QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第52回 技術ライセンス契約:~末尾
2023/07/15   契約法務, 知財・ライセンス, 民法・商法, 特許法, 独占禁止法

UniLaw 企業法務研究所 代表 浅井敏雄


第50回から技術ライセンス契約について具体的な条項を提示した上解説しています。今回はその最終回で保証及び保証の否認/不争条項/改良技術/秘密保持/解除及び期限の利益喪失/契約終了時の措置/反社会的勢力の排除/一般条項に関する規定例を提示しその内容を解説します。最終回ですので, 本契約の全文をこちらからダウンロードできるようにしました。
 【目 次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1:契約名称・前文

Q2:定 義 (以上第50回)

Q3:ライセンス条項

Q4:本契約の有効期間

Q5:ライセンス料及びその支払

Q6:ライセンス料の報告

Q7:監査権 (以上第51回)

Q8:保証及び保証の否認

Q9:不争条項

Q10:改良技術

Q11:秘密保持

Q12:解除及び期限の利益喪失

Q13:契約終了時の措置

Q14:反社会的勢力の排除

Q15:一般条項

Q16:契約書末尾 (以上今回)

 

 

Q8:保証及び保証の否認


A8: 以下に規定例を示します。
 

第7条    保証及び保証の否認

1.       ライセンサーは, ライセンサーがライセンシーに対し本契約に従いライセンスを許諾できる法的権限を有することを保証する。

2.       前項に定める事項を除き, ライセンサーは, 許諾知的財産権が有効であること, 出願中の権利が登録されること, 登録された権利が維持・管理されること, 許諾発明が補正又は訂正されないこと, 許諾製品の製造, 使用又は販売が第三者の権利の侵害とならないこと, 及び許諾技術がライセンシーの要求を満たすことを含み, 許諾知的財産権及び許諾技術に関し如何なる保証又は表明もしない。ライセンサーは, これらの事項に関し, ライセンシーに生じ得る損害及び不利益に対し一切責任を負わない。

3.       ライセンサーは, 許諾発明について特許等を取得又は維持するために必要と判断した場合には, ライセンシーの同意を得ることなく, 許諾発明を補正又は訂正できるものとする。但し, ライセンサーは, 当該補正又は訂正後直ちにライセンシーにその旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

4.       前各項にかかわらず, 許諾特許の無効, 拒絶査定, 登録中止, 権利消滅, 補正・訂正等によって, ライセンシー及びライセンシー子会社による許諾技術実施行為の全てが許諾知的財産権の及ぶ範囲外となった場合には, ライセンシーは, ライセンサーにその旨書面で通知した上本契約全部を解除できるものとし, 当該実施行為の一部が許諾知的財産権の及ぶ範囲外となった場合には, ライセンシーは, ライセンサーに対し, これに応じたライセンス料の減額を請求できるものとする。但し, 具体的な減額内容は, 両当事者協議の上合意しなければならない。

【解 説】


ライセンスに関し, ライセンサーがライセンシーに対し何らかの保証をするか否か及びその内容は, ライセンス契約における重要事項の一つです。この保証の有無・内容は, ライセンサーとライセンシーの契約交渉上の立場, ライセンスに至る経緯により様々です。

【第1項】本項では, 最低限, ライセンサーにライセンスの法的権限があること(具体的には, 該当の知的財産権の保有者又はライセンス権を有する者であること, 共有特許権についてはライセンスについて他の共有者の同意(特許法73条3項)を得ていること等)を保証させています。ライセンシーとしては, ライセンサー側から全ての保証を否定する条項を提案された場合でも, 最低限, このライセンス権限の保証は要求すべきでしょう。

【第2項】本項では, 許諾特許等, 許諾知的財産権の有効性の保証を否定しています。これは, ライセンサーの善意悪意を問わず, 一旦特許が付与された場合でも, 後日先行技術の存在等が判明しそれが無効になることはしばしばあることから, ライセンサーの立場から, 保証を否定したものです。

又, 本項では, 許諾製品が第三者の特許権等を侵害しないことの保証を否定しています。これは, 許諾特許に係る発明が第三者の特許発明等の利用発明(特許法72条等)であって, 許諾特許に係る発明を実施すれば当該第三者の特許権等を侵害することになることもあり得, 又, ライセンサーとしてはライセンシーが設計・製造した許諾製品が第三者の権利を侵害しないことを保証することはできないからです。これらの点については, ライセンサーとしては, むしろ, ライセンスを希望するライセンシーが自己の責任において事前に調査すべきであると主張したいところでしょう。

