自社の有給休暇取得の適否に関する法律相談まとめ
2019/11/20   労務法務, 労働法全般

1、はじめに

会社において有給休暇は、労働基準法上で規定された休暇です。

有給休暇は労働者に認められた権利であり、
2019年の働き方改革の法案が改正され、企業側も
年次有給休暇の年5日取得が義務とされたため、
法務担当者としては自社の有給休暇が適切に運用されているかは
注意すべきところです。

そこで、今回は、いくつかの有給休暇の判例を比較しながら、
適切な有給休暇について考えるため、有給休暇の判例をまとめました。

2、最高裁平成4年6月23日第三小法廷判決

<事案>
ニュース記者である原告が1ヶ月の有休取得を申請しました。

時事通信社は前半部分の取得は認めたのですが、
後半部分については時季変更権を行使しました。

しかし原告は1ヶ月全て出勤しなかったので時事通信社は原告を懲戒処分にしました。
原告はこの処分が無効であるとして提訴しました。

※労働者の時季指定権とは、

「労働者が年次有給休暇をいつ取得するか、その時季を指定できる権利」のことです。
(日本の人事部)

※時季変更権とは、

「事業の正常な運営を妨げる場合において、使用者が従業員の有給取得の時季を変更できる権利」のことです。
(コトバンク)

<争点>
長期間の有休休暇の申請があった際に、
使用者の時季変更権行使の際に認められる裁量は広くなるか。

<争点に対する判断>
長期間の有休取得の申請があった際には、
長期の休暇は会社の事業の正常な運営を危うくするため、
使用者に認められる裁量は広くなる。

連続1ヶ月の休暇は長期で、事業の運営に支障をきたすおそれが高いので、
時季変更権行使は適法である。

<参照条文>
労働基準法39条5項本文(労働者の時季指定権)
労働基準法39条5項但書(使用者の時季変更権、事業の正常な運営を妨げる場合に認められる)

<コメント>
長期の有給取得の申請がなされた場合には、企業は広く時季変更権を行使できるので、
時季変更権の行使は違法になりにくいと考えられます。

3、高松高裁平成12年1月28日判決

<事案>
原告の所属する組合はストライキをする予定でした。

そこで、原告らはストライキをする予定の期間に有休の請求をしましたが、却下されました。
その後、原告らは職場を離脱したものの、組合によるストライキ自体は行われませんでした。

これに対して、原告らはその期間の賃金をカットされたので、その支払を求めて提訴しました。
なお、原告のうち1名は事前に有休の申請をしておらず、
事後に請求したが認められませんでした。
※有休は請求の時点で原則成立します。

例外は、有休を認めれば「事業の運営に支障をきたし」、
使用者がそれを理由に時季変更権を行使した場合です。

<争点>
①有休の事後指定の有効性
②原告が有休取得後、所属の組合によるその期間のストライキが予定されていたが、
実際にはストライキが行われなかった場合の有休の成否

<争点に対する判断>
①有休の事後指定は原則認められない(例外は使用者の許諾、やむを得ない事情等)
②有休は、業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提として、
その枠内で休暇を認めるという趣旨のものである。

そうであるから、労働者が争議行為等に参加しその所属する事業場の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、
年休の時季指定をした場合には、本来の年休権の行使とはいえない。

そのため、ストライキの予定があれば、実際にストライキが行われたかに関わらず、
その期間の有休は成立しない。

<参照条文>
労働基準法39条5項本文
労働基準法39条5項但書

<コメント>
労働者にストライキの予定があるだけで、その期間の有休は成立しないので、
企業側としては、また別に有休を申請されるということに注意しましょう。

4、最高裁平成12年3月31日第一小法廷判決平成8年(オ)第1026号

<事案>
日本電信電話では1ヶ月未満の集中研修を行っていました。
原告はこの研修期間中に有休休暇の取得を申請したところ、時季変更権を行使されました。

原告がその期間出勤しなかったところ、けん責処分とされたのでその無効を求めて提訴しました。

<争点>
短期の訓練期間中に有休取得の申請があった場合に、時季変更権を行使できるか。

<争点に対する判断>
職業訓練は他人が代わりにできる業務ではない。

しかし短期間の有休の取得なら研修目的を達成する事が可能である。
時季変更権の行使が有効かについては、有休を取得しても研修の目的を達成できるかにより判断すべきである。

