都営地下鉄などの工事入札をめぐる談合疑いで東鉄工業などに立入検査 ー公取委
2025/11/19   コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, 建設

はじめに

東京都が運営する都営地下鉄などの工事入札を巡り、公正取引委員会が11日、談合の疑いがあるとして東鉄工業(新宿区)や坪井工業(中央区)など6社に立入検査を行っていたことがわかりました。

ちなみに、東京都交通局に対しても立入検査を行ったとのことです。

 

事案の概要

報道などによりますと、東鉄工業や坪井工業など6社は、少なくとも数年にわたって東京都交通局が発注する都営地下鉄三田線・浅草線・新宿線などの工事で、路線や管区ごとに受注予定の会社を調整していた疑いがあるとされます。

2024年以降、路線ごとに特定の1社のみが応札する事例が相次ぎ、入札率は99.9%となっていた事例もあるとのことです。公取委は独禁法違反の疑いがあるとして6社に立入検査を行いました。

東京都知事は、都の職員が受注調整に関与していた可能性もあるとして危機感をあらわにし、関係局による調査特別チームを編成して調査にあたるとしています。

 

入札談合とは

入札談合とは、一般的に国や自治体などが行う入札に際し、複数の入札参加者が事前に相談して受注事業者や受注金額をあらかじめ決定し、そのように入札できるよう協力する行為をいいます。

本来入札は、公共事業の受注に関して民間事業者の中から最も良い条件を出した事業者を選定するための制度で、税金を原資とした限りある財源を適切に使用することが目的です。

しかし、入札予定の事業者同士が話し合い、できるだけ高い金額で受注できるよう仕向けた場合、入札制度の趣旨が没却され、不当に財源が浪費されてしまうこととなります。そこで各種法律では罰則を設けて禁止しています。以下、独禁法による規制を具体的に見ていきます。

 

独禁法の不当な取引制限

独禁法では、事業者が他の事業者と共同して対価や数量などに関し相互に拘束し遂行することによって、公共の利益に反し一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為を「不当な取引制限」として禁止しています(2条6項、3条後段)。

上でも触れた談合やカルテルが典型例といえます。具体的な要件は、事業者が(1)意思の連絡を通じて、(2)相互に拘束し、(3)一定の取引分野における、(4)競争を実質的に制限することとされています。

意思の連絡は、事業者同士が互いに値上げなどを認識し、歩調をそろえる意思を持つことを意味し、暗黙的に容認することで足りるといわれています(東京高裁平成7年9月25日 東芝ケミカル事件)。相互拘束も契約などで法的に強制する必要はなく、紳士協定のようなもので足りるとされています。

そして、一定の取引分野とは言い換えれば「市場」を意味し、その範囲は原則として需要者から見た代替性の観点から画定するといわれています。代替性とは、ある製品が値上げされたら代わりに別の製品を買うといった関係が成り立つ状況ということです。

競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者がその意思である程度自由に価格や品質、数量を左右し、市場を支配する力が形成され、または形成されようとする状態をいいます(東京高裁昭和26年9月19日)。

 

入札談合における不当な取引制限

上記のように、不当な取引制限の要件としては意思の連絡と相互拘束が挙げられています。これを入札談合について見ると、原則として「基本合意」があれば意思の連絡と相互拘束の要件を満たすといわれています。

判例によりますと、「基本合意は…各社が話し合い等によって入札における落札予定者および落札予定価格をあらかじめ決定し、落札予定者の落札に協力するという内容の取り決めであり、入札参加事業者は…本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところ、このような取り決めがされたときは、これに制約され、意思決定を行うこととなるという意味において、各社の事業活動が事実上拘束される」とされており、「上記取り決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成される」としています(最判平成24年2月20日)。

つまり、基本合意とは入札参加者で話し合って誰がいくらで落札するかをどのようにして決めるかといったルールを取り決める行為といえます。そして、それに基づいて実際に受注予定者と応札価格を決定する行為を個別調整行為といいます。

この基本合意があれば、原則として不当な取引制限の行為要件を満たすということになります。

 

コメント

本件で、都営地下鉄などの6つの路線の工事で東鉄工業や坪井工業など6社が、路線や管区ごとに受注予定の会社を調整していた疑いがあるとされます。これが事実であった場合、相互にどの会社がどの路線で落札するかを決定する基本ルールを定めた基本合意があった可能性が高いと考えられます。また、落札率も99.9%に上っていた事例もあり、都の職員の関与も強く推認されます。

以上のように、入札予定事業者同士で基本合意をすることによって独禁法上の不当な取引制限に当たることとなります。公取委の発表では、昨年2024年度における独禁法違反による排除措置命令の件数は前年比17件増の21件とされ、過去10年間で最多とのことです。そのうち不当な取引制限は9件に上っています。

不当な取引制限が認められた場合、非常に高額な課徴金納付命令が出されることがあります。同業他社との話し合いなどでこのような取り決めが行われていないか、今一度社内で周知し防止していくことが重要です。

 

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