民事再生手続き前の高級車隠匿で元会社代表を逮捕
2026/03/05 コンプライアンス, 事業再生・倒産, 倒産法, 破産法, 障がい福祉業界

はじめに
会社が民事再生手続きに入る前に会社の資産である高級車を隠匿したなどとして埼玉県警が4日、会社の元代表を逮捕していたことがわかりました。車はすでに転売されているとのことです。今回は民事再生法の詐欺再生罪について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、逮捕されたのは複数の有料老人ホームなどを運営する会社(埼玉県春日部市)の元代表取締役です。会社は2024年3月に民事再生法の適用を申請し、同年4月に東京地裁が開始決定をしていたとされます。
元代表取締役は会社の資産で買った高級スポーツカー「ランボルギーニウラカン・ステラート」(販売価格3950万円)を同社に勤めていた男性社員の名義で登録し、裁判所が選任した監督委員から会社が支出した300万円について説明を求められた際にも実際は同車の購入申込金であったにもかかわらず虚偽の報告をしていたとのことです。
これを受けて、埼玉県警は元代表取締役を民事再生法違反の疑いで逮捕しました。元代表取締役は「今は話すことはない」と話しているといいます。
詐欺再生罪とは
民事再生法255条1項では、再生手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で財産を隠匿や破壊したり、財産譲渡や債務負担を仮装する行為、また財産の現状を改変して価値を減損するといった行為を詐欺再生罪として禁止しており、違反した場合には10年以下の拘禁刑、1000万円以下の罰金、またはこれらの併科となっています。
民事再生手続きは経済的に窮境にある債務者が債権者の多数の同意を得た上で、裁判所の認可を受けて事業や経済生活の再生を図ることを目的としています(1条)。そのため債務者は債権者に対し誠実に再生手続きを遂行し、債権者の損失を拡大させないよう務める必要があります。それにもかかわらず自己または第三者の利益のために財産を減少させ、債権者を害することは許されないということです。
このような規定は民事再生法だけでなく破産法(265条1項)や会社更生法(266条1項)にも規定があり、法定刑も同様となっています。
詐欺再生罪の要件
上でも触れたように民事再生法255条1項では「再生手続開始の前後を問わず」と規定されており、再生手続開始後に行った行為には限定されていません。そのため、再生手続開始決定がなされる前の行為にも適用がありますが、具体的には資金繰りが厳しくなり倒産が濃厚となってきた段階から該当する可能性が高いと考えられます。
次に行為類型として「債権者を害する目的」で(1)財産を隠匿しまたは損壊する行為、(2)財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為、(3)財産の現状を改変して価格を減損する行為、(4)財産を債権者の不利益に処分または不利益に債務を負担する行為が挙げられています。
これらの規定は債務者以外でも、債務者について管理命令または保全管理命令が発せられたことを認識しながら債権者を害する目的で管財人の承諾その他の正当な理由なく債務者の財産を取得し、または第三者に取得させた者も同罪となります(同2項)。
その他の注意点
上記のように詐欺再生罪には10年以下の拘禁刑、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されています。さらに組織犯罪処罰法13条2項9号、10号、11号、同3項で詐欺再生罪、詐欺更生罪、詐欺破産罪で得られた利益は没収される可能性があります。
また、民事再生手続きでは詐欺再生罪以外でも、虚偽の報告や報告拒絶、検査の拒絶に対しては3年以下の拘禁刑、300万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されています(258条1項~3項)。再生管財人に提出する報告書等で偽造するといった行為が典型例と言えます。
コメント
本件では元会社代表が民事再生手続開始決定がなされる前に会社財産で購入した高級車を元従業員名義で登録して隠匿した上で第三者に売却していた疑いがもたれています。
会社の資金繰りに窮し経営破綻が濃厚となった後に行っていた場合は詐欺再生罪に該当する可能性は高いと考えられます。
以上のように倒産の前後を問わず会社財産を隠匿や損壊したり、その他債権者に不利になる処分を行うことは民事再生法違反となる可能性があると言えるでしょう。
過去にも、民事再生手続開始決定後に会社財産を自己が経営する他社に流し、その事実を隠蔽するために通帳のコピーを改ざんして担当弁護士に提出していたという例も存在します。
このような事例は年間20~30件程度発生していると言われており、倒産法の中では最も重い罰則が置かれ厳格に規制されています。会社の倒産が濃厚となっている場合は専門家の指導の下、慎重に対応していくことが重要と言えるでしょう。
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