【特集】第5回 総会の議長の権限行使について 

第1 はじめに

 こんにちは。企業法務ナビの企画編集部です。「株主総会における企業の対応」というテーマで特集記事をお送りしてきましたが、第5回目の今回が最終回となります。今回は、株主総会の議事進行を務める議長の権限行使について、そもそも議長って誰がやるの、どんな権限を持っているの、といった観点からみていきたいと思います。

第2 議長とは

 まず、株主総会の議長とは、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理したり、また、議長の命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる者のことをいいます(会社法第315条)。株主の利害関係が対立するような株主総会では、単純に議事進行するだけではなく、その権限を行使して株主を総会から退場させるようなこともある、なかなか大変な役回りです。

第3 議長の資格

 会社法には、議長の資格についての規定はありません。そのため、実際の株主総会においては、定款で予め決めておくか、又は、株主総会毎に改めて決めるといった方法が採られています。

1 定款で予め決めておく場合

 株主総会の議長の決定方法というのは、会社の重要なルールですから定款に記載します。上場会社の多くは、議長は社長がなると決まっている会社が多いですが、社長以外の取締役や株主がなると決めることもできます。予め決める場合には、定款に定められた人が株主総会に出席できなかったことも考えてルールを決めるように注意しましょう。

2 株主総会毎に改めて決める場合

 毎回、株主総会の冒頭で出席者全員で決めることになります。この決め方も決まりはないので、出席者による指名や立候補など、その場で決められる方法で行うことになります。

「株主総会の議長は誰ですか?」(ふるき行政書士事務所)

第4 議長の権限

 議長には、会社法上認められた権限として、①秩序維持権、②議事整理権、③退場命令権があります(会社法第315条第1項・第2項)。議事を妨害する株主に対しては、議長が、まず①及び②の権限に基づき、説得・警告や発言禁止・着席命令を発し、それでもなお当該株主が妨害行為をやめない場合には、③の権限に基づき退場命令を発することができます。もっとも、著しい妨害行為を行う特殊株主に対しては、早い段階で③の権限に基づき退場命令を発することも許されます。

1 権限の発生時期

 多くの会社の株主総会では、定款の定めに基づいて、開会宣言とともに議長が就任宣言を行っています。この開会・議長就任宣言により、議長は、総会の議長としての上記3つの権限を取得すると解されています。なお、この議長就任宣言より前に騒いだり、危険行為に及んだりする株主がいた場合には、議長の退場命令ではなく、会社としての施設管理権に基づき、議場から退出させる等の措置を適宜講ずることができると考えられています。

2 ①秩序維持権

 秩序維持権とは、出席株主の正当な質問権、議決権行使を阻害する違法行動を排除し、総会の秩序を維持する権限をいいます。

3 ②議事整理権

 議事整理権とは、議事を整理するために質問者・答弁者を指示し、発言時間を制限し、発言内容が総会の目的事項以外にわたる場合は、警告を与えるなどして、総会が適正な時間内で十分に実をあげるよう、円滑な運営を図る権限をいいます。

4 ③退場命令権

 議長の退場命令は、質問権や議決権という重要な株主の権利を剥奪するものですから、最終手段として利用されるべきものと考えられています。そこで、原則として、退場命令を発する前に、警告を行うなどの措置を採る必要があります。この場合、議長は、初回の警告→これ以上続けると退場になる旨の警告→退場命令、の3つの段階を経ることが基本とされています(「3回ルール」)。これに対し、株主の妨害の程度が著しい場合には、例外的に、警告などの手順を踏まず、いきなり退場を命じることもあります。この場合には、後日決議取消訴訟や損害賠償請求訴訟等において争われた場合、議長の権限濫用と評価される可能性もあるので注意が必要です。

(1) 退出のさせ方

 議長が退場命令を発したにもかかわらず当該株主が退場命令に従わない場合の退出のさせ方としては、まずは当該株主に任意の退出を促します。もし、株主が任意の退場を拒んだ場合には、議場内における株主総会進行に係る秩序維持のためのやむを得ない自力救済として、社会通念上相当な範囲内で必要最小限度の有形力を行使することができると解されています(京都地裁判決平成12年6月28日、金判1106号57頁)。例えば、株主が任意の退場を拒んだとしても、当該株主の衣服等をつかんだり、身体を引っ張ったりするのではなく、単に両手を広げて身体全体で株主に圧力をかけ、退出を促すのが相当と考えられています。

(2) 退場命令の適法性に関する裁判例

 退場命令の適法性については、罵声、怒号、ヤジや罵詈雑言などの不規則発言を続けていた株主に対し、当該不規則発言を中止しないと退場を命じる旨警告したうえで発せられた議長の退場命令は適法である、と認定された裁判例があります(佐藤工業事件)。

「株主総会における議長の権限と退場命令」(BUSINESS LAWYERS)

第5 円滑な総会運営をするには

 株主総会を充実したものにするためには、株主に質問・発言の機会を十分に与える必要があります。一方で、株主総会を混乱させる、いわゆる総会屋などにも対処する必要があります。そのため、議長は、上記権限を行使して、円滑な総会運営をしていかなければなりません。裁判例なども参考にして、実際にどういった対応策が認められているのか確認しておく必要があります。
 具体的な対応策については、以下のサイトが参考になりますので、紹介させていただきます。

「株主総会の運営」(ロア・ユナイテッド法律事務所)

「荒れる総会 5つの対策」(特定非営利活動法人マンション管理支援協議会)

