東京地裁がキャバクラで労働契約認定、労働者性と賃金原則
2025/06/30 契約法務, 労務法務, 労働法全般, サービス

はじめに
キャバクラのキャストだった女性が、勤務していた店の運営会社に未払い賃金等の支払いを求めた訴訟で、東京地裁は25日、労働契約を認め、計約2,000万円の支払いを命じました。店による指揮監督や時間的拘束が認められるとのことです。
今回は労基法の労働者性と賃金支払い原則について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の女性は2017年から2022年にかけて東京都内のキャバクラ2店舗に勤務していたとされ、店側は深夜の割増賃金を支払っておらず、また「税金」と称して支給額の10%を控除していたとされます。
これに対し、女性側は運営会社2社に対し未払い賃金分の支払いを求めて東京地裁に提訴していました。会社側は女性が個人事業主であり、業務委託契約を結んでいたとして、労基法が適用されないと主張していたとのことです。
労働法と労働者性
近年、働き方の多様化が進み、会社の従業員ではなく個人事業主として働く人が増加しています。それに伴い、会社とは労働契約ではなく業務委託契約を締結する例も多くなっています。
会社との関係が雇用ではなく業務委託であれば、原則として労働関係法令の適用はなく、時間外労働規制や深夜労働の割増賃金、休暇の付与や労災保険など、各種労働者を保護する制度も適用されません。
しかし、事はそう簡単な話ではなく、労働者であるか個人事業主であるかがしばしば問題となります。
たとえば、業務中に怪我をして労災申請をした場合や、深夜手当、休日手当などの支払いを求めた場合など、労基署や会社側は労働者ではなく個人事業主であり、業務委託をしているに過ぎないことから法令の適用はないと主張します。
一方、請求した側は、実質的に個人事業主ではなく労働者であると反論することとなります。以下、具体的にどのように「労働者」性が判断されるのかを見ていきます。
労基法の労働者性判断基準
労基法9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」としています。
そして労働者に該当するかは、
(1)他人の指揮監督下にあるか、
(2)報酬が指揮監督下における労働の対価となっているか
で判断されます。この基準を「使用従属性」と言います。
さらに具体的な判断要素として、指揮監督下にあるかについては、
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 拘束性の有無
- 代替性の有無
報酬の労務対償性については、支払われる報酬の性格が発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対するものと認められるか、が基準となります。
これら以外にも判断を補強する要素として、事業者性の有無、専属性の程度などが挙げられます。
受注者本人に代わって他の人が労務を提供したり、受注者が自らの判断で補助者を使える場合は事業者性が強く、労働者性が否定される方向に働くということです。
賃金支払い5原則
ここで労基法の賃金支払いに関する原則に触れておきます。
労基法24条では、
(1)通貨で、
(2)直接労働者に、
(3)全額を、
(4)毎月1回以上、
(5)一定の期日を定めて
支払わなければならないとされています。これを「賃金支払い5原則」と言います。
社会生活上最も有利な交換手段である通貨で、中間搾取を排除するために直接労働者に支払うことが求められます。
全額払いは、労働者に労働の対価を残らず帰属させ、また労働者の足止めをすることを排除する意味合いがあるとされます。そのため原則としてあらゆる控除が禁止されます。
例外として、所得税の源泉徴収など法令に特段の定めがある場合のみ許容されます。
毎月払いは賃金支払いの間隔が空きすぎるのを防止し、一定期日払いは労働者の計画的な生活を保障するものと言われています。
コメント
本件でキャバクラの運営会社側は、原告女性が個人事業主で業務委託契約であり、労基法は適用されないと主張していたとされます。
これに対し、東京地裁は店側がシフトを決めるなど勤務を管理し、時給で賃金が支払われていたことから、店の指揮監督を受け、時間的拘束を受けていたとして労働契約であったと認めました。
また交通費などの名目で賃金から差し引くことは、全額払いの原則に反し無効であるとし、計約2,000万円の支払いを命じました。
以上のように、労働者に該当するかは契約書の文言や名目では決まらず、その実質で判断されます。
会社の指示の下で一定時間拘束され、それに対し時間給を支払っている場合は、労働者と判断される可能性が高いと言えます。
自社で業務委託を締結している場合は、実質的に労働者となっていないかを見直しておくことが重要です。
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