契約交渉時に考えるべき、契約違反時の損害賠償請求額の具体的なイメージ(後編)
2021/10/22 契約法務
このコラムでは、民間企業でのビジネス経験のある法務担当者が、企業法務の世界に関心のある方向けに、初めてでも分かりやすい内容に噛み砕いてノウハウを公開していきます。
はじめに
今回は、前編に続き、企業法務の主な仕事のひとつである「契約ドラフティング」をテーマに、その中でも比較的リスクを数値化しやすい、契約違反にもとづく損害賠償に関する条項について取り上げます。
損害賠償額は、X軸とY軸の掛け合わせをイメージする!
前編では、契約における損害賠償の規定を考えるときには、【1】責任の範囲(X軸)と【2】賠償額の上限(Y軸)に分ける考えるとお伝えしました。
さて、これらの使い方ですが、2つの座標軸を掛け合わせてみると、契約においてトータルでいくらの損害賠償を想定するのか考えやすくなります。以下のとおり、図にしてみました。
・X軸が責任の範囲であり、これが広くなると賠償を行う損害の範囲が広がります。
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この図は、掛け算のイメージを掴むための図にすぎませんが、コンセプト理解のためには差し支えないと考えます。
言うは易く行うは難しで、重要な案件になるほどこの部分の交渉はハードになります。しかし、難解な言い回しや長引く交渉に翻弄されないためには、この掛け算を念頭に、自社が請求されうる賠償額をビジネスに照らして合理的な範囲に収めるよう、関係者を巻き込んでいくべきと考えます。
損害賠償の範囲と上限の規定が役立つのは和解の時
これまで、契約条文の主要項目である損害賠償の規定について、ザックリ解説してきましたが、これが実際役立つのはどのようなシーンかということについても補足させていただきます。和解です(裁判所が関与しない、私法上の和解)。
例えば先の例でモノの売買における売主であった場合、製品不具合等による納期遅延が発生したとき、契約違反が生じるため、自然に損害賠償の議論に発展します。
企業同士が円滑な取引継続を望む場合、裁判を経ることなく、必要な金額を支払うことで問題解決を図ることになります。その際、契約条文に記載されている損害賠償の範囲と上限は、和解契約を通じて支払う損害賠償金額を決めるための拠り所となります。
条文の記載が曖昧な場合、その時点で交渉が発生します。しかし明確に実額の規定があれば、その記載金額をベースとして発生事例に見合う金額を合意しやすいです。
企業法務に携わる上で、裁判はコストでしかありません。訴えられる企業にとって、裁判を起こされると取引先からの信用を失うことになるばかりでなく、費用と時間のロスです。
内部の人件費、つまり法務部員というリソースを訴訟対応に割かなければならないですし、弁護士費用もかかります。また、一旦係争に入ってしまうと1年以上その案件に時間を費やさなければならないので、なるべく裁判に持ち込まなくても丸く収まるような契約を締結したいのです。
企業同士の裁判は、双方がどうしても譲れない場合であり、かつ、各当事者ともに自社の言い分が通ると踏んでいる時に起きます。そのようなケースは必要最小限にしたいですし、裁判になったら、いくら自社が契約上有利な条件を得られていても、裁判の過程で事実認定や法解釈があり、客観的な判断が第三者から下されることになるので、どのような結果になるのか確実な見通しは得られません。
まとめ
前編・後編の内容をまとめると、契約を締結する際には損害賠償の規定で①責任の範囲と②賠償額の上限を決め、支払うことになる金額を掛け算で想定することが大切、またそれを想定する際にはビジネスの理解が不可欠であり、いざ契約違反が生じた際には裁判に持ち込まず和解できるような形に落とし込むのが理想的、ということでした。
これからも、ビジネス目線で、企業にとって本当にメリットのある法務部員として活躍できるような豆知識や考え方を公開していければと考えています。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。
【筆者プロフィール】
慶應義塾大学卒。 大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。 企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。 シンプルに考えることが得意。 |
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