日本でも導入拡大の動き、クローバック条項とは
2019/11/28   商事法務, 会社法

はじめに

 日経新聞電子版は21日、不正や巨額損失が発生した場合に役員報酬を会社に返還させる、いわゆる「クローバック条項」を導入する企業が日本でも徐々に増えている旨報じました。アンケートでは14.5%が導入済みとのことです。今回はクローバック条項の導入について見ていきます。

クローバック条項とは

 不正会計や投資失敗に伴う巨額の損失が生じた場合に支払い済みの役員報酬を会社に強制的に返還させる仕組みをクローバック(clawback)条項と言います。2008年の金融危機以後に欧米を中心に導入が始まったと言われております。リスクの高い投資や経営戦略で業績が悪化したにもかかわらず役員が高額の報酬を持ち逃げすることを防止するための措置とされております。英国では原則として導入が義務づけられており、導入しない場合は理由説明が必要と言われております。

会社法における報酬規制

 会社の役員報酬に関して会社法361条では、額が確定している場合はその額、確定していない場合はその算定方法、金銭でない場合はその内容等を定款で定めるか株主総会決議によって定める必要があるとしています。役員報酬を役員自身が定めていたのでは不当に高額に受け取ってしまうおそれがあるためです。規制の対象となるのは「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」とされており、業績連動型報酬や退職慰労金、ストックオプション、使用人兼務取締役の報酬もその対象となると言われております。

日本におけるクローバック条項

 近年日本においても業績連動型報酬やエクイティ報酬などインセンティブ報酬が増えてきております。それに伴い株価の一時的な高騰などにより不当に高額となった報酬を返還すべきといった声も増えてきております。また不祥事などによって多額の損失を発生させた場合も報酬を一部返還する仕組みが必要とされてきました。しかし日本ではまだクローバック条項への認知度は低く会社法等の法令にも規定は存在していないのが現状です。それでは日本においてはクローバック条項はどのように定めるべきなのでしょうか。

クローバック条項の定め方

 役員報酬とは元来会社と役員との契約と言えます。そして一旦報酬額が具体的に定まれば事後、株主総会等によって一方的に減額したりすることはできないとされております(最判平成4年12月18日)。しかし役員と会社で事前に合意しておけば有効と考えられます。また業績連動型報酬などと同様に定款で定めておけば以後役員報酬に適用していけるものと言えます。しかしやはり定款で定めてもすでに具体的に発生し支払われたものについては遡及適用はできないものと考えられます。

コメント

 日経新聞のアンケートによりますと、すでに導入済みと答えた会社は14.5%、今後検討すると答えた会社も含めると約3割の会社がクローバック条項に前向きな意向を示しているとしています。導入済みの理由としては投資家への説明責任や役員への牽制、経営責任を明確にするためといったものが挙げられております。反面、積極的な投資がしにくくなるといった否定的な意見もあったとのことです。現状クローバック条項を義務付ける法改正の動きは見られませんが、欧米では広く取り入れられており、グローバル化を促進しようとしている日本でも今後導入が拡大していくことが予想されます。今年の定時総会で株主提案を受けた武田薬品では定款変更の特別決議に必要な3分の2の賛成は得られませんでしたが、過半数となる52%の賛成票が集まったとされます。今後株主等からの求めに備えクローバック条項についても把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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