岡山の食料品製造会社を不起訴処分、36協定の締結について
2023/02/09 労務法務, 労働法全般

はじめに
従業員に違法な時間外労働をさせていた疑いで昨年書類送検されていた岡山の食料品製造会社と社長を岡山地検が不起訴処分としていたことがわかりました。検察は不起訴処分の理由は明らかにしていません。なお、うまい棒の製造メーカーが従業員9人に最長120時間の違法残業を課していたケースでは起訴され有罪判決が出されています。今回は労基法の残業規制と36協定について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、食料品製造会社の「山陽フードサービス」(倉敷市)は36協定を締結・届出をすることなく同社の従業員6人に違法な時間外労働をさせていたとして、昨年10月に同社および代表取締役が書類送検されていたとされます。最も長い者で月の時間外労働が253時間に及び、労基署の臨検に際しても労働時間数を過小に記載した虚偽の勤務報告書を提出していた疑いも持たれているとのことです。同社は福祉施設や病院等の調理業務受託、高齢者向け配食サービス事業などを営んでおり従業員数は約150人とされております。
労基法の労働規制
労働基準法32条によりますと、使用者は労働者を1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとされております。そして労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には1時間の休憩時間を与えなければならないとされ、この休憩時間は原則として一斉に与える必要があります(34条1項、2項)。労働者の過半数で組織する労組または労働者の過半数を代表する者と書面による協定を締結すればこれとは異なる定めも可能です。また使用者は労働者に対して原則として毎週少なくとも1回の休日を与える必要がありますが、4週間を通じて4日以上の休日を与えている場合は適用されないとされております(35条1項、2項)。
時間外労働と上限規制
上記の法定労働時間を超えて労働させるためには、こちらもやはり労働者の過半数で組織する労組、または労働者の過半数を代表する者との書面による協定を締結し、労基署に届け出る必要があります(36条1項)。これがいわゆる36協定です。この36協定では時間外労働を行う業務の種類や時間外労働の上限などを定める必要があります。この36協定を締結しても、無制限に時間外労働を行わせることができるわけではありません。2019年施行の改正労基法により原則として時間外労働は月45時間、年360時間が上限として法定されております。臨時的な特別事情があり、協定で特別条項を盛り込んだ場合でも年720時間以内、月100時間未満、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均が全て1月あたり80時間以内、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までといった制限があります(同各項)。これに違反した場合は6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金が科される場合があります(119条1号)。
36協定の留意すべき点
厚労省の36協定について留意すべき事項に関する指針によりますと、まず時間外労働、休日労働は必要最小限にとどめるべきとされております(2条)。また使用者は35協定の範囲内であっても、労働者に対する安全配慮義務を負い、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要があるとしております(3条)。時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする必要があります(4条)。そして臨時的な特別事情がある場合の特別条項についてもできる限り具体的に定め、かつ限度時間にできる限り近づけるよう務める必要があるとされます(5条)。それ以外にも休日労働の日数や時間をできる限り少なくなるよう努め、限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉の確保に務めるよう求められております(8条)。
コメント
本件で違法な時間外労働をさせていた疑いが持たれている山陽フードサービスでは最長で月253時間におよぶ従業員もおり、労基法で求められる36協定も締結されていなかったと言われております。また労基署による臨検に際しても虚偽の報告書を提出していた疑いがあるとのことです。厚労省が実施している長時間労働が疑われる事業場への監督指導によりますと、毎年3割から4割、多い年は半数近くの事業場でこれらの労基法違反が認められております。その中でも本件と同様に36協定自体が締結されていない事例も多いと言われております。労基署の調査が入れば36協定は必ず調べられると言えます。時間外労働に必要な36協定は締結されているか、また法定上限は守られているかなど今一度自社での労務管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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