自動車学校・教習指導員の定年再雇用後の待遇格差に賠償命令 ー名古屋高裁
2026/03/02   契約法務, 労務法務, 労働法全般, 自動車

はじめに

定年後の再雇用で基本給が大幅に減額されたのは不当な待遇格差だとして「名古屋自動車学校」(名古屋市)に勤めていた男性2人が同社に差額分の支給を求めていた訴訟の差し戻し審で26日、名古屋高裁が計約336万円の賠償を命じていたことがわかりました。大幅な減額は「不合理な相違」とのことです。

 

事案の概要

報道などによると、名古屋自動車学校の正社員の教習指導員として勤務していた原告の男性2人は定年後に嘱託社員として再雇用された際、基本給や賞与等が大きく引き下げられたといいます。
背景には、名古屋自動車学校における、正社員と嘱託社員の給与制度の違いがあったとされます。

名古屋自動車学校の正社員の賃金は月給制で、基本給・役付手当などで構成されており、基本給は一律給と功績給、役付手当は主任以上の役職の者に支給されていたとのことです。
一方で、有期労働契約である嘱託社員に対しては、正社員に適用される就業規則とは別の「嘱託規定」が適用され、賃金額は経歴や年齢その他の実態を考慮して定められるとし、役付給はつかない旨が定められていました。

その結果、原告の男性2人は定年時と再雇用後との比較で、賃金および賞与が50%以上減額されていたとのことです。

これを受け、原告の男性2人は、「無期労働契約を締結している正社員との待遇差は旧労働契約法20条に違反し不当である」として、会社に対し差額分の損害賠償を求め提訴していました。

 

定年後再雇用とは

高年齢者雇用安定法9条では、定年(65歳未満のものに限る)の定めをしている事業主に対して、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、(1)定年の引き上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止のいずれかを講じることが義務付けられています。

高年齢者の安定した雇用の確保と再就職の促進、就業の機会の確保によって福祉の増進と経済の発展を目的としている制度とされます。そして、定年後再雇用は(2)の継続雇用制度の一種とされています。定年後も慣れた仕事を継続でき、他職への再就職に比べてストレスが少なく、会社にとっても安定した労働力が確保できます。

一方で、定年後再雇用には定年前に比べて大幅に賃金や手当が削減されることが多いといえ、トラブルも増加しているといいます。

 

定年後再雇用の際の待遇格差

それでは定年後再雇用の際に、定年前の雇用条件よりも賃金を減額したり手当を廃止するといったことは許されるのでしょうか。
旧労働契約法20条では、有期契約労働者と無期契約労働者との間の不合理な労働条件の格差を禁止しており、「同一労働同一賃金」の原則の根拠となっていました。

現在ではパートタイム・有期雇用労働法8条、9条に引き継がれており原則として雇用形態にかかわらず、職務内容が同じであれば同様の待遇を与える必要があり、不合理な格差を設けてはならないということです。

定年前と定年後の待遇格差が不合理であるかが争われた著名な事案として長澤運輸事件があります。この事案では、定年後の再雇用の際は嘱託社員就業規則が適用され、基本給も月給制以外の在籍給や年齢給などがなくなり、精勤手当や在宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、通勤手当、賞与などもありませんでした。

この事案で最高裁は、職務内容や責任は定年前と後とで同等であると認めた上で、待遇格差が不合理であるか否かを判断する際には、単に職務内容や変更範囲などの事情だけで判断するのではなく、労働契約法20条の「その他の事情」も加味して判断すべきとしました。そのうえで、

・定年後再雇用の場合はそもそも長期間雇用することが想定されていないこと
・定年までは無期契約労働者として賃金を受けてきており、一定の要件を満たせば老齢厚生年金を受けることが予定されていること

などの事情を「その他の事情」として加味すべきとしました。

最終的に、最高裁は、長澤運輸におけるそれぞれの手当・項目等の趣旨を個別に考慮したうえで、「精勤手当と超勤手当がないこと」については不合理と判断しています(最高裁平成30年6月1日)。

 

本件での裁判所の判断

本件では定年後再雇用の際に業務内容等が同様であるにもかかわらず、賃金が50%以上減額されているという事情がありました。

名古屋地裁と名古屋高裁は上記の最高裁判例の考え方を踏襲し、
「有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違について定年後再雇用である事情も考慮できるものの、勤続短期正社員の基本給の額をも下回る賃金は労働者の生活保障の観点から看過しがたい」として、定年時の60%を下回る部分については労働契約法20条が禁じる“不合理な労働条件の格差”にあたるとしました。

これに対し最高裁は、「不合理であるか否かについては基本給や賞与に関しても他の労働条件と同様にその性質や目的その他諸事情を考慮し、検討すべき」として差し戻しました。基本給の細かな性質にまで踏み込み分析することを求めた形です。

 

コメント

本件差し戻し審で名古屋高裁は、“基本給”は指導員という仕事内容に対する職務給としての性質が強く、その点は嘱託社員においても同様であると指摘。
若手を大きく下回る金額は不合理とし、原告の1人については定年時の約55%、もう1人に対しては約57%を下回る分の支払を命じました。

以上のように定年後再雇用の際の待遇格差が不合理か否かについては各種手当だけでなく基本給についても、それぞれ個別にその趣旨や目的、内容や責任の程度、異動の有無その他の事情など様々な要素が総合的に考慮されます。
本件事情下では定年時の約55%と示されましたが、一審二審時点では60%とされていました。どの程度が合理的な範囲となるかは個別の事案ごとに異なるといえます。

定年後再雇用をする際には一律に減額するのではなく、なぜそのような額になるかを合理的に検討し導き出すことが重要といえるでしょう。

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