QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第26回 業務委託契約(契約条項)2
2022/06/15   契約法務

 

今回から業務委託契約の具体的条項について解説します。今回は、以下のQ3~Q6です。

Q1:契約前文・目的

Q2:本業務の実施条件と受託者の協力

Q3:業務終了報告書の提出

Q4:成果物の納入・受入検査

Q5:委託料およびその支払条件

Q6:再委託等

Q7:任意解除

Q8:契約不適合責任

Q9:成果物の著作権

Q10:個人情報の取扱い

Q11:その他条項・契約書全体

なお、本稿で解説する業務委託契約で委託される業務は、成果物の納入を要しない業務または成果物の納入がある場合でもその成果物は提案書、調査・分析報告書等の文書である業務に限り、物品の製造やコンピュータプログラムの開発等は含まないものとします(これらの業務の委託に関する契約は製作物供給契約、ソフトウェア開発請負契約等は別の契約として解説)。また、本稿で解説する業務委託契約書(ひな型)全文のPDFはこちらにあります。

 

Q3:業務終了報告書の提出


A3: 以下に規定例を示します。

第3条 (業務終了報告書の提出・終了確認等)


1.乙は、成果物の納入を要しない業務について、その終了(継続的業務については対象期間における業務の終了。以下同じ)に関する報告書(以下「業務終了報告書」という)を別紙に従い甲に提出するものとする。


2.甲は、業務終了報告書受領後別紙に定める期間(以下「業務終了確認期間」という)内に、当該業務終了報告書の対象業務(以下「対象業務」という)が第2条第1項に従いなされたか否か(以下、これを対象業務についての「適合」、「不適合」という)の確認(以下「終了確認」という)を行うものとする。


3.甲は、終了確認において、適合を確認した場合にはその旨、不適合を発見した場合にはその旨並びにその具体的内容および理由を、乙に書面(「書面」には電子的なものを含む。以下同じ)で通知するものとし、乙は、不適合の通知を受けた場合には直ちにその内容を確認するものとする。


4.乙は、前項に従い通知された不適合が存在する場合、速やかに、当該不適合を是正するために必要な対象業務の修正または再実施を行った上でその終了を甲に通知するものとする。この場合には前各項を準用する。


5.甲は、終了確認において不適合が確認された対象業務であっても、甲乙書面で合意した場合には、不適合の程度に応じ委託料を減額し対象業務を受入れることができるものとする。


6.前各項に従い、甲が適合を確認した旨を乙に通知した場合には当該通知の時点で、甲が終了確認期間が経過するまでに適合・不適合いずれの通知も行わなかった場合にはその経過時点で、甲および乙が前項の合意をした場合にはその時点で、当該対象業務について終了確認が終了したものとする(以下、これを対象業務についての「検収」という)。


7.甲は、本業務の遂行に支障を生じさせる事由が生じた場合、その旨直ちに甲に通知し、その対応について甲と協議するものとする。


8.乙は、第1項および前項に定める他、甲が要求した場合には、いつでも本業務の実施状況を報告するものとする。


 
以下は別紙の該当部分です。

3.業務終了報告書の提出および業務終了確認期間:


(1)業務終了報告書の記載内容、継続的業務については報告書の対象期間、報告書の提出期限等: ......


(2)業務終了確認期間:業務終了報告書受領後○日以内


【解 説】


本条においては、成果物の納入を要しない業務((準)委任業務および成果物の納入を要しない請負業務)について、その委託料支払いの前提条件として、委託料支払いの前提条件として、売買の目的物の「納入⇒受入検査⇒検収」の手続に準じた手続等を定めています。第8項は(準)委任に関する民法645条(受任者による報告)と同様の規定です。

(第3条第2項)「(対象業務が)第2条第1項に従いなされた」こと(=「適合」):対象業務が別紙に定める内容および実施条件に従い、善良な管理者の注意をもって実施され、仕事の完成を要する業務については更にその仕事が完成(完了)されたことを意味します。

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Q4:成果物の納入・受入検査


A4: 以下に規定例を示します。

第4条 (成果物の納入・受入検査)


