QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第46回Webサービス利用規約:~利用期間とその更新
2023/04/15   契約法務, 民法・商法, 消費者契約法, 個人情報保護法

第45回からWebサービスの利用規約について具体的な条項を提示した上解説しています。[1] 今回は, その第2回で, 本サービスの提供および利用並びに無償試用/利用料/利用期間とその更新について解説します。

 

【目  次】


Q1: 契約名称・前文


Q2: 定 義


Q3: アカウントの作成, 登録および利用契約の成立


Q4: アカウントの管理 (以上前回)


Q5: 本サービスの提供および利用並びに無償試用


Q6: 利用料


Q7: 利用期間とその更新 (以上今回)


Q8: 本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い


Q9: 本規約またはサービス条件書の変更


Q10: 本サービスの内容変更


Q11: 本サービスの中断または廃止


Q12: 禁止事項および遵守事項


Q13: 本サービスの不具合に関する責任


Q14: 秘密保持および資料などの返還


Q15: 解除および期限の利益喪失並びに契約終了後の措置


Q16: 反社会的勢力の排除


Q17: 損害賠償


Q18: 一般条項


 

Q5: 本サービスの提供および利用並びに無償試用


A5: 以下に規定例を示します。
 

第4条  本サービスの提供および利用並びに無償試用

 1.      利用契約が成立した場合, 当社は, 本規約および利用契約に従い, ユーザに対しユーザ自身の業務のために本サービスを利用する非独占的, 譲渡不可, 再許諾不可かつ制限付きの権利を許諾したものとし, ユーザは, 本規約および利用契約に従い, 本サービスを利用するものとします。

2.      ユーザは, ユーザ自身の業務処理に必要な限度で, かつ, ユーザの監督および責任のもとで, 自己の従業員および業務委託先に, 本規約および利用契約に定める条件で, 本サービスを利用させることができるものとします。

3.      ユーザは, 有償・無償を問わず, 第三者にサービスを提供するために本サービスを利用しないものとします。

4.      当社は, 本サービスに関する業務の一部または全部を, 当社の判断および責任で第三者に委託できるものとします。

5.      当社がユーザに本サービスまたはその一部機能の無償試用(以下「無償試用」という)を可能としている場合, ユーザは, サービス条件書に定める範囲・条件および期間に従い, 評価目的でのみ, 本サービスを無償で利用できるものとします。

【解 説】


【第1項】第2条第7項・第8項(前回Q3参照)に定める通り, ユーザが自己の希望するサービスのタイプ・内容, 利用期間等を選択して利用申込(=登録)をし, これに対し, 当社(本サービスの提供者)が承諾して登録を完了した旨をアカウント上で表示することにより, 個々の利用契約が成立します。第1項では, その利用契約が成立した場合には, ちょうどソフトウェアのライセンスのように, 当社からユーザに対し本サービスを利用する権利を許諾したものとするとしています。

「ユーザ自身の業務のために」:本契約は, ユーザが本サービスのエンドユーザ(最終利用者)であることを前提にしています。従って, 仮にそれが可能だとしてもユーザが本サービスを他の者のために利用すること, または, 他の者に利用させることは原則として禁止されます。

【第2項】この第2項は, 前項(第1項)の「ユーザ自身の業務のために」を受けて, ユーザによる本サービスの利用範囲・条件について, ユーザ自身の業務処理に必要な限度でのみ利用できること, ユーザの監督および責任のもとで, 自己の従業員および業務委託先にのみ本規約および利用契約に定める条件で本サービスを利用させることができるものとしています。

【第3項】第3項は, 第1項の「ユーザ自身の業務のために」を受けて, ユーザが, 有償・無償を問わず, 第三者にサービスを提供するために本サービスを利用することを禁止しています。

【第4項】本サービスの法的性質が民法上の準委任契約(民法656条, 643条)だとすると, 受託者(当社)が本サービスの提供業務の一部または全部を他に再委託するにはユーザの同意が必要になります(民法第644条の2)。一方, 請負だとすると, 請負人(当社)は自由に再委託できます。

Webサービスでは, そのサービス提供のために第三者のサービスを利用することはよく行われており, ユーザとしても, 仮にそうだとしても全体として良好なサービスが提供されていれば特に問題はありません。

そこで, この第4項で, 当社は, 本サービスに関する業務の一部または全部を, 当社の判断および責任で, 従って, 相手方(ユーザ)の同意なく, 第三者に委託できるものとしています。

【第5項】Webサービスでは, 予め利用希望者に一定期間無償試用の機会を与え, その試用期間経過後自動的に有償サービスに移行する等の形態が多く採用されています。無償試用は, ユーザにとって利益があるだけでなく, サービス提供者にとっても, そのサービスの販売促進策になること, ユーザに実際に利用・評価してもらいある程度納得してもらった上で有償サービスに移行されるので, その移行後にユーザから不満・クレームがなされる可能性を少なくできるというメリットがあります。

