QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎 17回_その他共通条項
2022/02/01   契約法務

 

本シリーズの第9回から前回第16回まで, 各種契約に共通して規定される条項の内ポピュラーでかつ詳しく説明する必要のある条項を解説してきました。今回は, 共通条項に関する解説の最終回としてその他の共通条項をまとめて解説します。

【目  次】


(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)


Q1: その他の共通条項にはどのようなものがあるのか?


Q2: ごくシンプルな共通条項(一般条項)の例は?


 

Q1: その他の共通条項にはどのようなものがあるのか?


A1: 以下にその他の共通条項の例を列挙し(順不同), 英文契約の共通条項との比較, その条項例, 使用場面, 実務的必要性, 条項の起案・交渉の難易などに関し説明します。なお, 各条項例は, 必ずしもその内容の適否を問わず, サンプルとして挙げたものです。また, 下記文中の「英文〇回」は筆者が書いた企業法務ナビ「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ(各回URL付き一覧表はこちら)の回数です。

契約終了後に存続する規定に関する条項

(条項例)


本契約第○条, 第○条第〇項 ……… の規定, 並びに, その性質上本契約終了後も存続することが意図されている規定は, 本契約終了後も存続するものとする。


—契約には, 秘密保持/製品保証/裁判管轄など, 契約解除または期間満了後にも存続させるべき規定がある。英文契約(国際契約)ではそれを明記する条項が置かれることが多い(英文25回参照)。国内契約ではこのような条項がない契約も多いが, 最近ではそれがある契約も増えてきた。日本法上は, このような条項は, それがなくても性質上当然存続させるべき規定は存続すると解釈されると思われ, 必須ではないと思われる。

しかし, 当事者が存続を意図しているものの客観的には存続するのか否か判然としない規定もあるので, その場合は, 上記条項例のように個々の条項を列挙するか, または, 個々の条項中にその旨明記すべきである。

一方, 列挙スタイルでは反対解釈として列挙されていない条項は存続しないと解される可能性があり, そのことをあまり心配すると, 本来存続させるべきではない条項まで列挙してしまうおそれがある。この点について, 上記条項例は, 存続させるべきものと確実に判断できる条項を並べた上で, 漏れを防ぐため「並びに, その性質上...」と続けたものである。

紛争解決条項

 

(条項例)


甲乙間に本契約または個別契約の解釈その他につき疑義または紛争が生じた場合には, 両当事者は誠意をもって協議し解決に努めるものとする。本契約に関する甲乙間の訴訟については, 東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。


—英文契約では, 仲裁条項または裁判管轄条項が規定される(英文12~16回参照)。これに対し, 国内契約ではほとんどの場合裁判管轄条項が置かれる。

上記条項例の前段の誠実協議解決の部分は具体的な法的義務を課すものではなく紛争解決において現実的な意味のある規定ではない。しかし, 日本社会ではこのような文言が好まれる傾向があり, それがあっても有害ではなくそれを規定することに問題はない。

一方, 後段の裁判管轄規定については, これがなければ, 将来両当事者間で紛争が生じ訴訟が提起される場合, その訴訟を提起できる裁判所は民事訴訟法第4条以下に定める通りとなる(複数あり得る)[1]。しかし, 当事者は, 第一審に限り, 合意により管轄裁判所を定めることができ, この合意は, 一定の法律関係に基づく訴えに関し, かつ, 書面ですることにより有効にすることができる(同法11)。従って, 多くの場合, 紛争解決の予見可能性を高めるためなどの理由で, 法定の管轄を排除して特定の裁判所に専属的に管轄権を生じさせる上記条項例のような規定を置く。

一定の法律関係に基づく訴え」なので, 契約や法的根拠などを問わず「当事者間の一切の紛争に係る訴訟」などとする合意はそのまま有効とは認めらないが, 上記条項例のように「本契約に関する[一切の]甲乙間の訴訟」などと規定すれば足る。

合意でどこの裁判所を専属管轄裁判所とするかについては, 通常, 両当事者とも自社が原告でも被告でも自社本社所在地の地方裁判所など(例:東京地方裁判所, 大阪地方裁判所)が有利と考えそれを主張する。これについては客観的決め手はないことが多く, 最終的には両当事者間の力関係などにより定まる。

完全合意条項

 

(条項例)


