QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第45回Webサービス利用規約:~アカウントの管理
2023/04/01   契約法務, 民法・商法

今回からWebサービスの利用規約について具体的な条項を提示した上解説していきます。[1] 今回は, その第1回で契約名称・前文/定義/アカウントの作成, 登録および利用契約の成立/アカウントの管理を解説します。

 

【目  次】

Q1: 契約名称・前文

Q2: 定 義

Q3: アカウントの作成, 登録および利用契約の成立

Q4: アカウントの管理 (以上今回)

Q5: 本サービスの提供および利用並びに無償試用

Q6: 利用料

Q7: 利用期間とその更新

Q8: 本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い

Q9: 本規約またはサービス条件書の変更

Q10: 本サービスの内容変更

Q11: 本サービスの中断または廃止

Q12: 禁止事項および遵守事項

Q13: 本サービスの不具合に関する責任

Q14: 秘密保持および資料などの返還

Q15: 解除および期限の利益喪失並びに契約終了後の措置

Q16: 反社会的勢力の排除

Q17: 損害賠償

Q18: 一般条項

 

Q1: 契約名称・前文


A1: 以下に規定例を示します。
 

○○○○(サービス名)利用規約


 

本規約は, ○○○○(サービス名)を利用する全てのユーザに適用されます。ユーザは, 本規約への同意ボタンをクリックしまたは本サービスを利用することにより, 本規約の内容に同意し本規約を当社との利用契約の内容とすることに合意したものとみなされます。

従業員など法人に属する個人は, その法人での職務として本サービスを利用する場合, その法人に代わり本規約に同意したものとします。

本規約に同意できない場合または同意の権限・能力がない場合, 本サービスの利用を開始せずまたは利用を停止して下さい。

【解 説】


【前文第1文】 民法第548条の2第1項に従い定型約款の合意が成立するよう同項の文言を意識して規定しています。

【前文第2文・第3文】 法人の場合, 「本規約への同意ボタンをクリックしまたは本サービスを利用する」者は通常従業員なので, その従業員はその法人に代わり本規約に同意したものとみなすこととしています。そして, もし, 本規約に同意できない場合またはその従業員にその法人に代わり本規約に同意する権限がなければ, 本サービスを利用しないよう要求しています。

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Q2: 定 義


A2: 以下に規定例を示します。
 

第1条  定 義

本規約で用いる以下の用語の意味はそれぞれ以下の通りとします。

(1)      「本サービス」とは, 当社が「○○○○(サービス名)」の名称(またはこの名称が変更された場合にはその変更後の名称)で提供するサービスを意味します。本サービスの内容および条件は, その時点で有効な「サービス条件書」の通りとします。

(2)      「ユーザ」とは, 本サービスの利用者または利用申込者を意味し, それらの者が所属法人での職務として本サービスの利用または利用申込をする場合にはその法人を意味します。

(3)      「当社」とは, ○○○○株式会社を意味します。

(4)      「本規約」とは, この利用規約およびサービス条件書を意味し, それらが変更された場合にはユーザが登録を行う時点で有効なものを意味します。

(5)      「サービス条件書」とは, 本サービスのタイプ, 内容, 利用方法, 利用制限(利用機器, 同時利用ユーザ数など), 稼働条件, 利用料とその支払期限・条件, 利用期間, 無償試用期間, その他本サービスの内容および条件に関する記載(FAQを含む)であって, 当社が本サイトに掲載するものの総称とします。但し, 本規約に矛盾抵触する内容を除きます。

(6)      「アカウント」とは, ユーザが本サービスを利用するために本サイト上に作成するユーザアカウントを意味します。

(7)      「ユーザ情報」とは, ユーザがアカウント作成などに関連し当社に提供するユーザに関する情報を意味します。

(8)      「登録」とは, ユーザがアカウントを通じて行う本サービスの利用申込または利用期間の更新もしくは不更新の申込を意味し, 既に完了した登録の変更申込を含みます。

(9)      「アカウント情報」とは, ユーザ情報, ユーザがアカウントにログインするため使用するログイン情報(ユーザID, パスワードなど)および登録の内容を意味します。

