生活保護以下の最低賃金は違法か?
2011/07/02   労務法務, 労働法全般, その他

生活保護以下の最低賃金は違法か?

6月30日、神奈川県内に住むサービス業や保育、学童保育など様々な業種で働く20代から70代の労働者50人が、神奈川労働局が定める県の最低賃金が生活保護水準を下回っているのは憲法や最低賃金法に違反するとして、国を相手取り、最低賃金を時給1000円以上にするよう求めて横浜地裁に出訴した。

神奈川県内の最低賃金と生活保護費

1.神奈川県内の最低賃金
神奈川県内の最低賃金は前年と比べて29円上がり「818円」となったものの、これでも、月に150時間働いても12万2700円にしかならない。

2.生活保護費
生活保護費を時給換算すると、「836円」となる。もっとも、この試算は、法定の最長である月173.8時間働いた場合の時給であり、一般的な労働時間の実態に照らすと、時給換算額は836円をはるかに上回ると考えるべきである。
原告が、最低賃金を1000円以上にと主張する理由はこの部分にある。

最低賃金法と生活保護法

【最低賃金法】
(第9条2項)
地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定めなければならない。
(同条3項)
前項の労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。

【生活保護法】
(第1条)
この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(第3条)
この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
(第4条1項)
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

雑感

生活保護法の各規定を見ると、生活保護受給者に与えられる保護は、彼らが自身の生活の向上のために最大限の努力をしていることを前提に、最低限度の生活の維持に足りない部分を補う意味合いのものである。
その意味合いから考えると、生活保護費として支給される額は、本来、最低限度の生活維持に必要な額より小さいものとなるはずである。

そうすると、それより低い時給しかもらえない労働者は、理論上、最低限度の生活の維持は出来ないこととなる。
最低賃金法9条3項は、生活保護の施策との整合性を考慮要素に最低賃金を定めるよう求めているが、最低賃金として生活保護費を時給換算した836円を下回る時給を設定したことは、同項違反を疑われても仕方がないであろう。

もっとも、最低賃金法9条2項は、最低賃金の設定にあたっては、「通常の事業の賃金支払能力」も考慮要素に入れなければならないとしている。むやみに、労働者の最低賃金を上げてしまうと、賃金を支払う側としては、事業の継続・発展が難しくなるからであろう。
あちこちで事業の継続が危ぶまれるほど最低賃金を上げてしまっては、そもそもの雇用自体が失われるリスクがある。

一方で、生活保護から自立し一生懸命働くと、生活保護を受けている状態より生活が困窮するというのでは、生活保護法1条に規定する「自立の助長」など出来るはずもないのであり、生活保護法のそもそもの趣旨に反する結果となる。

結局、この問題は、「生活保護受給者」対「最低賃金労働者」という図式ではなく、「生活に困窮する者の当面の生活の保護」と「賃金を支払う事業者への援助」のいずれに税金をより多く投入するかという図式でとらえるべき問題であろう。
個人的には、現在の税金の投入度合いは、やはり前者に偏り過ぎているように感じる。昨今叫ばれている税収の低下という難題の解決と共に、税金の投入割合を今一度見直す時期に来ているのではないだろうか。

上間法務行政書士事務所
行政書士 齊藤 源久(さいとう もとひさ)

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