本項では, 無償試用を実施する場合におけるその範囲・条件および期間は, サービス条件書, すなわち, Webサイトに掲載することとしています。

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Q6: 利用料


A6: 以下に規定例を示します。
 

第5条  利用料

1.       ユーザは, 利用契約に定める利用料を利用契約に定める支払期限・条件に従い支払うものとします。

2.       利用期間の更新時には, その更新時に有効なサービス条件書に定める利用料が適用されるものとします。

3.       ユーザが利用料の支払を遅延した場合, 当社は, 年14.6%の利率で計算した金額を遅延損害金として請求できるものとします。

【解 説】


【第1項】本契約では, 本サービスの利用料は, 本サービスの他の条件とともに, サービス条件書, すなわち, Webサイトに掲載することとしており, ユーザは, そこに記載された利用料の額および支払期限・条件を確認した上で, 利用申込(=登録)をし, これに対し, 当社が承諾して登録を完了すると, 利用契約が成立します。

本項では, ユーザはそのようにして利用契約に定められた(合意された)利用料を, やはり利用契約に定める支払期限・条件に従い支払うものとしています。

【第2項】利用契約の利用期間が更新された場合, その更新時点では利用料が値上げにより変更されている場合があります。

この場合, その利用料変更が, 民法第548条の4(定型約款の変更)に定める「定型約款の変更」(=定型約款に基づき締結された契約の契約期間中の変更)であるとすると, 同条に定める「定型約款の変更」の実体的・手続的要件が満たされなければ, その利用料変更を行うこと, 言い換えれば, その値上げ後の利用料を更新後の契約に適用することができません。しかし, 値上げは通常相手方(ユーザ)の利益に反するので, これら要件を充足することは困難です。

そこで, 本契約では, 「利用契約」の定義(第1条第11項)[2]において, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により別々の利用契約が成立すること, および, 各「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書(利用料を含む)が適用されるとして, 上記のような問題を回避しようとしています。

【第3項】第44回のQ6で解説した通り, 消費者契約法(第9条)上, 消費者に課す支払遅延損害金については「年14.6パーセント」を超える部分は無効とされているので, 本項では, その支払遅延損害金の最大限である年14.6%の利率を適用しています。

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Q7: 利用期間とその更新


A7: 以下に規定例を示します。
 第7条   本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い

 1.       本サービスに関する著作権, 特許権などの知的財産権その他全ての権利は, 当社または当社以外の権利者に留保されるものとします。

2.       ユーザが本サービスの利用上, 入力, 送信その他当社に提供する情報, データ, 著作物その他のもの(ユーザ情報を含む)(以下「ユーザ提供情報」という)に関する権利は, ユーザまたはユーザ以外の権利者に留保されるものとします。

3.       当社は, ユーザ提供情報を, 当社が本サービスの運営, 維持または改善のために必要な範囲で利用できるものとします。

4.       当社は, ユーザ提供情報に含まれる個人情報を, 前項および個人情報の保護に関する法律に従い取り扱うものとします。

5.       当社は, 事由の如何を問わず, ユーザに対する本サービスの提供が終了した場合には, ユーザ提供情報を全て削除できるものとします。

6.       前項の場合において, ユーザは, 当社が削除する前でも, 当社に通知しユーザ提供情報を全て削除するよう指示できるものとします。

7.       前各項にかかわらず, 当社は, 法令または裁判所もしくは行政機関の命令によりユーザ提供情報の保存または開示を義務付けられる場合にはその義務を履行するものとします。

【解 説】


【第1項】ソフトウェアライセンス契約と同様, 本サービスに関する知的財産権等が当社(または当社以外の原権利者)に留保されることを明記しています。

【第2項・第3項】本サービスに関連しユーザから提供された情報(「ユーザ提供情報」)について, その著作権などの権利の帰属や, サービス提供者(当社)がその情報(著作物に該当する場合がある)を利用できるか否か等が問題になります。本契約では, 権利はユーザ側に留保され, 当社は, ユーザ提供情報を,本サービスの運営(例:投稿機能提供), 維持または改善のために必要な範囲で(のみ)利用できるものとしています。

【第4項】ユーザ提供情報に個人情報が含まれている場合, 本サービスの運営・維持・改善のために必要な範囲でかつ個人情報保護法に従いこれを取り扱うことを定めています。

【第5項~第7項】ユーザが本サービスの利用を終了した等の場合, ユーザ提供情報の取扱いが問題となります。本契約では, 当社の判断で削除できること, ユーザからも当社に削除を指示できること, 法令上保存が必要な場合には保存できることを定めています。

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の


 

[3]

 

[1] 【本稿における主な参考資料】 (1) 消費者庁の消費者法「逐条解説(令和5年2月)」第8条~第10条部分, (2) 増田雅史, 杉浦健二, 橋詰卓司「新アプリ法務ハンドブック」 2022/12/12, 日本加除出版(以下「増田他」という)第3章(p.96-132), (3) 伊藤 雅浩, 久礼 美紀子, 高瀬 亜富 「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」2021/10/18, 商事法務第5章(クラウドサービス利用規約)(p.149-181), 参考資料 契約条項例(p.254-260)

[2] 「利用契約」の定義(第1条第11項)】 『(11) 「利用契約」とは, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により成立する本サービス利用に関する契約を意味し, 「現行利用契約」とはその時点の利用期間に関する利用契約を意味します。「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されるものとします。』

[3]

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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