<参照条文>
労働基準法39条5項本文
労働基準法39条5項但書

<コメント>
研修期間中の有休は認められますが、時季変更権の行使が認められるかはケースバイケースであるため、
法務担当者としては自社の研修内容をチェックする必要があると思われます。

5、最高裁平成15年12月4日第一小法廷判決 平成13年(受)第1066号

<事案>
原告は産前産後休暇を8週間取得しました。

東明学園では賞与支給条件が90%以上の出勤率であることとなっており、
産前産後休暇・育児休暇を取得した場合にはその日数は欠勤という扱いでした。

原告は産前産後休暇取得により90%以上の出勤率を満たせず賞与支給がなかったので、
その支払を求めて提訴しました。

<争点>
①賞与の支給条件を出勤率90%以上とする事の適法性
②出勤率の計算に産前産後休暇・育児休暇を欠勤として扱うことの有効性
③賞与の額の算定の際に産前産後休暇・育児休暇を欠勤日数として扱うことの有効性

<争点に対する判断>
①従業員の出勤率の低下防止等の観点から,賞与の支給条件に出勤率90%とする事は適法
②産前産後休業を取る権利の保護のため、欠勤として扱うことにより、
産前産後休暇・育児休暇の取得を事実上制限してしまう場合には、欠勤として扱うことは許されない。
③産前産後休業を取得して育児のための勤務時間短縮措置を受けた労働者は、

不就労期間中の賃金請求権を有しておらず、会社の就業規則においても、
不就労期間は無給とされているのであるから、産前産後休業の日数は欠勤日数に含めるべきである。

<参照条文>
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条(育児休暇取得による不利益取り扱いの禁止)
「電子政府の窓口e-Gab」)

<コメント>
育児休業は、この判例が出された当時よりも、取得する人が増加しています。
そのため、法務担当者としては、上記判例を参考に育児休業を取得しようとしている人を、
自社が不当に制限していないか、注意する必要があると思われます。

6、最高裁平成25年6月6日第一小法廷判決 平成23年(受)第2183号

<事案>
八千代交通(埼玉県のタクシー会社)が原告を解雇しましたが、後に解雇無効が確定しました。
原告は職場復帰後に5日間の有休休暇の取得を申請し、その期間の就労をしませんでした。
しかし八千代交通は以下の理由から5日分の賃金を支給しませんでした。

その理由として、
①解雇期間中は実際に就労していないので、有休取得に必要な出勤日数には参入されない
②その結果原告は出勤日数が足りず、有休を取得できる立場にない
③有休を取得していないので、原告がその期間に働かなかったのは欠勤に当たる
ということを主張しました。

<争点>
労働者が労働者の責めに帰すべきといえない事情により
就労できなかった場合において、その期間を
有休成立要件の出勤日数(労基法39条1項、2項)とすべきか。

<争点に対する判断>
無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたので就労することができなかった期間は、
労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえず、

当事者間の衡平の観点から、
出勤日数に算入すべきものと解するのが相当である。

<参照条文>
39条1項(一般的な有休取得要件、半年ごとに10日分)、
39条2項(長期期間の勤務の場合の有休加算要件)

<コメント>
無効な解雇によって就労できなかった出勤数に関する事案は珍しいですが、
一例として参考にしてみてください。

7、東京地裁平成27年2月28日・労経速2245号3頁

<事案>
被告会社では、
年次有給休暇は年間6日であり、原則として冠婚葬祭の際にのみ取得でき、
それ以外の理由での休暇は欠勤扱いとするという通達が出されました。

そこで、原告労働者らは、年次有給休暇取得の権利行使を妨害されたとして、
債務不履に基づく損害賠償性請求をしました。

<争点>
有給休暇取得日数・理由の限定の適否

<争点に対する判断>
有給休暇取得の日数を、年間6日に限定し、
年休取得の理由を冠婚葬祭の場合に限定することは
労働者の労働基準法上認められている年休を取得する権利を委縮させるものであり、
会社に債務不履行責任が認められる。

参照:労政ジャーナル

<参照条文>
労働基準法39条1項

<コメント>
企業側としては、年次有給休暇取得の日数や理由が不当に限定されていないように注意し、
労働者に適切な年次有給休暇を取得させましょう。

8、まとめ

有給休暇の争点については、様々なケースが想定できるため、
あらゆる事態を想定して対処することは難しいといえます。
そこで、今回のまとめを参考に労働者が有給休暇を適法に取得し、
企業側も適法に有給休暇を認めるようにしてください。

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