本項では, 「出願中の権利が登録されること, 登録された権利が維持・管理されること」も保証していません。その理由は, 特許出願したからといっても必ずしも特許が認められるわけではないこと, 又, 特許等の取得・登録, 維持等は経済的及び事務的負担を要するのでライセンサーとしては, もはやそのような負担をする価値がないと判断した場合には取得等を自由に中止したいこと等です。

【特許異議申立・無効審判請求等がないことの表明・保証】ライセンシーとして, 以下のような表明・保証を要求することは考えられます。「ライセンサーは, ライセンシーに対し, 全ての許諾特許について, ライセンサーの知る限り, 本契約締結時点で, 特許異議の申立, 無効審判の請求, その他許諾特許の有効性を争う法的手続がなされたことがないことを表明し保証する。」

【第3項】特許出願中, 出願人は, 特許を得るために, 特許請求の範囲等を補正する(特許法17条の2)必要がある場合があります。又, 許登録後も, 第三者から特許無効の主張を受けたとき等, そのままでは特許無効となる可能性があるときに, 訂正審判請求又は特許無効審判における訂正の請求により, 特許請求の範囲等を訂正して無効を回避しようとすることがあります。特許請求の範囲についてこの補正又は訂正がなされると, 許諾発明の内容が変動することになります。又, 訂正の場合には, 従来の特許法では, その特許権について通常実施権者がいるときは, 訂正についてその承諾を得る必要がありました(但し, 特許法改正により現在ではこの承諾は不要となった[1])。本項では, ライセンサーは, ライセンシーの承諾を得ることなく, このような補正又は訂正を行うことができるものとしています。

【第4項】許諾特許の無効確定, 拒絶査定, 登録中止, 毎年の特許(登録)料(いわゆる年金)不納付による権利消滅, 補正・訂正等によって, 許諾技術の実施行為の全てが許諾知的財産権の及ぶ範囲外となった場合にまで, ライセンシーにライセンス料を支払わせることは不合理なので, その場合には, 本項によりライセンシーは本契約を解除できることとしています。一方, 許諾特許が複数ある場合にその一部についてのみ無効等が生じた場合には, それに応じ, ライセンシーはライセンサーに対しライセンス料の減額を請求できるようにしています。

【第三者による特許侵害に対するライセンサーの排除義務】ライセンスが独占的権利である場合にはその独占性を担保するため, ライセンサーにこの排除義務を負わせることも考えられます。しかし, 本契約では, ライセンサーの立場から, 非独占的権利であること, 排除には手続的・費用的負担を要すること, 第三者がライセンサーの顧客である場合もあること等から, 一律に排除義務を負うことは避けたいので, 排除義務を定めていません

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Q9:不争条項


A9: 以下に規定例を示します。
 

第8条    不争条項

ライセンサーは, ライセンシーが自ら又は第三者をして許諾特許に対する特許異議申立, 無効審判請求, その他の許諾知的財産権の有効性を争う行為をした場合, 何ら催告をすることなく, 直ちに本契約の全部又は一部を解除できるものとする。

【解 説】


前回Q5で解説した通り, 公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(2016年(平成28年)1月21日改正)(以下「指針」)によれば, ライセンサーがライセンシーに対して, ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務を課す行為は, 不公正な取引方法に該当する場合もあるものの, ライセンシーが権利の有効性を争った場合ライセンサーがライセンス契約を解除できる旨を定めることは, 原則として不公正な取引方法に該当しません(以上指針第4-4-(7))。

そこで, 本項では, ライセンサーの立場から, ライセンシーが許諾知的財産権の有効性を争う行為をした場合には, ライセンサーは本契約を解除できるものとしています。

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Q10:改良技術


A10: 以下に規定例を示します。
 

第9条    改良技術

1.       ライセンシーは, 本契約の有効期間中に改良技術を開発した場合, その旨直ちにライセンサーに書面で通知するものとする。

2.       前項の場合において, ライセンサーからライセンシーに対し当該改良技術について実施許諾の申出があった場合, ライセンシーは, ライセンサーに対し, 当該改良技術に関し, 本契約の有効期間中は無償で, その後はライセンサーとライセンシーが協議の上合意する妥当な対価により, 許諾地域における非独占的な実施権を無償で許諾したものとする。

