日産自動車の定時総会で株主提案が否決、役員報酬規制について
2025/06/27 商事法務, 総会対応, 会社法, 自動車

はじめに
日産自動車の定時株主総会において、役員報酬制度の見直しを求める株主提案が否決されたことが明らかになりました。2024年度に大規模赤字を計上するなど経営再建が求められる中、約1,000人もの株主が出席し、注目を集めました。今回は、会社法における役員報酬規制の概要について改めて確認していきます。
事案の概要
報道によると、2024年度に6,700億円超の赤字を見込む日産自動車は、2027年度までに国内外で2万人の人員削減および7工場の閉鎖を計画しているとされます。こうした状況のなか、6月24日に開催された株主総会には、昨年のおよそ2倍となる約1,000人が出席し、役員報酬に関連する複数の株主提案が提出されました。
中でも注目を集めたのは、株価が前年度末比で10%以上下落した場合、当該年度の報酬総額を20%以上自動削減するという報酬連動制の導入案です。報酬制度に株主の視点を反映させることを目的としています。あわせて、報酬是正役の新設や期末配当の実施なども提案されましたが、いずれも否決されました。
会社法における報酬規制
役員報酬の決定は、通常、業務執行の一環として取締役会で行われますが、取締役による「お手盛り」を防ぐため、会社法では厳格な規制が設けられています。
会社法第361条1項では、取締役の報酬は定款または株主総会の決議によって定めなければならないとされています。ただし、報酬総額を株主総会で定め、その配分を取締役会が決定する形も可能です(大判昭和7年6月10日)。さらに、取締役会が代表取締役にその決定を再委任することも認められています(最判昭和31年10月5日)。
報酬規制の具体的内容
同条1項によれば、以下の項目は定款または株主総会決議によって定める必要があります。
1. 額が確定している報酬についてはその額
2. 額が不確定な報酬についてはその算定方法
3. 金銭以外の報酬についてはその具体的内容
ここで言う「報酬等」には、退職慰労金なども含まれます(最判昭和39年12月11日)。また、自社株式やストックオプションといったインセンティブ報酬についても、株主の利益に直接影響することから、その内容を株主総会などで詳細に定める必要があります。
2021年の改正点
2021年3月の会社法改正により、上場会社を中心に報酬制度に関する透明性の向上が図られました。主な改正点は以下の3点です。
1. 取締役個人別報酬の決定方針の策定義務(361条7項)
2. 非金銭報酬についての株主総会決議の明確化
3. 株式・新株予約権に関する特則の新設
これにより、個人別の報酬が定款や株主総会で定められていない場合、取締役会は報酬決定の基本方針を策定することが義務付けられました。この義務を怠って報酬を決定した場合、決定そのものが無効となる可能性があります(会社法施行規則98条の5参照)。
コメント
日産自動車の株主総会資料によると、今回の報酬見直し案に対し、取締役会は「当社は指名委員会設置会社として社外取締役のみで構成された報酬委員会を設置しており、適切な手続きを経て報酬方針を決定している」との理由で反対の立場を取り、結果として提案は否決されました。
一方で、退任した前社長に対する高額報酬への疑義も挙がるなど、経営陣の報酬に対する株主の関心は引き続き高い状況にあります。
以上のように、会社法では役員報酬に株主の関与を強めるための規定が多数設けられており、近年の改正でその透明性と妥当性が一層求められるようになっています。企業側としては、制度の趣旨を踏まえた説明責任を果たし、株主との信頼関係構築に努めることが今後ますます重要になるでしょう。
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