(10)   「利用期間」とは, サービス条件書に定める1か月, 1年その他の単位の期間であってユーザが登録において選択する本サービスの利用期間を意味します。

(11)   「利用契約」とは, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により成立する本サービス利用に関する契約を意味し, 「現行利用契約」とはその時点の利用期間に関する利用契約を意味します。「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されるものとします。

(12)   「通知」とは本規約上ユーザまたは当社が相手方に行う通知を意味します。当社は, ユーザに対する通知を, ユーザのアカウントに表示することにより, または, ユーザがユーザ情報として当社に提供した電子メールアドレス宛てに電子メールを送信することにより行うことができるものとします。ユーザは, アカウントにログインした状態でアカウント上での設定・選択その他アカウントの機能を利用して当社に対する通知を行うものとします。但し, ユーザは, アカウントにログインできない場合, そのアカウントでの通知が適切でない場合または当社が別途求めた場合には他の適切な方法で当社に対する通知を行うものとします。通知は, それが通常到達すべき時に相手方に到達したものとみなします。

【解 説】


定義が必要な用語が多いので, 第1条に定義規定をおいてまとめて定義しています。

【(1)「本サービス」】 対象となるWebサービスの定義です。「(またはこの名称が変更された場合にはその変更後の名称)」としているのは, 将来サービス名称を変更した場合にも対応できるようにするためです。本サービス自体の内容および条件は, しばしば変更があり得るので別途「サービス条件書」で定めることとしています。

【(2)「ユーザ」】 本規約上の「ユーザ」は, 本サービスを利用する契約主体としての利用者の意味で, その契約主体たる法人の中で実際にサービスを利用する個々の従業員のことではありません。利用者と利用申込者とを別々に定義することも考えられますが, 本規約上はそのように分けて定義する必要はないので両者を総称して「ユーザ」としています。

【(4)「本規約」】 この利用規約の他, 本サービス自体の内容および条件であるサービス条件書を含めて「本規約」として定義しています。この利用規約およびサービス条件書は必要に応じ変更されることを予定しているので, ユーザが本サービスの申込の登録を行う時点で有効なものを意味するものとしています

【(5)「サービス条件書」】 本サービスのタイプ, 内容, 利用方法, 利用制限(利用機器, 同時利用ユーザ数など), 稼働条件, 利用料とその支払期限・条件, 利用期間, 無償試用期間, その他本サービス自体の内容および条件は, 本サービスが提供されるWebサイト上に掲載することとし, これらを総称して「サービス条件書」として定義しています。「但し, 本規約に矛盾抵触する内容を除きます。」の部分は, 本規約とサービス条件書間に矛盾抵触があれば本規約が優先適用されるということと実質的に同じです。

【(8)「登録」】 本規約上は, ユーザがアカウントを通じて行う本サービスの利用申込または利用期間の更新もしくは不更新の申込などのための登録を意味するものとしています。

【(11)「利用契約」】 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度にその登録完了により別々の利用契約が成立するものとしています。

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Q3: アカウントの作成, 登録および利用契約の成立


A3: 以下に規定例を示します。
 第2条  アカウントの作成, 登録および利用契約の成立

 

1.      ユーザは, 本サービスを利用するためアカウントを作成するものとします。

2.      当社は, アカウント作成に際しまたはその後必要に応じ, ユーザにユーザ情報の追加または補足を求めることができるものとします。

3.      ユーザは, ユーザ情報に変更が生じた場合には, その内容を直ちに当社に通知するものとします。

4.      ユーザは, 真実かつ正確なユーザ情報を提供するものとします。

5.      ユーザは, その時点で有効なサービス条件書に基づき, アカウントを通じ, 本サービスの登録または既に完了した登録の内容の変更登録を行うものとします。

6.      次の各号の一に該当する場合, 当社は, その理由を開示することなく, アカウントの作成もしくは登録を拒否しまたは既に作成されたアカウントもしくは既に完了した登録を廃止または抹消できるものとします。