3.       前項により, ライセンサーに許諾される実施権の内容は, 前項に定める条件の他は, 第2条各項に定めるライセンサーからライセンシーに対するライセンスの条件(製造委託及び再許諾に関する条件を含む)と同等とする。

【解 説】


【第1項・第2項】「指針」(第4-5-(9):改良技術の非独占的ライセンス義務-ア)によれば, ライセンサーがライセンシーに対し, ライセンシーによる改良技術についてライセンサーに非独占的ライセンスを付与する義務を課す行為は, 原則として不公正な取引方法に該当しないとされています。

そこで, 本項では, ライセンサーの立場から, 第1項で, ライセンシーに改良技術をした旨の通知を義務付けるとともに, 第2項でその改良技術のライセンス付与(グラントバック)を義務付けています。

なお, 単に「改良技術」と言っても如何なる範囲の改変・追加が含まれるかは不明で過度に広く解釈される可能性もあるので, 第1項第(19)号で, 「許諾技術に対しなされる改変又は追加であって, それについてライセンスを受けることなく実施行為を行えば許諾知的財産権を侵害することとなるものを意味する」と定義し限定しています。

【第3項】第1項・第2項だけでは, グラントバックのライセンスについて, 他への製造委託が可能か, 再許諾が可能か等は分かりません。本項では, 第2条に定めるライセンサーからライセンシーに対するライセンスの条件と同等とするものとしました。

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Q11:秘密保持


A11: 以下に規定例を示します。
 

第10条   秘密保持

1.      ライセンサー及びライセンシーは, 本契約の存在及び内容, 並びに, 許諾技術のうち公開又は公表されていないもの, ライセンサーが監査において知り得た情報, その他本契約の履行上知り得た相手方の技術上又は営業上その他業務上の情報(以下「秘密情報」という)を, 相手方の書面による事前同意がない限り, 本契約の履行のためにのみ使用し, かつ, 第三者に開示又は漏洩しないものとする。但し, 次の各号のいずれかに該当する情報は秘密情報に該当しないものとする。

(1)   それを知った時点で, 既に適法に知得していたかもしくは公知となっていた情報, 又はその後, 自己の責めによらず公知となった情報

(2)   相手方の秘密情報によらず独自に開発又は作成した情報

(3)   第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報

2.      前項に定める義務は, 本契約の有効期間中及び本契約終了後も継続して存続するものとする。

3.      ライセンサー及びライセンシーは, 相手方から開示を受けた秘密情報の使用目的を達成した場合, 秘密情報の使用の必要性が失われた場合又は相手方からの要求があった場合には, 速やかに当該秘密情報を含む資料, 物品等, 及びそれらの複製物について, 相手方の指示に従い返還, 削除・消去その他の措置をとるものとする。

【解 説】


ライセンス契約では, ライセンス対象の非公開情報(ノウハウを含む)の秘密保持を定める必要があり, 又, ライセンスの事実自体も秘密とする場合もあります。

なお, 「指針」(第4-4-(6):ノウハウの秘密保持義務)によれば, ライセンサーがライセンシーに対して, 契約期間中及び契約終了後において, 契約対象ノウハウの秘密性を保持する義務を課す行為は, 公正競争阻害性を有するものではなく, 原則として不公正な取引方法に該当しないとされています。本契約においては, 対象情報にノウハウも含まれるので秘密保持期間については, 確定期限を設けず, 本契約の有効期間中及び本契約終了後も継続して存続するものとしています。

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Q12:解除及び期限の利益喪失


A12: 以下に規定例を示します。
 

第11条   解除及び期限の利益喪失

1.      ライセンサー及びライセンシーは, 相手方が次の各号の一に該当した場合, 何ら催告をすることなく, 直ちに本契約の全部又は一部を解除できるものとする。

