性犯罪研究の常識と最高裁の常識のギャップ!?
2011/07/27 訴訟対応, 刑事法, その他
裁判の経過
強姦罪に問われていた男性が最高裁において逆転無罪となった。そこには,最高裁の想定する性犯罪被害者の行動についての「常識」のあり方が見え隠れする。
裁判の経過は以下のものである。千葉市内で2006年に女性に性的暴行を加えたとして男性(53)が強姦罪に問われた。1,2審判決では有罪とされたが,最高裁においてこれを破棄,男性は無罪となった。1,2審では被害者女性の供述の中に多少不自然な部分があるものの,主張は一貫していることなどを鑑みて,その供述を信用し有罪としていた。
ところが一転して最高裁において逆転無罪となった。これは2つの点で問題があると考えられる。1つは法律審が原則であるところの最高裁が事実認定についての判断を下した点。もう1点は,その判断の背景に存在する「性犯罪被害者の女性はこのように行動するものだ」という最高裁の「常識」が性被害者研究者の常識とギャップがあることである。
最高裁の良心!? 古田裁判官の反対意見
特に後者の問題点については,古田裁判官の反対意見に詳細に述べられている。
具体的には,すぐ側を通った警備員と目が合ったにもかかわらず助けを呼ばなかったことは不自然であるというような最高裁の判断については,一見不合理に思える行動であっても性被害状況下にある者の取る行動としてはありうるものであるということが性被害研究においては「常識」となっているということを指摘し,最高裁の多数意見の判断はこの常識と大きく乖離していると述べている。
雑感
最高裁の考える論理則,経験則といった「常識」が素朴に適用されることによって,性犯罪の現実と乖離した判断がなされたという印象がぬぐえない。もっとも,このような最高裁の傾向は従来からのものであるようで,古田裁判官の反対意見が存在することが今回の判断の「救い」と考える研究者の意見もあるようである。「逆転無罪」「刑事裁判の事実認定の手法の徹底」という点が今回は注目されているようであるが,性被害事件であるという特徴を抜きにしてこのような部分にのみ注目する報道には疑問を持たざるを得ない。
【関連リンク】
判決全文-最高裁判所HP-
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