容姿の侮辱投稿で東京高裁が通信履歴解析を認める/発信者情報開示請求について
2025/09/19   コンプライアンス, 訴訟対応, 情報セキュリティ, 民事訴訟法, プロバイダ責任制限法, IT

はじめに


複数の匿名投稿者から侮辱を受けた女性が「LINEヤフー」を相手取り、発信者情報開示を求めた訴訟で東京高裁が通信履歴を解析して電話番号を割り出すことを認めた上で開示を命じていたことがわかりました。

解析まで認めるのは異例とのことです。今回は発信者情報開示の手続きを見直していきます。

 

事案の概要


報道によりますと、2022年6月~7月、LINEヤフーがインターネット上で運営する「オープンチャット」に「酷い顔」などと女性の容姿を侮辱する内容の投稿が5件なされたとされます。

一般的なSNSでは投稿者のアカウントに電話番号などが登録されていますが、このオープンチャットではアカウントに投稿者を特定する情報は登録されていなかったとのことです。そこで原告の女性はオープンチャットのアカウントと紐付けされているLINEアカウントの発信者情報開示請求を東京地裁に提起しました。

これに対しLINE側はオープンチャットとLINEアカウントは関連しておらず、投稿者を探知するには通信履歴を解析する必要があり、それは法的に許されていないと反論していたとされます。

 

発信者情報開示とは


一般的にSNSなどインターネット上で誹謗中傷や名誉毀損的な投稿がなされた場合、被害者は発信者に対し不法行為に基づく損害賠償請求や場合によっては刑事告訴を行うことができます。

しかし、このような投稿は匿名で行われることがほとんどで、法的措置を取るにも相手が誰かわからないことが一般的です。そこで被害者が民事上の責任追及や捜査機関に刑事責任追求を求めるといった目的のために一定の要件の下で発信者を特定する手段が用意されています。それが発信者情報開示請求制度です。

これはプロバイダ責任制限法という法律で規定されており、侵害情報の流通やそれの削除に関してプロバイダ等が負う責任の範囲などが規定されています。

なお、同法は現在法改正により「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法)」と改名されています。

 

発信者情報開示の手続き


発信者情報開示請求はまず、裁判所を通さずにプロバイダ等に任意で求めることも可能です。ただし、これには強制力は無く、一般的にこの任意開示請求に応じることは少ないと言われています。

そこで裁判所を通じて行うこととなりますが、従来これには(1)発信者情報開示の仮処分申立て、(2)ログ保存の仮処分申立て、(3)プロバイダに対する発信者情報開示請求の訴えと3つの手続きが必要とされてきました。

これでは被害者側の負担が大きく、また十分な情報が得られず結局発信者を特定できないといった場合もあり得ると指摘されていました。そこで令和3年改正により新たに発信者情報開示命令事件に関する裁判手続という非訟事件が新設されました。

これにより3つの手続きが1つの手続きで行えるようになり、より短時間で負担も少なく開示請求ができるようになっています。

 

発信者情報開示の要件


発信者情報開示請求が認められるには、大きく(1)権利侵害の明白性、(2)正当理由、(3)補充性の3つの要件を満たす必要があるとされます(5条)。

まず、インターネット上での投稿により、名誉権やプライバシー権などの権利の侵害が明白である必要があります。一般的に名誉毀損の場合は公益性や公共性など違法性を阻却する事由は被告側が立証しますが、発信者情報開示請求では請求者側が不存在を立証することとなります。次に、開示請求に正当な理由が必要です。

これは民事上の賠償請求や削除請求、差し止め請求、刑事告訴など法的手段を取るといった目的であれば認められ、私的な制裁をするためといった場合には認められないとされます。

そして、令和3年改正により創設された「特定発信者情報開示請求」をする場合、つまりアカウント作成時の通信、アカウントへのログインの際の通信などに関する請求では当該通信を辿らなければ特定できない場合(補充性)でなければならないとされています。

 

コメント


本件で一審東京地裁は女性側の請求を棄却したものの、二審東京高裁は一転開示を認めました。
オープンチャットの投稿者のLINEアカウントを探知するには通信履歴を解析する必要があるところ、これは憲法上の通信の秘密に抵触するおそれがあったため争点となっていたと考えられます。

この点、東京高裁は正当な業務に当たる場合は解析することも認められるとしてLINE側に投稿者の電話番号の開示を命じました。ここまで踏み込んだ判決は異例とのことです。

以上のようにインターネット上で誹謗中傷や名誉毀損を受けた場合、一定の要件の下で投稿者の情報を開示するよう請求することができます。

また、令和3年改正により1つの手続きで行えるようにもなっています。しかし、その要件は厳格なものとなっており開示が認められるのは簡単ではないと言えます。要件や手続き等について正確に把握して準備しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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