ゴルフクラブが元外国籍を理由に入会拒否、違法性認められず
2023/04/26   コンプライアンス

はじめに


会員制ゴルフクラブが、そのクラブに申し込んだ男性の入会を拒否。その理由をめぐり訴訟にまで発展しました。
原告となった三重県の40代男性は、入会却下の理由が自身の国籍にあったと主張。精神的な苦痛を受けたとして、慰謝料など約330万円の損害賠償を求めて提訴していました。しかし、津地方裁判所は男性の請求を棄却。「私的団体であるゴルフクラブが元外国籍であることを理由に入会を拒否することに違法性はない」と判断しています。

 

訴訟の経緯


報道などによりますと、男性は元韓国籍で2018年に日本国籍を取得。2022年2月、愛岐カントリークラブ(岐阜県可児市)にて知人とプレーし、入会を申し込んだということです。しかし、クラブ側は「元外国籍を含む外国籍の会員の枠に空きがないためすぐに入会することはできない」として入会を拒否。これに精神的苦痛を受けたとして、訴訟を提起しました。
 

[判決内容]
津地方裁判所は、まず、「元外国籍であることが入会拒否の唯一の理由ではない」というクラブ側の主張に対し、同クラブが会員となるための条件として、実際に国籍以外にも条件(正会員2人の紹介と理事会の承認など)を設けていたことを認めました。しかし、入会拒否は元外国籍であることが理由だと認定しています。

その上で、憲法21条が保障する“結社の自由”により、私人である団体は、原則として構成員の加入条件を自由に決められると指摘。私人である団体内の問題に法の介入が許されるのは、「個人への権利侵害の程度が社会的に許容し得る限界を超えるような例外的な場合に限られる」との判断枠組みを示しました。

そして、当該判断枠組みを前提に、今回のゴルフクラブへの入会拒否は、「平等の権利への侵害の程度は憲法の趣旨に照らし、社会的に許容しうる限界を超えるとは認められない」として、男性の請求を棄却しています。

男性は「まったく納得できない。差別を受け精神的苦痛を受けることも私的団体内であれば許されるのか」と述べ、控訴する方針とのことです。

 

ゴルフクラブの加入をめぐる訴訟


ゴルフクラブへの加入をめぐっては過去にも訴訟が提起されています。

1.性同一性障害の女性が入会拒否されたケース
性同一性障害で戸籍上の性別を男性から女性に変更していたことを理由に地元のゴルフクラブが入会を拒否。女性は、これを不当としてゴルフクラブに慰謝料を求める訴訟を提起しました。

ゴルフクラブ側は、ゴルフクラブが会員の一体性を重んじる私的かつ閉鎖的な団体である点、女性会員がロッカールームや浴室等を使用する際の不安感、クラブ競技の出場資格などへの疑義が生じる点などを強調し、入会拒否の正当性を主張しました。

これに対し、東京高裁(東京高判平成27年7月1日判決)は、被告会社の株式がゴルフ会員権市場で広く一般取引されている事実を重視し、「閉鎖的な団体であるとは到底認めがたい」としました。その上で、原告が声・外性器を含め、外見も女性で、また、女性用施設を使用した際に混乱等が特に生じていない事実を指摘。ゴルフクラブ側が主張するような混乱が生じるとは考え難いとし、「いわれのない不利益を被ることによって、その人格の根幹部分に関わる精神的苦痛を受けた」として、女性の請求を一部認容しています。

 

2.日本国籍を有しないことを理由に登録メンバー変更を承認しなかったケース
被告ゴルフクラブでは、法人会員について、“登録者”(代表取締役等が多い)に加えて、登録者以外の社員が“プレーイングメンバー”として施設利用できる仕組みを設けていました。原告男性は、当初、プレーイングメンバーとして施設を利用していましたが(別の社員が登録者)、後日、自身を“登録者”に変更する申請を行ったところ、クラブ側より「登録者変更要領や入退会規定上、登録者を日本国籍者に限定しているため、認められない」旨回答されました。男性はこれを不服として提訴しています。

東京地裁(平成7年3月23日判決)は、私的任意の団体の内部関係に対して広く私的自治の原則(私人間の法律関係は、一切個人の自主的決定にまかせ、国家がこれに干渉しないという原則)が適用されるとする一方、ゴルフクラブについては、その会員権の市場流通・会員募集等への公的規制の存在などに照らし、一定の社会性をもった団体といえるとしました。

その上で、「ゴルフクラブは会員の選別に関し、完全に自由な裁量を有するとまでは言えず、裁量を逸脱した場合には違法との評価を免れない」と判断枠組みを示しています。

当該判断枠組みを前提に、東京地裁は、被告ゴルフクラブが登録者の資格条件として日本国籍者であることを課したことは、今日の社会通念上、合理的理由を見出しづらいと指摘。原告男性の生い立ちと境遇に照らしたときに、日本国籍でないことを理由に登録者の変更申請を拒絶したことは、憲法第14条(法の下の平等)の趣旨に照らし、被告ゴルフクラブに認められた裁量を逸脱しているとして、男性の請求を認容しました。

 

コメント


今回の訴訟では、原告男性の請求が棄却されましたが、過去の判例に照らす限り、控訴審以降で判決が覆る可能性は十分にあるように思います。

このように、企業が、個人的な属性や社会的立場に基づいて不当な扱いを行った場合、違法とされるリスクがあります。のみならず、世間から差別的な企業と見なされ、ブランドイメージの低下につながるおそれもあります。

一方で、異なる取り扱いをする合理的な理由が認められる場合には、適法とされ、それがビジネス上の目的に資するケースもあります。線引きを慎重に見極めながら、企業として十分な配慮を行っていくことが重要になります。

 

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