(1)    ユーザ情報またはその他のアカウント作成もしくは登録に必須の情報が真実, 正確もしくは適切ではない場合またはそれらの一部でも提供されない場合

(2)    ユーザに利用契約の締結権限・能力があることが証明されない場合

(3)    ユーザが, 第15条(反社会的勢力の排除)を含め, 本規約の内容を遵守できずまたはそのおそれがある場合

(4)    ユーザが過去に本サービスその他当社との取引の条件に違反したことがある場合

(5)    その他当社がアカウントの作成または登録を受けないと決定した場合

7.      登録は, 当社がその登録を承諾して完了した旨をユーザに通知した時点で完了したものとします。

8.      前項の登録完了時点で, ユーザがその登録により申込み当社が承諾した内容により, 本規約を契約の内容とする利用契約が成立したものとします。

【解 説】


【第1項~第6項】 ユーザが本サービスを利用するには, 先ずアカウントを作成し, 次にそのアカウントを通じ, その時点で有効なサービス条件書を見て自己の希望するサービスのタイプ・内容, 利用期間等を選択して利用申込(=登録)をする必要があります。

サービスを提供する当社が, ユーザのアカウント作成や登録を拒否することは原則としてありませんが, 第6項に列挙する事由がある場合には, これを拒否する場合があります。なお, 契約締結の自由の原則(民法第521条第1項[2])から, 当社は特に理由がなくても, これを拒否できると解されますが, ユーザとのトラブルを回避するため, 具体的拒否事由を列挙した上で, 最後に「(5) その他当社がアカウントの作成または登録を受けないと決定した場合」としています。

【第7項・第8項】 ちょうど基本契約・個別契約の関係のように, ユーザが自己の希望するサービスのタイプ・内容, 利用期間等を選択して利用申込(=登録)をし, これに対し, 当社が承諾して登録を完了した旨をアカウント上で表示することにより, 個々の利用契約(≒個別契約)が成立し, その利用契約に対し, 本規約(≒基本契約)が共通して適用されるものとしています。

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Q4: アカウントの管理


A4: 以下に規定例を示します。
 

第3条  アカウントの管理

 

1.      ユーザは, アカウントおよびアカウント情報を適切に管理するものとし, 次条第2項の場合を除き, これらを第三者に開示しまたは利用させてはならないものとします。

2.      当社は, ユーザが設定したログイン情報を使用してなされた本サービスの利用を, ユーザによる利用とみなすことができるものとします。

3.      ユーザは, 第三者によるアカウントの利用またはアカウント情報の漏えい, その他アカウントに関しセキュリティ上の問題が発生しまたはそのおそれがあることを発見した場合, その旨直ちに当社に通知するものとします。

 

【解 説】


【第1項~第3項】 アカウント自体, および, アカウント情報(ユーザID, パスワードなど)の管理の責任をユーザに課し, その上で, 仮に第三者が勝手にそのアカウントを使って本サービスを利用したとしても, 当社としては, その利用をユーザによる利用とみなし, 利用料の請求などができるものとしています。とはいえ, 仮に第三者が勝手にユーザのアカウントを使っている場合, 本サービスのセキュリティに問題がある可能性もあるので, ユーザに対し当社への通知義務を課しています。

なお, 「次条第2項の場合を除き」としたのは, 次回解説する第4条第2項で「ユーザは, ユーザ自身の業務処理に必要な限度で, かつ, ユーザの監督および責任のもとで, 自己の従業員および業務委託先に, 本規約および利用契約に定める条件で, 本サービスを利用させることができるものとします。」と規定しているからです。

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[3]

 

[1] 【本稿における主な参考資料】 (1) 消費者庁の消費者法「逐条解説(令和5年2月)」第8条~第10条部分、(2) 増田雅史, 杉浦健二, 橋詰卓司「新アプリ法務ハンドブック」 2022/12/12, 日本加除出版(以下「増田他」という)第3章(p.96-132)、(3) 伊藤 雅浩, 久礼 美紀子, 高瀬 亜富 「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」2021/10/18, 商事法務

[2] 民法第521条第1項】 「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。」

[3]

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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