(1)      本契約に違反し, かつ, その違反状態が相手方からの書面での通知後10日以内に是正されない場合

(2)      監督官庁より営業の許可取消し, 停止等の処分を受けた場合

(3)      手形又は小切手が不渡りとなった場合, 支払停止があった場合又は支払不能状態となった場合

(4)      差押え, 仮差押え又は競売の申立てがあった場合

(5)      公租公課の滞納処分を受けた場合

(6)      破産手続開始, 民事再生手続開始, 会社更生手続開始又は特別清算開始の申立てがあった場合

(7)      解散の決議があった場合

(8)      その他信用状態が著しく悪化し又は本契約を継続し難い事由が発生した場合

2.      ライセンサー又はライセンシーは, 自己が前項各号の一に該当した場合, 相手方からの通知催告がなくても当然かつ直ちに相手方に対する一切の債務につき期限の利益を失い, 直ちに相手方に弁済しなければならないものとする。

【解 説】


本QAシリーズの第10回の解説を参照して下さい。

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Q13:契約終了時の措置


A13: 以下に規定例を示します。
 

第12条   契約終了時の措置

1.      本契約の期間満了又は解除後直ちに, ライセンシーは, 許諾製品の製造, 販売その他本契約に基づき許諾された全ての行為を停止し, 全ての未販売の許諾製品を廃棄し, かつ, その廃棄数量をライセンサーに書面で報告するものとする。

2.      前項にかかわらず, 本契約の有効期間又はその更新期間が満了し更なる更新がされない場合で, かつ, ライセンシーについて前条第1項各号に掲げるいずれの事由も生じなかった場合, ライセンシーは, 当該期間満了後3ヶ月間は, 当該期間満了時点で未完成の許諾製品を完成し, 又, 許諾製品の在庫を販売する権利を有するものとする。

3.      前項の場合, ライセンシーは, 第4条, 第5条及び第6条に定めるライセンス料の支払いに関する規定を含め, 本契約の条件に従わなければならない。

4.      ライセンシーは, 前項に定める3ヶ月の期間満了後10日以内に, 全ての未販売の許諾製品を廃棄し, かつ, ライセンシーを代理又は代表する権限ある者が当該許諾製品は全て廃棄された旨を証明する書面をライセンサーに提出するものとする。

【解 説】


本条は, 本契約の有効期間又はその更新期間が満了しかつ更なる更新がされない場合, すなわち, 本契約が平和的に自動終了した場合に適用される規定です。そのような場合, ライセンシーとしては契約終了後も一定期間は製造中の製品を完成し, 又, 在庫を販売する機会を与えてほしいと欲すると思われます。ライセンサーとしても契約違反がなく平和的に契約が終了した場合にまでこれを拒絶する理由はないと思われるのでその為の規定を置いたものです。

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Q14:反社会的勢力の排除


A14: 以下に規定例を示します。
 

第13条   反社会的勢力の排除

1.      ライセンサー及びライセンシーは, 相手方に対し, 自己, 自己の役員その他自己の経営に実質的に関与している者又は代理人が, 現在及び将来にわたって, 次の各号のいずれにも該当しないことを表明し確約するものとする。

(1)      暴力団, 暴力団員, 暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者, 暴力団準構成員, 暴力団関係企業, 総会屋, 社会運動標榜ゴロ, 特殊知能暴力集団, その他これらに準ずる者(以下総称して「反社会的勢力」という)であること

(2)      反社会的勢力が実質的に経営を支配し又はこれに関与していること

(3)      自己又は第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもって不当に反社会的勢力を利用していること

(4)      反社会的勢力に資金等を提供し, 又は便宜を供与する等, 反社会的勢力の維持, 運営に協力し又は関与していること

(5)      反社会的勢力に自己の名義を利用させ本契約を締結するものであること

(6)      前各号の他, 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係にあること

2.      ライセンサー及びライセンシーは, 自ら又は第三者を利用して次の各号の一にでも該当する行為を行わないことを確約するものとする。

(1)      暴力的な要求行為

(2)      法的な責任を超えた不当な要求行為

(3)      取引に関して脅迫的な言動を行い又は暴力を用いる行為

(4)      風説を流布し, 偽計もしくは威力を用いて相手方の信用を毀損し, 又は相手方の業務を妨害する行為

(5)      その他前各号に準ずる行為

3.      ライセンサー及びライセンシーは, 相手方が前各項に違反した場合には, 何ら催告をすることなく, 直ちに全ての本契約を解除できるものとする。

【解 説】


本QAシリーズの第13回の解説を参照して下さい。

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Q15:一般条項


A15: 以下に規定例を示します。
 

第14条   一般条項

1.      ライセンサー及びライセンシーは, 各国の輸出管理又は経済・貿易制裁もしくは制限に関連するものを含め(但し, これに限らない), 適用ある各国の法令又は行政機関もしくは司法機関の命令を遵守するものとする。

