小林製薬経営陣に株主代表訴訟、会社役員の責任と限度額
2025/04/09 商事法務, 総会対応, 訴訟対応, 会社法, 医療・医薬品

はじめに
小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害を巡り、大株主である投資ファンド「オアシス・マネジメント」が当時の経営陣を相手取り株主代表訴訟を起こしていたことがわかりました。請求額は135億円とのことです。今回は役員等の責任とその限度額などを見ていきます。
事案の概要
小林製薬は悪玉コレステロールを下げる効果をうたい紅麹を原料とするサプリメント「紅麹コレステヘルプ」などを機能性表示食品として販売しておりました。しかし2024年3月、これらのサプリメントを摂取した消費者に健康被害が生じ、240人以上の入院者を出す事態となりました。報道などによりますと、同社の大株主である香港系投資ファンド「オアシス・マネジメント」は健康被害の発覚当時の役員であった創業家出身の社長や会長、社外取締役らの計7人を相手取り株主代表訴訟を提起したとされます。品質管理体制の不備は公表遅れで発生した損害の責任があるとしております。請求額は小林製薬に与えた約135億円としております。
役員等の会社に対する責任
取締役や会計参与、監査役、会計監査人と会社との関係は委任関係とされております。そのためこれらの役員等は会社に対して善管注意義務を負っており(会社法330条)、さらに取締役は忠実義務も負っております(355条)。その他にも競業避止義務(356条1項1号)や利益相反取引回避義務(同条1項2号、3号)、また相互の監視・監督義務を負っております(362条2項2号)。役員等がこれらの義務を怠った場合、会社に対してこれにより生じた損害を賠償する責任を負うこととなります(423条)。これらの責任追求は本来会社自身が行うこととなります。しかし役員同士の仲間意識や、自身が追求された場合のことを想定して強く追求できないといった問題が古くから指摘されております。そこで役員等の会社に対する責任を、会社に代わって株主が追求する制度があります。それが株主代表訴訟です(847条)。具体的にはまず、株主が会社に対し提訴請求を行います。会社が60日以内に提訴しない場合に株主が提訴することが可能となります(同3項)。なお60日を待っていたら会社に回復できない損害が発生する場合はただちに提訴可能です(同5項)。
役員等の責任を限定する制度
上記の役員等の会社に対する責任は一定の要件のもとで免除または限定することができます。会社法では、(1)総株主の同意による免除(424条)、(2)株主総会の特別決議による一部免除(425条)、(3)定款の定めに基づく取締役会の決定による一部免除(426条)、(4)定款の定めに基づく責任限定契約による一部免除(427条)が用意されております。まず株主全員が同意する場合であれば全額の免除が可能です。しかしこれは非常にハードルが高いとされます。次に株主総会の特別決議があれば一部を免除することが可能です。こちらは対象となっている役員等に善意・無重過失が要求されます。定款に定めがある場合、取締役会の決定で一部免除をすることもできます。こちらはさらに要件が加重されており、役員等の善意・無重過失に加え、取締役が2名以上で監査役等が設置されていることが求められます。そして定款で定めることによって責任限定契約を締結し、それにより一部免除をすることも可能です。この契約を予め締結することで責任を一定額に限定できます。対象となるのは業務執行取締役以外の役員等となります。やはり善意・無重過失が求められますがこちらは監査役等の設置は求められておりません。
責任の限度額
上でも触れたように役員等の責任は一部免除できる場合があります。ではその一部とはどのような額なのでしょうか。責任限定契約の場合は予め責任の範囲を定めておくこともできますが、株主総会や取締役会による一部免除の場合は最低責任限度額を超える部分を免除できることとなります。この最低責任限度額とは、(1)1年当たりの報酬等の額に基づいて算定される額と、(2)取締役が有利な条件で新株予約権を引き受けた場合における財産上の利益に相当する額の合計となります(425条1項各号)。この(1)の算定額は役員の地位によって異なっており、代表取締役の場合は6年分、それ以外の業務執行取締役の場合は4年分、それ以外は2年分となります。つまり代表取締役の場合はおよそ6年分の報酬分は賠償する責任を負う可能性があるということです。
コメント
近年、物言う株主(アクティビスト)の活動が活発になってきており、会社に不祥事が発生した場合は積極的に責任追及に乗り出してきております。株主総会の招集請求や現役員の解任動議、社外取締役の選任請求、そして役員への損害賠償請求と立て続けに法的措置を取ってくると言えます。本件でも小林製薬の当時の役員を相手取り約135億円にのぼる賠償請求を提起しております。請求が認容された場合数10~100億円程度の賠償命令が予想されます。同社では定款で取締役会での一部免除を定めておりますが、上でも触れたように善意・無重過失が求められるなど簡単ではないと言えます。以上のように近年では株主代表訴訟も活発化しており東電旧経営陣に対して約13兆円に登る賠償命令も出ております。役員の責任やその範囲、免除の要件やそれを保障するD&O保険など、関連する様々な制度を把握して備えておくことが重要と言えるでしょう。
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