まもなく施行、改正保険業法

はじめに

2014年5月に改正された保険業法が今年5月末に施行されます。顧客の意向把握義務や顧客への情報提供義務が新設され、海外展開等の規制が緩和されるなど保険業界に大きな影響を及ぼすことが予想されます。今回は、この改正保険業法の概要について見ていきたいと思います。

法改正の背景

今回の保険業法の改正に至る背景には保険商品の多様化と保険商品販売形態の多様化があげられます。複雑多様化した保険商品に加え、インターネット等での顧客と対面しない販売方法、さらに特定の保険会社ではなく不特定多数の保険会社の商品を扱う乗合代理店の出現により、保険業界を取り巻く環境は大きく変容を遂げました。保険対象、保険期間、保険料、保険金といった様々な顧客のニーズに対応する新商品が販売され、インターネットや乗合代理店によって、より気軽に多くの商品を比較しつつ保険に加入することができるようになりました。その一方で顧客のニーズに合っていない保険商品を販売したり、乗合代理店に入る手数料の多い商品を優先的に紹介するといった弊害が多発し一般消費者からのクレームも増加の一途をたどりました。そこで新たな環境に対応するため保険募集規制の再構築が図られました。

改正のポイント

改正保険業法の改正のポイントは顧客の意向把握義務、情報提供義務といった保険募集の基本ルールの創設、従来保険会社にのみ義務付けられていた募集体制整備を保険募集人にも拡大するといった管理監督体制の拡充、そして海外展開の促進のための海外企業買収規制の緩和があげられます。
(1)意向把握義務
保険募集に際し、従来は虚偽の説明を行ったり重要事項を告知しないといったことが禁止事項として挙げられていました。本改正ではそれらに加え意向把握義務(294条の2)が導入されました。顧客のニーズを正確に把握し、ニーズにあった商品を具体的に提示し、最終的に顧客のニーズと提示したプランが合致しているかの確認が求められます。インターネット等による対面しない販売形態においても、これらの顧客の意向の確認が必要となってきます。

(2)情報提供義務
顧客が保険に加入するに際して、保険料、保険期間、保険金額、保険金支払条件といった判断の材料となる情報を正確に提供することが義務付けられます(294条)。これまでは不利益な事実の不説明、誤解を与える比較表示、断定的判断の提供等が禁止されていました。これらに加えより積極的に顧客の判断を助けるよう情報提供が求められます。また複数の保険会社の商品を提案する場合には、比較可能な保険の概要と提案理由の説明が求められることになります。

(3)募集体制の整備
従来は保険会社にのみ、募集体制の整備を義務付け保険募集人の実態把握や管理指導は保険会社を通じて行えば足りると考えられてきました。しかし乗合代理店の出現により、保険募集人の実態把握、管理指導は保険会社だけでは不十分であることから、これらの募集体制整備義務を乗合代理店等の保険募集人に対しても拡大されることになりました。これまで保険会社のみが行っていた適切な業務運営のための社内規則等の策定等が必要となってきます。また保険募集の業務委託等を行う場合の委託業務の的確な遂行確保のための委託先管理等も必要となるでしょう。

(4)海外展開の規制緩和
国内の保険会社が海外展開する際の買収規制が緩和されます(106条)。従来保険会社が外国の会社を買収する際、対象会社が他業種会社を子会社として保有している場合は原則買収することができませんでした。例外として対象会社が保険会社である場合に5年間の猶予期間を与え、その期間内に他業種子会社を処分することを条件として買収を許容していました。本改正で対象の会社を外国の金融機関等にまで拡大するよう規制が緩和されます。これによって保険会社が海外企業を買収する際、相手会社の他業種子会社の存在が障害となることが少なくなります。

コメント

近年保険業界は大きく変革を遂げてまいりました。顧客のニーズに応え、あらゆる種類の保険商品が展開され、また販売方法としても、戸別訪問から代理店による一括販売、インターネット等による通信販売等より柔軟に保険に加入することができるようになりました。一方で代理店の利益を優先し、顧客の意向を反映しない、あるいは無視するような保険販売が行われてきたことも事実です。本改正によりこれまで以上に顧客の立場に立った説明と顧客のニーズに対応したプランの提供が各保険事業所に求められることになります。保険の公正で適切な普及を目的とした改正であるため保険業者には相当の負担ともなるでしょう。一方で海外での買収規制緩和によって海外進出は以前よりも容易になります。保険販売促進の適正化を図るとともに、海外展開も視野に入れた事業展開の検討も重要と言えるのではないでしょうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] mhayashi

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元ITエンジニア・ライター。

東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約60社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。JAPAN MENSA会員
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編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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淵邊 善彦
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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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