情報サービス会社がヤマダ電機を提訴、下請法違反について

はじめに

家電量販大手「ヤマダ電機」から販売用パソコンの初期設定を委託されていた岐阜市内の情報サービス会社が、契約外の業務を強いられた上、その旨を指摘後に一方的に委託契約を解除されたとしてヤマダ電機を相手取り約7100万円の損害賠償を求める訴えを、5日、岐阜地裁に提起していたことがわかりました。今回は下請法が禁止する不当な利益の提供要請について見ていきます。

事件の概要

ヤマダ電機は2005年頃から東海地方の店舗での販売したパソコンの初期設定業務を岐阜市内の情報サービス会社に委託していました。情報サービス会社のスタッフは2年ほど前からヤマダ電機の会員獲得等の契約外の業務を強いられるようになり、ノルマが達成できない場合にはヤマダ電機社員から厳しい叱責、レポート提出等のペナルティが課されるようになったとのことです。これらの点につきヤマダ電機に改善を要請したところ「改善する」旨の回答がなされた後、昨年11月に業務委託契約を一方的に解除がなされたとしています。その後、経営破綻した情報サービス会社はヤマダ電機に対し下請法違反に基づき損害賠償を求める訴えを起こしました。

下請法による規制

下請法による規制の概要については以前にも取り上げましたが、親事業者と下請事業者との間に一定の関係が認められる場合に下請法が適用されることになります。具体的には資本金が3億円を超える企業が、資本金3億円以下の企業に製造委託を行う場合等が挙げられます。下請法が適用される場合、親事業者は受領拒否(4条1項1号)、代金支払遅延(同3号)、返品(同4号)、買い叩き(同5号)、購入強制(同6号)、報復措置(7号)、不当な経済上の利益の提供要請(同2項3号)、不当な給付内容の変更及びやり直し(同4号)等の行為が禁止されます。これらのうち本件で問題となっているのは4条2項3号の不当な経済上の利益の提供要請です。もっとも多く見られる典型事例としては下請業者の従業員を無償で派遣させるというものです。

不当な経済上の利益の提供要請

下請法4条2項3号によりますと親事業者は「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ」「下請事業者の利益を不当に害してはならない」としています。親事業者の下請業者に対する優越的地位を用いて何らかの利益提供の強要を禁止するものです。
(1)経済上の利益の提供
要請することが禁止されている経済上の利益とは、協力費、協賛金、対策費といった金銭の提供や、従業員派遣といった労働力の提供等あらゆるものが含まれます。ここで金銭の場合、下請業者から提供させるのではなく、下請代金から差し引く形を取る場合は本条ではなく4条1項3号が禁止する下請代金の減額に当たります。利益提供の該当例としては、親事業者が金型を貸与して自動車部品の製造を委託していた事例で、注文を長期間休止している間も下請業者に金型を保管させ続けていたものや、下請業者に一度は受領した委託品を返品し、その送料を負担させた場合、年間の下請代金から一定額を割戻金として提供させていたもの等が挙げられます。このように下請業者に何らかの負担を強いるものが該当することになります。

(2)利益を不当に害すること
下請業者から何らかの金銭や労力等の提供を受けることが全て違法となるわけではありません。その経済上の利益の提供が下請業者にとっても利益となり、互いに自由な意思に基いて合意したのであれば有効な契約と言えるからです。「不当に」とは下請業者の自由な意思に基づかず、親事業者の一方的な利益となる場合を言います。「不当に」に該当するかについて公取委の公表するガイドラインでは、下請事業者の負担額およびその算出根拠、使途、提供の条件等について明確になっていない場合、利益の提供と下請事業者の利益との関係が明確になっていない場合、親事業者の決算対策等を理由としている場合といった下請事業者の直接の利益とならない場合は該当することになるとしています。要は下請事業者が自由な意思によって利益を提供していたかが最も重要な点であり、結果的に下請事業者にも何らかの利益が生じたとしても違法性が否定させるものではないと言えるでしょう。

