福岡高裁が技能実習生指導員の残業代を減額、みなし労働時間制について
2025/09/01   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに


熊本市の女性(42)が勤務先であった団体に未払い残業代などの支払いを求めていた訴訟の差し戻し控訴審で、福岡高裁は28日、一審熊本地裁の判決を変更し残業代を減額していたことがわかりました。

みなし労働時間制の適用が認められたとのことです。今回は労基法が規定するみなし労働時間制について見直していきます。

 

事案の概要


報道などによりますと、原告の女性は2016年~18年に熊本市の監理団体で外国人技能実習生の指導員として勤務し、訪問指導などを担当していたとされます。

勤務時間はタイムカードなどで管理されてはいませんでしたが、始業・就業時間などを記した業務日報を団体に提出していたとのことです。訴訟では職場外での業務に「みなし労働時間制」が適用できるかが主な争点となっており、一審、二審判決では日報の正確性は担保されていたとして団体側に残業代約29万円の支払いを命じました。

しかし、最高裁では日報の正確性について十分な検討がなされていないとして二審判決を破棄し、差し戻していました。

 

みなし労働時間制とは


みなし労働時間制とは、労働者が実際に働いた時間にかかわらず、労働者が一定時間労働したものとみなす制度を言います。

労働基準法では「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」が規定されており、裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」に分かれます(38条の2~4)。

事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で労働しているため労働時間の算定が困難な場合に適用されます。これに対し、専門業務型裁量労働制は業務の性質上、業務の遂行方法や時間配分などを労働者自身の裁量に委ねる必要がある場合に適用されます。

そして、企画業務型裁量労働制も同じように業務の性質上、その遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある場合ですが、事業の運営や企画、立案、調査、分析業務などが対象となっています。

 

事業場外みなし労働時間制


事業場外みなし労働時間制は、たとえば営業職のような外回りが多く正確な労働時間を把握しにくい場合に適用されます。

具体的な要件としては、(1)労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること、(2)労働時間を算定し難いこととなっています。事業場外で労働をする場合であっても、労働時間の算定が難しくない場合は適用がないということです。

具体例として、何人かのグループで業務を行っており、その中に労働時間を管理する者がいる場合や、事業場外であっても無線やポケベル等によって随時使用者の指示を受けながら業務を行う場合、事業場で帰社時刻など詳細な指示を受けた上で事業場外で指示通りに業務を行う場合などが挙げられています(昭和63年1月1日基発1)。

なお、みなし労働時間制は事前に定められた労働時間を働いたものとみなす制度ですが、その時間が1日8時間、週40時間を超える場合は残業代が発生することとなります。

 

固定残業代制度とは


みなし労働時間制と似た制度として固定残業代制度があります。固定残業代制度とは、基本給に加えて、あらかじめ一定時間分の残業代を支払う制度を言います。

たとえば固定残業代を30時間分と定めた場合、実際には30時間の残業をしなくても30時間分の残業代が支払われるというものです。なお、固定残業代制を採用する場合、(1)固定残業代を除いた基本給の額、(2)固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、(3)固定残業代を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨を募集要項や求人票などで明示することが求められています。

つまり、あらかじめ固定残業代を定めておけば、いくら残業をさせてもその分だけ支払えば良いというものではないということです。

 

コメント


本件で原告の女性は外国人技能実習生の指導員として訪問指導などを担当していたことから、事業場外での勤務が多く、みなし労働時間制の適用の有無が争われてきました。

一審熊本地裁と二審福岡高裁は原告の記していた業務日報の正確性を認め、みなし労働時間制の適用を否定しました。しかし、最高裁は一転、正確性について十分に検討されていないとして差し戻し、福岡高裁は日報は原告の自己申告で記入されていたことなどから正確性が客観的に担保されていないとして、みなし労働時間制を認めました。

以上のように、事業場外で労働を行っているだけではみなし労働時間制は採用できず、勤務状況の正確な把握が困難であることが必要です。また、これらの制度を採用していても事前に定めた労働時間を超える場合は、その分の残業代を支払う必要があります。これらを踏まえて、自社の賃金体系や勤怠管理に問題はないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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