オリンパス、大量降格で提訴へ、ジョブ型雇用と人事権濫用について
2025/06/23   労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, メーカー

はじめに

オリンパスマーケティングがジョブ型雇用の導入を契機に200人に及ぶ降格人事を実施した問題で、同社社員が16日、地位確認や損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。

同様の訴訟は2件目とのことです。

今回は、ジョブ型雇用と人事権濫用について見ていきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、原告の男性は2000年代にオリンパスに入社し、2010年代にオリンパスマーケティング(旧オリンパスメディカルサイエンス販売)に出向したとされています。

男性は2020年12月、通勤中に足を骨折したにもかかわらず、上司の要請で出勤し、足の可動域が狭くなる後遺症が残った上、顧客からクレームや同僚に迷惑をかけたという理由で低人事評価を受けたとのことです。

そして2023年1月、春から導入されるジョブ型雇用制度に基づいた新人事等級が告げられ、旧制度で「P2」等級だったことから新制度で「G9」に移行するはずが、「G10」へと降格されたといいます。

男性はその後、適応障害を発症し休職。同社に対し地位確認や損害賠償などを求め、東京地裁に提訴しました。

 

ジョブ型雇用制度とは

ジョブ型雇用制度とは、もともと欧米で主流だった雇用形態で、近年働き方改革が叫ばれる日本でも注目されるようになった制度とされています。

「ジョブ型雇用」は職務内容(ジョブ)を明確に定義し、職務記述書(ジョブディスクリプション)等で内容を具体的に特定。その職務を遂行するにふさわしいスキルや実務経験を持つ人を採用する手法です。ちなみに、採用時から候補者のスキルや経験を基に人材を迎える手法をジョブ型採用と言います。
このように、労働時間ではなく職務やスキルに基づいて評価する雇用システムがジョブ型雇用です。

一方、従来の日本で長らく採用されてきた、労働時間や勤務地、職務内容を限定せず企業内での長期的なキャリア形成を前提とした雇用形態を「メンバーシップ型雇用」と言います。

 

ジョブ型雇用制度のメリット・デメリット

ジョブ型雇用制度のメリットとしては、戦略上重要な人材を採用しやすく、職務と処遇の連動が強くなり年功型処遇が解消されやすくなる点が挙げられます。

また、労働者側にとっても専門的なスキルを磨く機会が増え、自分の得意分野、関心のある分野に集中してスキルアップできると言えます。

一方、デメリットとしては、職務定義書の管理コストがかかることや、優秀な人材がより条件の良い企業へ流出しやすくなる点が指摘されます。

また、労働者側のデメリットとしては担当業務が限定されるため仕事がなくなるリスクがあることや、能力や評価によっては降格・降給のリスクも高い点があります。

ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用それぞれに一長一短があると言えます。

 

人事権の濫用とは

人事権とは、会社の従業員の採用や配置、評価、昇進、解雇など人事に関する決定権限を言います。

法律で定義されているわけではありませんが、一定の場合には人事権の濫用として労働基準法などの労働法規で規制されることがあります。

権利の行使が相手方に著しい損害を与える場合や、社会通念上の限度を超えて行われた場合は濫用として無効となることがあります。これを権利濫用の法理と言います。

人事権の行使に関して濫用となる場合としては、

(1)業務上の必要性が認められない場合
(2)従業員が受ける不利益が著しく大きい場合
(3)不当な動機や目的がある場合

などが挙げられます。

裁判例でも「降格を含む人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたると認められない限り違法とはならない」とされています(東京地裁平成9年11月18日)。

判断基準としては、業務上・組織上の必要性の有無と程度、労働者側の有責性の有無と程度、労働者が受ける不利益の性質や程度、会社における運用状況等が挙げられます。

 

コメント

原告側の主張によりますと、オリンパスマーケティングではジョブ型雇用制度を導入するにあたって多くの従業員が等級を下げられたといいます。
また原告男性は、不当な命令や不当な評価を受け、また事実とは異なる後付の理由で降格処分を受けたと主張しています。

今後は、会社側の評価の適切性やこれまでの運用状況、業務上の必要性の有無などが争点となっていくと考えられます。

以上のように、ジョブ型雇用制度はその人のスキルや経験をもとに採用し、それらを基に評価していくシステムです。
日本では経団連の提言により多くの大企業で採用されています。

一方で、それを契機に不当な評価や人事措置、人員や人件費削減に利用されることも懸念されます。

制度の本質と労働法規の基本理念に基づき、会社・従業員双方に利益となる運用を行っていくことが重要と言えるでしょう。

 

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