1. 別紙に乙が成果物を納入すべき旨が定められている場合、別紙に定める条件に従い、乙は成果物を甲に納入し、甲はこれを受領するものとする。


2. 甲は、成果物受領後別紙に定める期間(以下「受入検査期間」という)内に、成果物が別紙に定める仕様を含め第2条第1項に従い作成されたものであるか否か(以下、これを成果物についての「適合」、「不適合」という)の検査(以下この検査を「受入検査」という)を行うものとする。


3.甲は、受入検査において適合を確認した場合にはその旨、受入検査において不適合を発見した場合にはその旨並びにその具体的内容および理由を、乙に書面で通知するものとし、乙は、不適合の通知を受けた場合には直ちにその内容を確認するものとする。


4.乙は、前項に従い通知された不適合が存在する場合、速やかに、これを是正するために必要な成果物の修正を行った上でその終了を甲に通知するものとする。この場合には前各項を準用する。


5.甲は、受入検査において不適合が確認された成果物であっても、甲乙書面で合意した場合には、不適合の程度に応じ委託料を減額し成果物を受入れることができるものとする。


6.前各項に従い、甲が適合を確認した旨を乙に通知した場合には当該通知の時点で、甲が受入検査期間が経過するまでに適合・不適合いずれの通知も行わなかった場合にはその経過時点で、甲および乙が前項の合意をした場合にはその時点で、当該成果物について受入検査が終了したものとする(以下、これを成果物についての「検収」という)。


7.甲は、別紙に定める期限まで成果物を納入することができない事由が生じた場合、その旨直ちに甲に通知し、その対応について甲と協議するものとする。


【解 説】


本条においても、別紙に乙が成果物を納入すべき旨が定められている場合について、その成果物に対する委託料支払いの前提条件として、売買の目的物の「納入⇒受入検査⇒検収」の手続に準じた手続等を定めています。

(第4条第2項)「成果物が別紙に定める仕様を含め第2条第1項に従い作成されたものである」こと(=「適合」):納入された成果物が別紙に定める仕様を含め別紙に定める内容および実施条件に従いかつ善良な管理者の注意をもって作成されたものであることを意味します。

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Q5:委託料およびその支払条件


A5: 以下に規定例を示します。
 

第5条 (委託料およびその支払条件)


1.甲が乙に支払うべき本業務の対価(以下「委託料」という)は、別紙に定める通り(但し、終了確認または受入検査において委託料の減額が合意された場合は当該減額後の額)とする。


2.甲は、検収のなされた対象業務または成果物について、別紙に定めるところにより、その委託料および消費税額(地方消費税額を含む)を、乙が甲に事前に書面で届け出た銀行口座に全額振り込むことにより支払うものとする。


以下は別紙の該当部分です。

 


4.委託料およびその支払条件


(1)委託料:[例:(i)業務実施1時間当たり○○円の実績払い、(ii)○○円(但し最大業務実施時間○○時間)、(iii)○○円(固定金額)]


(2)支払期限:[例:検収月の翌月末日等]


(3)中間払い等がある場合はその内容および条件:


【解 説】


上記別紙に記載すべき委託料の決め方には様々なものがあり得ます。上記例の(i)は時間単価の実績払い(他に月単価作業1件当たり単価が考えられる)、(ii)は固定金額を定めるもののその金額内で行う最大作業時間数等を制限するもの、(iii)は、単に固定金額を定めるものです。

また、委託料またはその支払期限については、委託業務がいくつかある場合または委託業務に成果物の納入とその他の業務とがある場合にそれぞれ別々に定めること、委託業務の各フェーズごとに定めること、全ての委託業務に対する委託料を一括して支払うこと等、様々な定め方があり得ます。

別紙にこれらを正確かつ明確に記載しなければなりません。

(下請法の適用がある場合の支払期限)下請法の適用がある場合(第24回Q3参照)、支払期限は、委託者(親事業者)が受託者(下請業者)の成果物を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して60日(運用上は2か月でも可[1])の期間内において定めなければなりません(下請法第2条の2)。

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Q6:再委託等


A6: 以下に規定例を示します。

 


