1000円着服で懲戒免職に退職金1,200万円不支給、最高裁は「適法」と判断
2025/04/22 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 刑事法

はじめに
運賃1,000円を着服したなどとして懲戒免職となった京都市営バスの元運転手の男性。男性は退職金が全額不支給となったことを不服として市を相手取り、訴訟を提起していました。
最高裁判所は4月17日、不支給を違法とした二審判決を破棄し、原告側の請求を棄却しました。
1000円着服で退職金不支給
男性は1993年から京都市営バスの運転手として勤務していましたが、2022年に運賃として1150円(乗客5人分)を受け取った後、そのうち千円札1枚をカバンに入れ着服しました。
市が後日、ドライブレコーダーで業務状況を点検したところ、男性の着服が発覚。また、男性は乗客がいない車内で、禁止されていた電子たばこを吸っていたことも確認されました。そのため、市は男性を懲戒免職とし、約1,200万円の退職金を全額不支給としました。
しかし、男性はこの処分について「重過ぎる」として、懲戒免職と退職金不支給処分の取り消しを求めて、提訴しました。
一審の京都地方裁判所は、2023年7月、「市の判断は不合理とは言えない」として、不支給処分を適法と判断し請求を退けました。
しかし、2024年2月の大阪高等裁判所の判決では、退職手当に関し、「給与の後払い的な性格や生活保障的な側面も軽視できない」としたうえで、1200万円の退職金不支給は「行為の程度や内容に比べて酷だ」と判断。
着服金額が少額で、被害弁償がされていることも踏まえ、市の処分を取り消す判決を下しました。
これに対し、最高裁判所第1小法廷は4月17日、「着服はバス事業の運営の適正を害するもの」と指摘。たばこを吸っていたことについても、勤務状況が良好でないことを示すなどとして、裁判官5人全員一致の判断で、「全額不支給とした処分に裁量権の逸脱はない」との判決を下しました。これにより、男性の敗訴が確定しています。
就業規則に明記されているかがポイント
今回、大きな争点となった退職金の不支給。
一般的に、従業員が退職する場合などに、勤務した期間に応じて退職金が支給されています。退職金は「賃金」に該当し、原則、会社は全額支払うことになっています。
しかし、会社の就業規則に基づき定められた退職金支給規程や労使協定・労働協約などといった合意がある場合には、減額や不支給が認められるケースがあります。
例えば、就業規則には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項を記載しなければならないとされていますが、その規定があったうえで、退職者が背信行為をとった場合などには、減額などが適法と認められる傾向があるようです。
ただ、会社内で問題を起こし懲戒解雇処分を受けた場合でも、就業規則などで不支給事由が定められていない場合には、退職金の減額や不支給は認められないとされています。
また、裁判所は退職金の性質を「長年の勤務に対する報償」や「老後の生活保障」と捉える傾向もあるため、不支給処分には一定の合理性や明確な根拠が求められます。
これまでの判例で、不支給が認められたケースとして、以下が挙げられます。
・会社財産の着服や横領
・職場内での違法行為
(同僚への性的な嫌がらせ、賭博行為などで懲戒解雇となったケースなど)
・私生活での犯罪行為
(業務外で飲酒事故を起こしたなど)
・競合他社への転職時の営業秘密や顧客情報の持ち出し
コメント
1000円の着服で1200万円もの大金を失うこととなった元運転手の男性。しかし、少額の着服であっても、処分が厳しくなる傾向があります。
今回の最高裁判決も「業務の適正性を損ねる行為」として、金額の大小に関係なく、信頼を裏切る行為に厳格に向き合う姿勢を示したものです。
企業側の視点では、就業規則などで不支給要件を明確にしつつ、行為と処分の重さとのバランスを慎重に考え、処分を下すことが求められます。
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