民法改正 敷金の取扱いについて
2017/07/25 不動産法務, 民法・商法, 住宅・不動産
・はじめに
2017年5月26日に改正民法が成立し、「敷金」の概念および取扱いにつき初めて明文化されるに至りました。
そこで今回は、この改正がアパートやマンション等の不動産賃貸業界にどのような影響を及ぼすのか、検討していきます。
・従来の敷金の取扱い
敷金とは、賃貸借契約期間中および終了後明渡しまでに生じる、賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものです。
従来、敷金については明文規定が存在せず、その取扱いについては最高裁平成17年12月16日判決が実務上のルールとされてきました。当該判決では「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには・・・その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。」ことが判示され、賃貸人・賃借人間で特約のない限り「通常の使用に伴い生ずる損耗」の原状回復については賃貸人が負担するという原則が示されました。
しかし、それ以降も敷金の返還については賃貸人,賃借人間のトラブルが絶えず、2005年から2010年の間に国民生活センターに寄せられた相談件数は8万8,338件に至りました(平均、年1万4千件)。これを受けて、国土交通省住宅局は2011年8月に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」を発行しましたが、2011年以降の相談件数も年間1万4千件前後と高止まりが続いています。
今回の民法改正は、このような状況下で行われました。
最高裁判決 平成17年12月16日 平成16(受)1573 民集218号1239頁
国民生活センター 賃貸住宅の退去時に伴う原状回復に関するトラブル
・今回の改正の内容
まず今回の改正では、「敷金」が「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されました(改正民法622条の2 第1条)。
また、賃借人の原状回復義務については「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」(同621条)と、経年劣化等の修繕には原則として敷金が充当されない旨規定されました。
さらに敷金の返還時期については「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」(改正民法622条の2 第1条第1号)と規定されました。
・まとめ
これらの改正はいずれも従来の判例法理を踏襲したものになっており、そうした意味では賃貸業者に新たな権利・義務を創設したものではないといえそうです。また、強行規定(当事者の意思に関わりなく適用される法規)ではないため、これらの改正法と異なる特約を当事者間で定めることも可能です。
ただし、上記平成17年判決の法理からすれば、「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要」となるでしょう。
改正民法は2020年までに施行される見通しです。従来は消費者との間で大きなトラブルにならなかった契約書やセールストークについても、本改正によって違法であることが明確化し訴訟に発展するおそれもあります。不動産賃貸借業界の法務担当者は、いまいちど自社の契約書やセールストークを確認する必要があるのではないでしょうか。下記関連サイトに国土交通省による賃貸住宅標準契約書の雛形もありますので、ご参照ください。
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