ミュゼプラチナムが給与未払いで一斉休業、立替払い制度とは
2025/05/14 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, サービス

はじめに
従業員への給与未払い状態で一斉休業状態のミュゼプラチナムが解雇はせず、退職勧奨とし未払い給与については立替払い制度を利用するよう求めていたことがわかりました。顧客のローン引き落としは現在も続いているとのことです。今回は立替払い制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、全国に約170店舗を構える脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」は今年3月22日から全店一斉休業したとされます。
運営会社のMPH(東京)は4月18日に施術を受けられない会員に業務委託契約を締結した別法人とそのフランチャイズ加盟店で代替サービスを提供すると発表したとのことです。
同社は経営悪化により従業員への給与が断続的に未払いとなっており、退職勧奨をしつつ未払い分については政府の立替払い制度を利用するよう求めています。
なお、ミュゼプラチナムを巡っては、家電メーカー「船井電機・ホールディングス」(大阪府)が23年に買収したものの、1年で売却し破産手続開始決定を受けたという経緯があります。
未払い賃金立替制度とは
未払い賃金立替制度とは、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づき「独立行政法人労働者健康安全機構」が運営する制度です。
会社が倒産した際に賃金が支払われないまま退職を余儀なくされる労働者のための制度で、労働者およびその家族の生活を守るためのセーフティネットとしての機能を果たします。
倒産するまでに至った会社の財産状況では、労働者に十分な賃金を支払うことが困難であることから国が会社に代わって賃金の支払を実施します。
この制度による支払はあくまでも立替であり、本来の賃金支払債務は依然として倒産会社に残ることとなり、労働者健康安全機構がその後会社に求償することとなるとされます。
立替払いの要件
未払い賃金立替払制度を利用するための要件は、事業者に関する要件と労働者に関する要件に分けられます。まず事業者に関する要件として、
(1)労災保険の適用事業の事業主で、かつ1年以上事業を実施していること、そして(2)倒産したこととなっています。
倒産は破産手続き開始決定や再生手続き開始決定、更生手続き開始決定、特別清算手続き開始命令など法律上の倒産に加え、中小企業については事実上の倒産も含まれます。
中小企業とは、資本金3億円以下または労働者数300人以下で卸売業やサービス業、小売業以外の事業者、資本金1億円以下又は労働者数100人以下の卸売業、資本金5千万円以下又は労働者数100人以下のサービス業、資本金5千万円以下又は労働者数50人以下の小売業とされます。
労働者に関する要件としては、
(1)破産手続き開始等の申立ての6ヶ月前の日から2年間に退職
(2)未払い賃金額等について、破産管財人や労基署長の証明
(3)破産手続開始決定等の日の翌日から2年以内に立替払い請求
となっています。
立替払いの金額等
立替払いの対象となる賃金は、退職日の6ヶ月前から立替払い請求日の前日までに支払期日が到来している未払い賃金となります。ただし、総額2万円未満の場合は対象外とされます。
そして、原則として未払い賃金総額の8割が支払われますが退職日における年齢に応じて限度額が定められています。
45歳以上の場合は未払い賃金総額の限度額が370万円となっており、立替払いの上限額はその8割の296万円です。
30歳以上45歳未満の場合は限度額が220万円で立替払い上限額は176万円、30歳未満の場合は限度額が110万円で立替払い上限額が88万円とされます。
これらの支払事務および倒産した会社に対する求償事務は労働者健康安全機構が実施することとなります。
コメント
本件で賃金支払が滞っているミュゼプラチナムは従業員に対し政府の立替払い制度の利用を求めているとされます。しかし、労基署は会社がまだ倒産していないため立替払い制度はすぐには利用できないとしているとされます。
上でも触れたように中小企業の場合は事実上の倒産でも制度の対象となりますが、サービス業の場合は資本金5千万円以下または労働者が100人以下とされます。同社は全国に約170店舗を構えており中小企業の基準に該当しないものと考えられます。
以上のように会社が倒産した場合、一定の要件のもとで従業員には一定額の賃金が立替払いされます。また、給与債権については先取特権が認められ、担保権の存在を証する文書の提出によって一定の範囲で差し押さえが認められる場合もあります。
経営不振等により従業員の給与支払が滞る見通しの場合はこれらの制度を周知して従業員の保護を図ることも重要と言えるでしょう。
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