コメント

本件でヤマダ電機が原告の情報サービス会社に要請していたとされるものは、ヤマダ電機の会員獲得業務を行うことです。これは情報サービス会社の従業員による労務の提供であり経済上の利益の提供に当たります。そしてそれにより、ヤマダ電機の会員が増加したとしても、情報サービス会社にとって直接の利益となるとは考えにくく、ヤマダ電機の一方的な利益にしかならないと言えます。原告が主張するこれらの行為が事実である場合、下請業者の利益を不当に害することになると認定される可能性は十分にあると言えるでしょう。下請法に違反した行為を行った場合、本件のように民事損害賠償の請求がなされる場合はもとより、公取委による勧告を経て排除措置命令、また高額の課徴金納付命令がなされることもあります。同時に独禁法上の不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用にも該当しうると言えます。納入業者に無報酬で店舗業務を行わせていた家電量販大手エディオンも2012年に約40億円に上る課徴金納付命令を出されております。下請業者に契約以外で何らかの業務等を行ってもらっている場合には、相手方にその理由や相手方にとって利益になること等を説明しているのか、また相手方も任意に合意しているのかといった点を留意して下請法違反や独禁法違反となっていないかを今一度確認することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年9ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
第99回MSサロン(名古屋会場)
2018年06月20日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「秘密保持契約 ~ その作成・交渉の実務及び英文となった場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
第98回MSサロン(大阪会場)
2018年06月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
河端 直 根本 俊太郎
■河端 直
経歴
2013年(平成25年)11月
司法研修所入所(67期)
2014年(平成26年)12月
大阪弁護士会に弁護士登録 なにわ共同法律事務所入所

著書
野村剛司編「法人破産申立て実践マニュアル」(青林書院)(共著)
スポーツ問題研究会編「Q&Aスポーツの法律問題」(民事法研究会)(共著)

■根本 俊太郎
経歴
2004年(平成16年)4月
株式会社朝日新聞社入社(記者職)
2016年(平成28年)11月
司法研修所入所(70期)
2017年(平成29年)12月
大阪弁護士会に弁護士登録 なにわ共同法律事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「民法改正への対応」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
【名古屋】システム開発におけるトラブル発生時の対応《ITビジネス法務勉強会:第2回》
2018年07月12日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第2回目のテーマはシステム開発におけるトラブル発生時の対応です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
【名古屋】準拠法条項/裁判・仲裁条項《法務担当者のための英文契約セミナー:第2回》
2018年05月30日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第2回目のセミナー内容は準拠法条項/裁判・仲裁条項です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
【名古屋】国際取引契約(英文契約)審査の基礎《法務担当者のための各分野の重要法務セミナー:第2回》
2018年05月29日(火)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
各弁護士が日常の実務経験の中でご質問を受けることの多いトピックについてのセミナーです。今回のセミナー内容は国際取引契約(英文契約)審査の基礎です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 下請法
【名古屋】債権保全・回収《初めての法務部から不祥事対応まで 基礎セミナー:第3回》
2018年06月06日(水)
14:00 ~ 17:00
10,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
川上 敦子 石井 大輔
■川上 敦子
略歴:
大阪教育大学附属高等学校卒業
1980年 京都大学法学部卒業
1982年 弁護士登録(34期 愛知県弁護士会)
青山法律事務所入所
1988年 川上法律事務所パートナー
2010年 川上・原法律事務所に名称変更
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■石井 大輔
略歴:
静岡県三島市出身
静岡県立沼津東高校普通科卒業
2011年 同志社大学法学部法律学科早期卒業
2014年 名古屋大学法科大学院未修コース修了
2015年 弁護士登録(68期愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
新規配属法務担当者の方・実務対応はしているものの不安がある法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第3回目のテーマは債権保全・回収です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

シャープ、液晶パネルの価格カルテルをめぐり、158億円の和解金の支払いに合意... 事案の概要 シャープは、パソコン等に使用される液晶パネルをめぐる日韓台3社によるカルテルをめぐり、2008年11月にアメリカの反トラスト法違反を理由として司法省に550億円の課徴金を支払っていた。 その後、カルテルにより液晶パネルの価格が不当に釣り上げられ損害を受けたとして、アメリカのデル等3社が...
パシフィックコンサルタンツにおける残業シェアの取組み... 1、無駄の削減について  現在企業では、就業規則等の整備と並行し残業申請ルールや長時間労働へのアラームなど社内ルール作りを行い無駄な残業を削減していくなど労務管理の観点から広く業務効率化を目指していくことが求められている。  残業シェアを試みることで業務効率化を図る企業の姿を11月24日付け日本経...
フェイスブックの顔認識機能は、プライバシー侵害?... 投稿写真に自動的に友人名 フェイスブックの顔認識機能とは、投稿された写真に写っている人物を自動で認識し、ユーザーにタグ付けを提案するというもの。過去にタグ付けされた写真と比較して、合致する人物を割り出す仕組み。フェイスブックによれば、これにより、いちいち写真にタグ付けする面倒を感じるユーザーでも、...