本契約は, 本契約で規定する事項に関する甲乙間の合意の全てを規定したものとし, 両者の書面による合意のない限り, 他のいかなる契約条件にも優先するものとする。


—英文契約ではほぼ必ず規定される(英文17回参照)。最近は国内契約でも規定されることが増えてきたように思われる。これは, 契約書の規定内容を如何に必要十分なものにしたとしても, 日本の裁判所は, 紛争解決上, 契約書外の事情をも考慮して判断することがあり, それでは契約書を作成する目的(特に, 当事者間の契約内容の証拠としての機能, 契約履行時のルール(当事者の行為規範)としての機能などを発揮させること:本シリーズ第1回Q1参照)を十分に果たせないため, これを防止しようとするものである。なお, 裁判官がこの条項にどの程度拘束されるか否かは不明だが, 少なくとも当事者間の意思解釈上尊重されると思われる。

中途解除条項

 

(条項例1)


甲および乙は, 本契約の有効期間中であっても, 相手方に対し〇か月前までに書面で通知することにより, 本契約を解除することができる。


(条項例2)—AWS カスタマーアグリーメント(翻訳版)の7.2(a)から引用(一部省略)


サービス利用者は, アマゾンへの通知...により, 理由を問わず本契約を解除できる。アマゾンは, サービス利用者に遅くとも30日前までに通知することにより, 理由を問わず本契約を解除できる。


—販売店契約, オンラインサービスなどの継続的取引契約に規定されることが多い。

しかし,

(a)一般の継続的取引に関する基本契約では, 当事者間で個々の注文をする義務およびその注文を承諾する法的義務はないと解され中途解除条項を置く特段の必要性がない場合も多い(各当事者は注文せずまたは注文を承諾しなければよい。必要ならば契約期間更新時に終了させればよい)。

(b)継続的取引契約で, 中途解除条項があることは, その契約の安定的継続を望む側の当事者(主に商品・サービスの供給を受ける側。以下「買主」)にとり不利である。このような場合, 両者の力関係において供給者側が一方的に優位でなければ同条項を置くことは難しい。

不可抗力条項

 

(条項例1)—AWS カスタマーアグリーメント(翻訳版)の13.3から引用


アマゾンおよびアマゾンの関連会社は, 本契約に基づく義務の履行遅延または履行不能につき, かかる遅延または不履行がアマゾンの合理的な支配の及ばない原因によるものである場合には, 責任を負わない。かかる原因には, 天災, 労働紛争その他の産業騒乱, 停電, 公共サービスの停止, その他の通信障害, 地震, 嵐その他の自然現象, 封鎖, 通商停止, 暴動, 政府の行為もしくは命令, テロ行為, および戦争が含まれる。


(条項例2)


甲および乙は, 自己が合理的に管理できない事由により生じた義務の履行遅延と不履行については, その責を免れるものとする。


—英文契約で規定されることがある(英文20~22回参照)。最近は, 国内契約でも規定されることがある。特に不可抗力(民法にも登場するがその定義はない)に該当する事由を具体的に規定できれば, 実際にその事由が生じた場合の債務(義務)者側にとっての利益(損害賠償責任の免除など)は大きい。

しかし,

(a)通常, 不可抗力条項を必要としそれにより利益を得るのは商品・サービスの供給者側であり買主側にとっては不要・不利である。供給者側は, その債務について不可抗力事由が生じれば同条項により免責等の利益を得るが, 買主側はその反面として不利益を蒙り, また, その代金支払債務不履行による損害賠償責任を不可抗力もって免れることはできない(民法419(3))からである。

(b)不可抗力条項がなくても, 以下のような民法の規定により解決できる場合も多い。

a)民法415条(債務不履行による損害賠償)1項但書:「その債務の不履行が...債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは, この限りでない[免責される]」

b)民法536条(債務者の危険負担等)1項:「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは, 債権者は, 反対給付の履行を拒むことができる。」

c)不可抗力条項を適用する要件(不可抗力事由など)およびその効果(損害賠償責任の免除だけにするか解除権を与えるか)など, 条項の起案・契約交渉が難しいものもある。この条項を入れようとしたために契約交渉事項が増え, また交渉が長期化する可能性がある。

個人情報の取扱いに関する条項

 