第6条 (再委託等)


1.乙は、本条に従い事前に甲が承諾した場合に限り、本業務の一部または全部を第三者に再委託することができるものとする。


2.乙は、本業務の一部または全部を第三者に再委託しようとする場合、事前に、甲に対し、その旨、再委託対象業務、当該第三者の名称、住所、事業内容、再委託の理由その他再委託に関する情報を記した書面を提出し甲の承諾を申請するものとする。


3.甲は、前項の書面(以下「再委託申請書」という)受領後○日以内に、当該再委託を承諾するか否かを書面で乙に通知するものとする。


4.甲が再委託申請書に対しこれを承諾する旨を乙に通知した場合には当該通知の時点で、甲が前項の期間が経過するまでに諾否いずれの通知も行わなかった場合にはその経過時点で、当該再委託が再委託申請書記載内容の通り甲により承諾されたものとする。


5.前各項は、既に別紙に記載され甲が承諾している再委託に関しては適用しない。


6.乙は、再委託先との間で、事前に、再委託対象業務に関し、乙が本契約に基づき負う義務と同等の義務を再委託先に課す再委託契約を締結するとともに、再委託先が当該義務を遵守するよう、再委託先に対する必要かつ適切な監督を行うものとする。


7.乙は、再委託先による再委託対象業務の履行について、自ら当該業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。


8.前各項は、乙が再委託対象業務または再委託先を変更しようとする場合、および、別紙において本業務の業務従事者またはその条件が限定されている場合において乙がその内容を変更しようとするときに準用する。


以下は上記の第5項に関する別紙の該当部分です。

 


5.再委託 [既に甲が承諾している再委託がある場合に必要事項記入]


乙は、以下の業務を以下の再委託先に再委託できるものとする。


(1)再委託対象業務の内容: ......


(2)再委託先: ......


 


【解 説】


再委託は、(準)委任の場合、民法上、受託者は、委託者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者(再委託先)を選任することができません(644の2(1)、656)。一方、請負の場合は、再委託について民法上制限はなく請負人は自由に再委託できると解されています。本契約例では、(準)委任に該当する業務と請負に該当する業務を区別せずどちらについても再委託について委託者(甲)の事前承諾を要するものとしています。委託業務の一部または全部について事前承諾不要とする場合は、上記の第6条第5項に従い、別紙の5の(1),(2)を「(1)再委託対象業務の内容:...(該当する業務を記載)」、「(2)再委託先:乙が選択する」のようにすることが考えられます。

第6条第8項では、受託者が再委託対象業務または再委託先を変更しようとするとき、または、別紙において業務従事者またはその条件が限定されている場合において乙がその内容を変更しようとするときに、本条の規定を準用することとしています。

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[2]

【注】                                   

[1] 【下請代金支払期限の「60日」以内】テキスト p 44以下の「● 月単位の締切制度」に次の通り記載されている。「下請代金は,下請事業者の給付の受領後 60 日以内に支払わなければならないところ,継続的な取引において,毎月の特定日に下請代金を支払うこととする月単位の締切制度を採用している場合がある。例えば,「毎月末日納品締切,翌月末日支払」といった締切制度が考えられるが,月によっては 31 日の月(大の月)もあるため,当該締切制度によれば,月の初日に給付を受領したものの支払が,受領から 61 日目又は 62 日目の支払となる場合がある。このような場合,結果として給付の受領後 60 日以内に下請代金が支払われないこととなるが,本法[下請法]の運用に当たっては,「受領後 60 日以内」の規定を「受領後2か月以内」として運用しており,大の月(31 日)も小の月(30 日)も同じく1か月として運用しているため,支払遅延として問題とはしていない...なお,検収締切制度を採用する場合,検査に相当日数を要する場合があるが,検査をするかどうかを問わず,受領日から 60 日以内において,かつ,できる限り短い期間内に設定した支払期日に下請代金を支払う必要があることから,検査に要する期間を見込んだ支払制度とする必要がある。」

[2]

 

【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐ等してご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格 (現在は非登録)。2003年Temple University Law School  (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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