特許権は誰のもの?-職務発明について
2013/06/19 知財・ライセンス, 特許法, その他

事案の概要
安部政権は「知的財産に関する基本方針」を6月7日、発表し同方針を同月14日の成長戦略の中に反映させる。企業の研究者が発明したものいわゆる職務発明について、特許権の帰属を原則企業側とする基本方針を発表した。
同基本方針では、これを①企業側に帰属させる、または、②企業側に帰属するか、従業員側に帰属させるかを契約で決定するの2つの案を示している。ただ、企業と従業員の力関係を考えれば、①、②いずれのの案でも原則として企業側に特許権が帰属する形となる。これに対し、現行の特許法では発明者すなわち従業員側が特許権を取得するいわゆる発明者主義を取り(特許法29条1項柱書)、従業員は使用者から「相当の対価」を受ける仕組みである(特許法35条3項)。
現行法のもとでは中村修氏の発光ダイオードの訴訟をはじめ「相当の対価」をめぐって訴訟が起きるリスクがある。このリスクに対応すべく2004年特許法改正で「相当の対価」について社内規定を設けるよう改正がなされ(特許法35条4項)、その結果訴訟は大幅に減少した。今回の基本方針は更に訴訟リスクを軽減させたいとの企業側の要望を背景として出されたものである。このような方針は、発明する意欲を失わせるものとして従業員側の反発も強い。
参照条文
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
コメント
今回の方針は訴訟リスクの軽減という企業側の要望に応えてのものである。確かに、特許権を会社側に帰属させれば訴訟リスクは減る可能性が高いかもしれない。しかし、このような方針は企業側にとってよい面ばかりではない。現在、従業員側に特許権を帰属させる仕組みをとっているのは、アメリカ、ドイツ、韓国などである。もし、企業側に特許権を帰属させることとなれば、これらの国に優秀な人材が流出する可能性が高くなる。加えて、企業側に特許権を帰属させるにしても必ずしも企業側の訴訟リスクがゼロになるわけではない。企業側に特許権を帰属させる仕組みをとっている英国でも、従業員側から発明の報酬を求めての訴訟が提起されているからである。今回の方針が企業にとって利益となるかはなお慎重な検討が必要である。
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