第6 おわりに

 全5回にわたり、「株主総会における企業の対応」というテーマで特集記事をお送りしてきましたが、いかがだったでしょうか。今回の特集が、充実した株主総会の一助となれば幸甚です。最後まで、お付き合い下さり有難うございました。

(文責:watanabe1)

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年1ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:,
関連法律タグ:
 
[著者情報] moriyama

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務NAVIまとめ 商事法務 総会対応 会社法
《東京開催》「働き方改革関連法」の施行に向けて企業が準備すべきこと
2018年12月19日(水)
09:45 ~ 12:15
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
高仲幸雄
中山・男澤法律事務所 パートナー 弁護士

早稲田大学法学部卒業

2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)、中山慈夫法律事務所(現中山・男澤法律事務所)入所
2009年以降、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師、現在に至る
主な取り扱い分野は、人事労務関係・会社法務・民事全般

著書(いずれも単著):
「人事労務制度使いこなしマニュアル」 中央経済社/「実務家のための労働判例読みこなし術」労務行政/「労使紛争防止の視点からみた人事・労務文書作成ハンドブック」日本法令/「有期労働契約 締結・更新・雇止めの実務と就業規則」日本法令など

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
本年6月に成立した『働き方改革関連法』によって、これから順次、様々な規制の施行日を迎えることになり、企業はその対応に追われることになります。
その中で重要なのは、「労働基準法等の改正による労働時間・休日・年休制度の見直し」と、「非正規社員の待遇改善(同一労働同一賃金)に関する法改正」です。

本講演では、まずは、施行日が迫る労働基準法の改正分野について、【労働時間・休日・年次有給休暇】の制度設計や運用の見直しを中心に、就業規則の見直し方法やアルバイト等のシフト勤務も視野に入れた実務レベルでの労務管理方法を解説します。

次に、「同一労働同一賃金」では、現状では様々な裁判例が相次いで出されており、情報が錯綜している中で優先して改善すべき待遇や手当、非正規社員から待遇差について説明を求められた場合の対応方法などを最新の情報をもとに解説します。

実務担当者はもちろん経営者・人事・労務・総務の各部門で人事制度や賃金制度を検討するにあたって必須の内容を盛り込みます。
申込・詳細はコチラ
法務NAVIまとめ 商事法務 総会対応 会社法
《大阪開催》今さら聞けない英文契約書セミナー(英文契約書の基礎、英文契約書交渉)
2018年12月15日(土)
09:30 ~ 15:15
・(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回12,800円+税(書籍代を含む)※書籍を購入済みで持参の方:各回10,000円+税 ・(午前)と(午後)の両方に参加される方:19,800円+税(書籍代を含む)※書籍を購入済みで持参の方:17,000円+税
大阪府大阪市
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒


編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年),『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年),『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など,著作・論文多数


主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士で、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏(元Apple Japan 法務本部長、VMware Japan法務本部長、2社合計15年以上)を講師にお招きし、東京において過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と午後の部(交渉編)に分けけて初めて大阪にて開催いたします。

基礎編は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方などに、この機会に是非ご参加頂きたい内容になっております(英文契約書の読み方を中心に解説します)。

交渉編は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方、弁護士の方、発展的な学習をされたい方などにお勧めです。

当日は講師著書の国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務NAVIまとめ 商事法務 総会対応 会社法
《大阪会場》第106回MSサロン
2018年12月13日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
吉田 憲
弁護士 京都大学博士(法学)
クラウド法律事務所代表弁護士
国内業務だけでなく、国際的(主に中国圏)な業務も取り扱い、
国内外の企業に法的助言を行っている。

略歴:
早稲田大学法学部卒
京都大学大学院法学研究科法政理論専攻博士後期課程修了
北京大学対外漢語教育学院留学

2006年10月 弁護士登録
2016年1月 クラウド法律事務所設立
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「中国における紛争解決手続について」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務NAVIまとめ 商事法務 総会対応 会社法
《名古屋開催》ものづくり法務勉強会 ~工場における外国人雇用の留意点~
2018年12月18日(火)
19:00 ~ 21:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
原 武之
2000年 早稲田大学法学部卒業
2003年 弁護士登録(56期 第二東京弁護士会)
森・濱田松本法律事務所入所
2006年 川上・原法律事務所移籍独立(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
中部の「ものづくり」企業を支援するための、ものづくり分野の法律問題に特化した勉強会です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

【法務NAVIまとめ】OEM契約書の注意点 OEM契約で取り決めるべき項目 OEM契約は、自社ブランドで商品を作る意向はあるものの、製造能力がないという企業が、製造能力を有する別の企業に製造等を委託する契約です。 目的、仕様、製品の表示、相互保証…etc.出典: 契約書生成ツール(OEM基本契約書) 弁護士事務所作成...
公式SNSによるトラブルと対応まとめ 1 はじめに  最近、様々なSNS上に公式アカウントをもつ企業が増えています。製品やイベント等についての宣伝・広告効果が望めるほか、企業イメージの向上にもつながっています。一方で、2017年7月には、企業の公式アカウントが他社製品を批判したことによって当該アカウントの閉鎖に発展するという事態も...
民事再生手続による事業譲渡のまとめ... 1 はじめに  青森県内において、路線バスや高速バスを運行する南部バス(本社:青森県八戸市)は2016年11月28日に、民事再生法の適用を東京地裁に申請し、同日保全命令を受けました。同社は、岩手県北自動車(岩手県盛岡市)に全事業の引き受けを要請し、協議を進めています。そこで、今回は法的再生手法...