2.      ライセンサー及びライセンシーは, 自己が合理的に管理できない事由により生じた義務の履行遅延と不履行については, その責を免れるものとする。

3.      ライセンサー及びライセンシーは, 相手方の書面による事前の承諾なく, 本契約に基づく権利又は義務を他に譲渡し又は担保に供してはならないものとする。

4.      本契約は, 本サービスに関するライセンシーとライセンサー間の合意の全てを規定したものとし, 両者の書面による合意のない限り, 他の如何なる契約条件にも優先するものとする。

5.      ライセンシーとライセンサー間に本契約の解釈その他につき疑義又は紛争が生じた場合には, 両当事者は誠意をもって協議し解決に努めるものとする。

6.      本契約に関する事項に関しては, 日本法を準拠法とし, これらに関するライセンシーとライセンサー間の訴訟については, 東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とするものとする。

【解 説】


第6項以外の条項に関しては, 第39回の「Q28:その他一般条項」の解説を参照して下さい。

【第6項】民事訴訟法(以下「民訴法」)6条1項によると, 特許権, 実用新案権, 回路配置利用権又はプログラム著作権に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」)については, 裁判管轄の原則規定(民訴法4条,5条)によれば, 東日本の地裁(東京・名古屋・仙台・札幌の各高裁管轄区域内の地裁)に管轄権がある場合については東京地裁が専属管轄を有し, 西日本の地裁(大阪・広島・福岡・高松の各高裁管轄区域内の地裁)に管轄権がある場合については,大阪地裁が専属管轄を有します(民訴法6条1項)。これは, 特許権等に関する訴えを, 専門的処理体制の整った東京地裁と大阪地裁に集中することにより, 審理の一層の充実及び迅速化を図るためです。この民訴法6条1項による東京地裁又は大阪地裁の専属管轄は, 契約でこれと異なる合意管轄を定めていても適用されます(民訴法13条1項)。但し, 東京地裁と大阪地裁の専門的処理体制に相違はないことから, 例えば, 契約で東京地裁を専属的合意管轄裁判所としていた場合には, 民訴法6条1項によると大阪地裁に提起されるべき事件が東京地裁に提訴されたとしても東京地裁の管轄が認められます(民訴法13条2項)。[2] ここで, 「特許権等に関する訴え」には, 特許権侵害差止請求訴訟・損害賠償請求訴訟等に限られず,特許権の専用実施権や通常実施権の設定契約に関する訴訟等を含むと解されています(知財高裁平成28年8月10日(平成28(ラ)10013))。

そこで, 本契約では, 特許権等に関する訴えの他, 本契約に関する全ての事項に関する訴えについて, 東京地裁を専属的管轄裁判所としています。「東京地方裁判所」は「大阪地方裁判所」でも構いません。

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Q16:契約書末尾


A16:以下に規定例を示します。
 

以上の通りライセンサー及びライセンシーは合意し本契約を締結する。

 

ライセンサー:東京都XX区XX X丁目X番地X


__________株式会社


代表取締役社長(又は「○○○○事業本部長」等他の役職名) XX XX


ライセンシー:東京都YY区YY Y丁目Y番地Y


__________株式会社


代表取締役社長(又は「○○○○事業本部長」等他の役職名) XX XX


【解 説】


本QAシリーズの第3回(こちらから)を参照して下さい。

なお, 末尾文言を, 「...記名押印の上..」のような文言を避け, 本契約を電子契約・電子署名で締結する場合にも使えるようにしています。

 

今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[3]

[1] 【訂正審判等における通常実施権者の承諾の不要化】 (1)三枝国際特許事務所「【日本】特許法改正-訂正審判等における通常実施権者の承諾が不要に」2022年01月, (2)佐藤 慧太「訂正審判請求・訂正請求をする場合のライセンシー(通常実施権者)の承諾について(令和3年特許法改正)」2021.10.10, 創英国際特許法律事務所, (3) 本間博行「訂正請求等における通常実施権者の承諾要件見直し」秀和特許事務所ニューズレター2023.3

[2]「特許権等に関する訴え」の裁判管轄】 (参考) 最高裁判所「知的財産権訴訟の管轄について

[3]

 

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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