市議が音信不通で報酬支払えず、弁済供託について

はじめに

一時失職し、知事の裁決で復職した熊本市議の北口氏(60)が音信不通となっており、失職中の議員報酬が支払えずに遅延損害金が発生し続けていることがわかりました。市議会運営委員会は損害金含め法務局に供託する予定とのことです。今回は債権者に弁済できない場合の供託について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、熊本市議の北口氏は一時失職し、熊本県知事の裁決で復職していました。失職中の議員報酬は409万円で市議会運営委員会は支払いのために同氏に対し電話メッセージ3回、電子メール1回、配達証明郵便2回使用し連絡を試みたところ3日の時点で連絡はとれず、以前振込に使用していた口座も解約されているとのことです。失職中の報酬には民法の法定利率5%の遅延損害金が発生し、3日の時点で約3万3千円の損害金が発生しているとされます。運営委員会は法務局に供託する方針です。

弁済供託とは

債務者は弁済期に債務を弁済しないと遅延損害金が発生することになります(民法412条1項)。しかし様々な理由で弁済ができない場合もあります。そういったときに取れる手段として供託という手続きが存在します。これを行うことにより債務者は債務を免れ、遅滞責任等も負わずにすむことになります(494条)。供託には執行供託、保証供託、保管供託等いくつか種類がありますが今回は弁済供託について見ていきます。

供託原因

(1)受領拒否
弁済供託ができる場合の一つとして受領拒否があります。金額等で折り合いがついていないといった理由で債権者が受け取ってくれない場合のことです。たとえば借地の賃借料を所有者が値上げしたが、賃借人が納得していな場合が挙げられます。この場合もともとの賃料を弁済し、拒否された場合に供託することができます。重要なのはあくまで「債務の本旨に従った」弁済の提供が必要ということです。ゆえに一部弁済や債務額に足りない場合は認めらません。

(2)受領不能
受領不能とは債権者側の事情で弁済を受け取ることができない場合を言います。たとえば持参債務で債権者が不在、取立債務で債権者が履行地に来られない、債権者が行方不明、債権者が死亡し相続人がいない、債権者が制限行為能力者で法定代理人がいないといった例が挙げられます。取立債務で受け取りを促したにもかかわらず取りに来ない場合は受領不能ではなく受領拒否になります。債権者不在はたとえ一時的なものでも供託することが可能です(大判昭和9年7月17日)。

(3)債権者不確知
債権者不確知とは債務者の過失なくして債権者が誰であるかわからない場合を言います。典型的には債権者が死亡し相続人が不明である場合や、債権が二重譲渡された場合などが挙げられます。なお譲渡通知の到達が先後不明の場合、判例上は「同時到達」とみなされ、どちらか一方に弁済すれば免責されるとされていますが(最判昭和55年1月11日)、供託実務上は先後不明も不確知として供託を認めています。

(4)不受領意思明確
不受領意思明確とは債権者があらかじめ弁済受領を拒絶し、その意思が強固で明確な場合を言います。これは受領拒否の一種ではありますが弁済の提供を必要とせずに供託することができる場合です。この不受領意思は明示的なものでなくてはならず、黙示的なものでは不可能とされています。明確に「絶対受け取らない」と言っている場合や、そもそも契約の存在自体を争っている場合、賃借物の明け渡し訴訟が提起されている場合などは「明確」と言えます。

コメント

本件では債権者である市議に対し、電話やメール、配達証明郵便等で連絡を試みるも応答がなく口座も解約されているとのことです。これは履行不能に該当するものと考えられ、履行不能を理由とする弁済供託が可能と思われます。供託をした場合、その時点で市側は債務が免れ、市議は法務局に供託金還付請求を行うことになります。以上のように供託制度は何らかの理由で債権者に弁済の提供ができない場合に債務者を債務から解放するための制度です。利息制限法が適用されない売買契約や請負契約等で債権額が大きい場合は遅延損害金も相当な額にのぼることがあります。供託できる場合やその要件はそれぞれ異なりますので、どのような場合に供託ができるかを正確に把握し、速やかに供託を行えるよう備えておくことが重要と言えるでしょう。

関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務コラム 法務ニュース 民法・商法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務コラム 法務ニュース 民法・商法
【名古屋】誹謗中傷記事・炎上対策《ITビジネス法務勉強会:第4回》
2018年09月06日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマは誹謗中傷記事・炎上対策です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 民法・商法
【名古屋】情報セキュリティ対策《ITビジネス法務勉強会:第5回》
2018年10月18日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第5回目のテーマは情報セキュリティ対策です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 民法・商法
【名古屋】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 民法・商法
《渋谷開催》データの利用に関する最近の法令と契約実務
2018年9月10日(月) 15:00~17:20(14:40開場)
10,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
IoT技術の進展にともない、公開・非公開のデータの収集・解析と派生データの活用が盛んに行われることが今後予想されます。
他方で多額の費用と労力をかけて有用なデータベースを構築し、営業秘密でない形でサイトやアプリでユーザーに提供している会社においては、
競業他社による目的外利用を予防し、侵害を受けた場合に権利主張していく方法を検討・確保することが重要になってきます。
このセミナーでは、データの利用に関する最近の法改正の紹介と共に、これらを背景にデータ提供に関する約定、提携先との契約において
留意しなければならないポイントを説明いたします。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

株主総会集中日開催 初の40%割れ... 事案の概要 東京証券取引所は、11日、定時株主総会の開催が最も集中する6月27日に、集計対象会社2,375社中、918社(全体の38.7%)が総会を開くと発表した。集中率が40%を下回るのは初めてである。 日本に多い3月期決算の会社の場合、基準日制度(会社法124条2項)との関係で6月後半...
改正道路交通法施行による取締状況 改正道路交通法の概要  改正道路交通法は、自転車の危険運転防止を目的として、6月1日に施行された。自転車運転においては14歳以上の者が自転車を運転するに際し、改正道路交通法に規定された14項目の危険行為の内1項目以上に該当する行為を行い、3年以内に2回以上摘発された場合、その違反者は約3時間の有料...
イオン、仏カルフールのマレーシア現地法人の全株式を取得... 事案の概要 日本の小売最大手のイオン株式会社は、10月31日、仏の総合小売業カルフール社のマレーシア現地法人であるカルフール・マレーシアの全株式を151億円で取得した。イオンは、1984年にマレーシアでの事業展開を開始し、子会社であるイオン・マレーシアは現在、マレーシア国内にて大規模な総合スーパ...