民法改正と企業法務への影響まとめ
2016/09/16   法改正対応, 民法・商法, 法改正, その他

 民法改正の話が出てからずいぶん経ちますが、2015年3月31日に民法改正案が国会に提出され、法務省によると、今秋の臨時国会で実質的審議が開始される見込みのようです。
 そこで来たるべき民法改正にむけて企業法務における影響について改めてみていきたいと思います。
 民法改正の範囲は非常に広範なので今回はこの中から①法定利率②消滅時効③事業のための貸金債務についての個人保証④賃貸借の4つについて紹介します。

1.法定利率の変更

 法定利率が年5パーセントから年3パーセントに変更され、3年ごとに変動する変動金利制が導入されます。商事法定利率6パーセント(商法514条)の規定が削除され、民法と同じになります。

〇企業法務への影響
 利率が現状よりも下がるので、以前から契約書等で利率を法定利率に定めている企
業の法務担当者の方は改正されることを忘れずにしっかり約定することが必要です。
また変動金利制が採用されたことによって利率算定の基準時に注意を払うことが必
要です。この点を見落とすと思わぬ形で多くの損失を招くことになります。

民法改正の重要ポイント 法定利率

2.消滅時効の期間変更

 債権の消滅時効期間が「権利を行使できるときから10年」に加えて、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年」と主観的事情を酌んだ規定が追加されます。
 また商事債権の時効期間(商法522条)および民法の職業別の短期消滅時効(民法170条~174条)の規定が削除されます。
 
〇企業法務への影響
 消滅時効の期間がまちまちな現行民法に比べ改正民法はこれが統一されます。したがって債権管理の煩雑さからは多少解放されることになります。
 また現行民法で短期消滅時効が定められている債権については時効期間が延長されることになります。したがって債権管理にあたって短期消滅時効期間を過ぎたからと思って誤って契約書等を廃棄しないよう注意しましょう。
  
消滅時効についての民法改正の概要

3.事業のための貸金債務についての個人保証の意思確認の厳格化

この点は個人保障の原則禁止といった形で表現されているwebページもあるので、注意をしていただきたい点です。
 個人保障が原則として禁止されるのではなく、保証人となるものの意思確認手段として保証契約の日からさかのぼって1か月以内に書かれた公正証書が必要となるというのが正確な理解になります。
 現行民法では単純に書面による契約が要求されるのみですが、この点が厳格化されます。
 また個人保証であっても主たる債務者が法人である場合の取締役や理事等が保証人になる場合、主たる債務者が個人である場合の共同事業者、実際に事業に従事している配偶者が保証人になる場合、この規定は適用されません。
 
〇企業法務への影響
 以前と異なり契約締結の形式要件が厳格化されましたので、融資をする側は確実に1か月以内に書かれた公正証書を相手方から取らなければなりません。
 また融資をされる側も公正証書を事前に得ておくことを忘れないようにしましょう。

事業のための貸金債務についての個人保証の制限

4.賃貸借に関して

 (1)判例法理の明文化 
 現行民法には敷金の定義規定、敷金返還債務の発生要件、敷金の賃貸料債務への充当に関して明文規定がありません。
 今回の改正では敷金については「いかなる名称であるかを問わず賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」という定義規定が置かれます。
 敷金返還債務の発生要件に関しては「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と明示されました。また敷金の賃料債務への充当についても賃借期間中にできること、敷金の賃料債務への充当を賃借人から請求することはできないことが明示されました。
 これらは今までの判例法理を明文化したものです。
 (2)賃貸人の修繕義務について
 賃貸人は原則として修繕義務を負いますが、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となった場合はその義務を負わないことが明文化されます。
 また賃借人が自ら修繕することができる場合が明文化されます。その要件は①賃借人が修繕の必要である旨を賃貸人に通知したあるいは賃貸人が修繕の必要なことを知っていること②それにもかかわらず賃貸人が相当な期間内に修繕しない場合です。
 このほかに急迫の事情があるときにも賃借人自ら修繕することができます。
 
〇企業法務への影響
(1)については判例法理が明文化されたという点では現状とあまり変わりがないとい
えると思います。
(2)については今まであまりはっきりとした点ではありませんでした。今回明文化された内容も紛争になりうる点を含んでいます。賃借人の責めに帰すべき事由や急迫の事情とはどのような場合を指すのかというものです。
 前者に関してはある程度予測がつきますが後者に関しては具体的な事情の下で決定されるというほかありません。参考程度に斟酌される事情としては当該賃借物件の通常の用法が侵害されている程度が高ければ高いほど急迫の事情に該当すると認定されやすくなるといえると思います。
 例えば家を借りたがガスも電気もつかないでは家を借りた意味がほとんどないと言ってよいでしょう。こういう場合は急迫の事情として認められやすくなると考えられます。
 この点に関しては契約書上で賃借人自らの修繕が可能な場合を明示することで、ある程度の予測ができるようになりますし、その方が賃借人としても安心して借りることができると思われます。

民法改正が不動産の賃貸借にどう影響するのか?

民法改正が不動産の賃貸借に与える影響

5.最後に

 今回の民法改正は非常に広範囲に及ぶ改正で、ここでご紹介したのはそのごく一部です。本記事でリンクを張らせていただいたサイト様の中には改正についてわかりやすく、網羅的に解説されているページもありますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

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