(条項例)—秘密保持条項の最後に以下を規定


本契約の遂行に伴い甲乙間で取り交わされることある個人情報の取り扱いについても, 第1項但書[秘密情報から除外される情報]を除き, 本条前各項を準用する。


—特に, 重要または機微な個人情報の開示が想定される場合には必要性が高い。また, 個人情報の取扱いの委託契約などでは, 通常, 当然にかつ具体的に規定される。

しかし,

(a)一般的な契約に共通条項として規定しようとすれば, 契約全体とのバランスから簡単で短い条項とせざるを得ない(国内の契約では英文契約のような長文詳細な契約は好まれない)。そのような簡単で短い条項で個人情報保護法で定める以上の内容を規定できるか, その必要性があるかなどの問題がある(秘密情報と同様の扱いでよければ上記条項例のように規定することは可能)。

(b)個人情報保護法のコンプライアンスの観点から取引先との間で一律に独立した「個人情報の取扱いに関する覚書」などを締結しまたは同趣旨の差し入れ書を取り付けている場合は, 別途個々の取引契約中に規定する必要はなく, また, 規定する場合には両者の内容の整合性を図らなければならない。

通知に関する条項

 

(条項例)—購買基本契約のひな型でよく見かけるタイプ。


乙[供給者側]は, 自己に以下のいずれかの事由が生じた場合, 直ちにその旨書面で甲[買主側]に通知しなければならない。


(1)社名, 住所, 代表者その他甲への届出事項の変更


(2)合併, 会社分割, 株式交換, その他会社組織に関する重大な変更


(3)株式を全議決権の3分の1を超えて変動させること等, 会社の支配権の実質的変動


—英文契約では, 一般に, 契約解除通知を行うなどの場合を想定し, その通知の方法・言語・宛先, 更には通知が相手方に到達したとみなされる時点などの事項に関する条項を置くが, これは, 一般に通知条項と呼ばれる(英文24回参照)。国際契約である英文契約では, 異なる法制度を有し地理的にも離れている国の者同士の契約という性質から, これらの事項が重大問題になることが多いのでそのような内容の条項の必要性が高い。これに対し, 国内契約ではこれらの事項が重大問題になることは少ないのでこのような内容の条項を置く必要性は高くない。

国内契約では, 通知に関し規定するとしても, 上記条項例のような条項である。

しかし,

(a)自社と同等以上の相手方に上記のような条項を受入れさせることは難しい。

(b)相手方が上場企業や有名企業であれば, 上記条項例に定めるような事項は容易に知ることができる場合が多く, 上記のような条項例を置く必要性が乏しい場合がある。

契約の規定の分離(可能性)に関する条項

 

(条項例)


本契約のいずれかの規定が管轄権を有する裁判所により違法または無効と判断された場合でも, 本契約の他の規定は有効に存続するものとする。


—英文契約でよく規定される(英文19回参照)。

しかし, 日本の裁判所は, 上記のような条項がなくても, 問題の規定が契約全体を無効にすべき程に問題があると判断しない限り, 他の規定は有効なものと扱うと思われ, 国内契約で上記のような条項が必要・有用かは疑問である。

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Q2: ごくシンプルな共通条項(一般条項)の例は?


A2: 以下に筆者が企業法務の現役当時に作成しよく使用していた, 契約書の最後に置く条項例(タイトルは「一般条項」)を挙げます(契約解除, 損害賠償条項などに関する条項は, この契約条項の前でそれぞれ独立した条項として規定)。
 

第19条  一般条項


1. 甲と乙は, 自己が合理的に管理できない事由により生じた義務の履行遅延と不履行については, その責を免れるものとします。


2. 甲と乙は, 相手方の書面による事前の承諾なくして, 本契約または個別契約に基づく権利または義務を他に譲渡しまたは担保に供してはならないものとします。


3. 本契約は, 本契約で規定する事項に関する甲乙間の合意の全てを規定したものとし, 両者の書面による合意のない限り, 他のいかなる契約条件にも優先するものとします。


4. 甲乙間に本契約または個別契約の解釈その他につき疑義または紛争が生じた場合には, 両当事者は誠意をもって協議し解決に努めるものとします。本契約に関する甲乙間の訴訟については, 東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とするものとします。


 

今回はここまでです。

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「QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[2]                 

【注】                                   

[1] 【裁判管轄】 (参考) 福谷 賢典「管轄裁判所とその選択」 2017年07月07日, Business Lawyers

[2]

 

【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。


 
 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格 (現在は非登録)。2003年Temple University Law School  (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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