報が飛び交うことも多くあります。そのなかでの懲戒処分(特に、懲戒処分などの重い処分)は、もし従業員が冤罪だった場合に彼らの社会的地位だけでなく生活まで脅かすことになってしまいます。
 また、この場合、従業員から争われ処分が無効となるだけでなく、企業の社会的評価を下げてしまうというリスクがあることにも注意が必要です。
 よって、まず大事なことは処分を焦らないということです。常に情報の正確性を検証するように心掛けましょう。
(2)できる限り情報を集める
 確認すべき事項としては、①逮捕された日付(現行犯逮捕か否か)、②罪名、③被疑事実の内容(具体的に何をしたとして逮捕されたのか、単独犯か共犯者がいるか)、④被害(被害者は誰か、被害金額、被害者との示談の見込みの有無等)、⑤従業員本人は罪を認めているか否か、⑥出処進退、有給取得等に関する従業員本人の希望、⑦検察官による終局処分等の事件の見通し、といった点を確認する必要があります。
 もし有休取得の申請があれば、有休扱いにするのが原則です。有休を認めずに欠勤扱いとすると、欠勤を理由とした解雇等の処分が無効となるリスクが生じるからです。
 これらの情報は、一般的には、①本人、②警察官・検察官、③親族、④弁護人などから確認することになります。そして、聞き取った内容は正確に記録に残しましょう。

2.起訴休職制度

 起訴休職制度(労働者が何らかの犯罪で起訴された場合に、労働者を休職させる制度)がある会社でも、起訴された事実だけで形式的に起訴休職の規定の適用が認められるとは限りません。休職命令が無効と判断されることもあります。なので、休職命令を出す際には、その必要性・相当性について検討してからにしましょう。
 ところで、起訴休職制度を設けた場合には、有罪判決が確定するまで解雇することができないと解釈されるおそれがあります。よって、起訴休職制度は設けずに個別に対応するという選択肢もあり得るでしょう。

3.懲戒処分

 会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような行為であれば、私生活上の行為であっても従業員を懲戒処分に処することができます。例えば、従業員の行為が社会的に非常に悪質なことが明らかな場合、スピード感を持って処分をすることが企業の社会的評価という面で有効な場合もあり得ます。
 しかし、解雇のように退職となる懲戒処分は紛争になりやすく、裁判でも厳格に判断される傾向にあります。よって、軽い処分にとどめて、職場への居づらさなどから社員の自主退職を待つような企業もあるようです。

4.退職金の不支給・減額・返還請求

 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として就業規則などに規定しておけば、懲戒解雇事由があって、退職金を不支給・減額することに合理性がある場合には、退職金を不支給または減額したり、支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。

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